ハンバーガーをこよなく愛し、そのおいしさを探求し続ける、ハンバーガー探求家の松原好秀さん。そんな、ハンバーガー界唯一の存在である松原さんに、一食の主食として満足できる、じっくり食べられるハンバーガーを紹介してもらうこの連載。第19回は、東京・中延「カフェ アルプス」の魅力をじっくり教えてもらいます!

【じっくり食べたいハンバーガー】第19回「CAFE.ALPS」(カフェ アルプス)

今月もいい店をご紹介します。今月は“穴場”ですよ~。品川区のお店です。品川区でハンバーガーと言うと、五反田の「フランクリンアベニュー」、天王洲アイルの「T.Y.HARBOR」などが有名ですが、中延(なかのぶ)にも一軒、いい店があります。「カフェ アルプス」です。

東急池上線・荏原中延駅の改札から30mほど、徒歩約1分で行ける便利なお店です。駅前の小さな商店街を見下ろす2階の店。よく似た名前の「中延駅」からも7~8分ほど。隣駅の戸越銀座や、全長800mのアーケードで知られる武蔵小山の商店街からも歩ける距離なので、散策ついでに寄ってみるプランなどいかがでしょう。

階段を上った2階は“山小屋”です。登山者の宿泊・休憩・避難などのために山の中に建てる小屋。まさにあの雰囲気。店主の橋本さんは登山歴10年超の山好きで、なかでも愛してやまぬのが、白馬、立山、剱岳などで知られる北アルプスの山々。現地から送ってもらった観光用の巨大なポスターが壁にいくつも飾られています。これだけ大写しの山の写真を見せられると、行ってみたくなりますね。遥かなる山の呼び声!

橋本さんは大手外食企業のご出身。その1社15年勤め上げた実績がハンパないことを示すのが、この厨房。これは営業中の写真です。ハンバーガーを作り終えた後、すべての道具を元に戻した“定位置”の写真。4年半経った店とは思えない、見事なCleanliness(清潔さ)! 整理整頓! 惚れ惚れします。

長野県安曇野市の地ビール「穂高ビール」各860円。都内で飲める場所は限られているそう

そんなカフェアルプスのバーガーは全10品。「チーズバーガー」「ベーコンチーズバーガー」などの定番に並んで、「第9番目のバーガー」という不思議な名前のメニューがありますが、これは本日のおすすめ的バーガーで、この日は「アボカドチーズ」でした。

今回は、まず第1のバーガー、最もプレーンな「アルプスバーガー」からいってみましょう。

基本の「アルプスバーガー」980円。サイドはポテトかオニオンリングから選択

高くきっちりとドレス(積み重ね)されたバーガーです。パティはUSブラックアンガスビーフ130g。ブロック肉で仕入れて店で自家挽き。2種類の部位を3種類の粗さに挽き分けています。ギュッと目の詰まった感じの食べ口で、グリルの際にガーリックなども振って、味付けしっかり。「新橋ベーカリー」のバンズも表皮がカリッとしていて、しっかり&カッチリとした印象のバーガーです。

これが基本形。上下計3カ所に塗られたガーリックマヨネーズが「ヒリリ」とよく利いています。次はそれをマイルドにする方向のトッピングをしてみましょう。

「アルパインバーガー」1,130円に「モッツァレラチーズ」120円をトッピング

アルプスのパイナップルバーガー、略して「アルパインバーガー」です。グリルしたシロップ漬けのパインが2枚。そこへさらにモッツァレラチーズをトッピング。ヒリヒリとしたスパイスの利きをやわらげるパインの甘さ、みずみずしさ。後味はマイルドなモッツァレラ味。本来おとなしめなチーズですが、じんわり余韻を残します。淡い甘味とスパイス味が同居するバーガーです。

では今度は逆に、もっと強い味を重ねてみましょう。「タコ デ バーガー」です。グリーンハリッサソースなるものが使われた、この春新登場のバーガーですが、これが大当たり! このソースが加わるだけで劇的な“味変”が起こります。

「タコ デ バーガー」1,380円。レタスはシュレッド、オニオンはアーリーレッド。タコス以上にタコス味!

すごいソースです。輪切りのトマトがトマトサルサのような味になり、ハンバーガーが笑っちゃうぐらい見事なタコス味に変化します。ハリッサ(アリッサ)とは、唐辛子をベースにした北アフリカの調味料。後述する英国人から橋本さんはこれを教わり、自作しました。ハラペーニョをベースに、オリーブオイル、パセリ、コリアンダー、クミン、にんにく等々。

強烈な辛味と酸味のソースなので、ヤワなパティだと負けてしまうところを、アルプスのパティは味付けが強いので、酸味も辛味もしっかり受け止め、プラスに転化。レッドオニオンもトルティーヤチップスも、すべての味がアクティブに、活性化される感じです。アルプスのバーガーにはドンピシャなソースと言えるでしょう。いい武器を手に入れました!

新発売の「クリスピーオニオンリング」630円。大ぶりな玉ねぎを分厚く切ってカリッと揚げた、リッチなオニリン

そんな最高のヒントをくれたのは、同じ荏原中延の駅前で「イカリ醸造」というブルワリーを始めた英国人醸造家のガースさん。なんと今、中延産のクラフトビールがあるんですね。そのガースさんのビールをバッター(衣の生地)に使った「クリスピーオニオンリング」もこの春、アルプスに新登場。コイツをつまみにブリティッシュエールをグビグビやっちゃってください!

入魂の「フレンチトースト」780円。ソースはキャラメル、チョコレート、ブルーベリーの3種類。アパレイユ(卵液)の染みた甘いトーストにバニラアイスが美味!

最後にアルプスの“喫茶”な一面をご紹介。喫茶店とくれば“フレトー”です。アルプスのフレンチトーストは、駅前のベーカリー「ノートル・クゥル」のバタールを使った一品。バットに張った卵液に一晩浸しているので、たっぷり液が染み込んで見た目以上のボリュームです。選べるソースは3種類。私はブルーベリーの酸味が好み。

そんな山好きなカフェのハンバーガー。今回、最も声を大にして言いたいのは「グリーンハリッサ」です。このソースの登場は大きい。遠からず「アルプスにグリーンハリッサあり」と言われるようになるでしょう。冒頭“穴場”と書きましたが、駅前に地ビールのブルワリーもあって、皆さん、いま中延がアツいですよ!

※価格はすべて税込

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※本記事は取材日(2021年2月19日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文・撮影:松原好秀