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〈今夜の自腹飯〉
予算内でおいしいものが食べたい!
食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?
じっくりコトコト煮込む漫莉キッチンならではの老火粥
銀座一丁目から新富町の付近は、隠れた実力店が多い地域でもある。その中で広東のお粥を提供するお店として2020年2月末にオープンしたのが「漫莉キッチン」だ。
お粥というと日本では胃にやさしいことから調子が悪いときなどに食べられることも多いが、中国南部では主食として毎日食べるものとなっている。しかし、地域によって作り方は少しずつ異なり、なかでも広東省の広州と香港で好まれるお粥は、老火粥(ロウ フォー ジョッ)と呼ばれる特別なお粥だそうだ。
お粥にどんな違いがあるのか。あまりよくわからないので聞いてみると、長時間、コトコトと煮込むお粥だという。その時間は、実にまる1日以上。「漫莉キッチン」では2日間も煮込むという。お粥は、多めの水で炊くので1時間ほどでできるものだと思っていたらまったく違うのだ。もちろん、中国にもサッと作るタイプのお粥はあり、多くの地域ではこのタイプの明火粥(ミン フォー ジョッ)と呼ばれるお粥が食べられているそうだ。
ひと口食べてほっこり。干したムール貝の出汁が効いたムール貝粥
老火粥は、米と具材を一緒にじっくり煮込んで作られる。広州では、前日から仕込み、翌朝に食べることが多いそうで、すぐに作れるわけではないことから「明日は老火粥だ!」と楽しみにする、ちょっと特別なお粥だという。そしてそれは、そのままおばあちゃんやお母さんの味として、家庭に受け継がれる味となる。
「漫莉キッチン」で提供するのは、広州出身である漫莉さんの家の味を再現し、さらに料理人である旦那さんの工夫が加えられた3種類のお粥。中でも干しムール貝の出汁が効いたムール貝粥が人気だ。
ムール貝粥はその名の通り、ムール貝が入った粥。2日間かけて旦那さんが老火粥に仕上げることで出汁が出る。たっぷりのムール貝が溶けるほどに柔らかく煮込まれ、ムール貝の濃いながらもやさしい味わいが楽しめるお粥だ。
このほかに、銀杏と湯葉を組み合わせた銀杏粥と、塩漬け鱈から出た旨味と生落花生が身体にうれしい貴妃粥がある。銀杏粥は、長時間煮込むことで銀杏特有の苦みがなくなり、まろやかな味わい。そして最近では、香ばしい落花生の香りが楽しめる貴妃粥も人気だという。
どのお粥もそれぞれ手間と時間がかかっているだけに、売り切れるとすぐに作り足すことができない。ランチも営業していて、900円でお粥セットが食べられることから、ひとつのお粥に注文が集まると、なくなってしまうこともあるという。目当てのお粥がないときは、違う味を楽しむチャンスだろう。
表面はカリッと、中はモチッと。香ばしい大根もち
漫莉さんは、「二日酔いのときや、飲んだ後の締めにはお粥がいい」と語り、一人で訪問してお粥を1杯頼んで帰るだけでも全然かまわないというが、そんな状況でないならば、お粥以外の一品料理も試しておきたい。その中でも「焼き大根もち」は、ぜひ食しておきたい逸品だ。大根もちは、広東省の点心のひとつで、すりおろした大根を使ったものが多いが、こちらでは千切りにした大根を使っている。そこに米粉と干しエビ、チャーシューを入れ、香ばしく焼き上げている。
熱々を頬張ると、表面はカリッとしていて、それでいて中はふんわり、もっちりとした食感が楽しめる。干しエビの香りと、自家製だといううまみの濃いチャーシューがアクセントになっていて、箸が止まらない。2人で食べに行ったとしても、一人一皿ずつで頼んでおきたいくらいだ。
オリーブオイルとキャベツで軽やかなオリジナル餃子
もうひとつ、外したくないのが餃子だ。周囲にオフィスが多く、ランチにも提供していることもあり、同店の餃子はにんにくを使っていない。そして具材は、干しエビ、春雨、豚肉のほか、メインの野菜はキャベツのみといたってシンプル。漫莉さん曰く「餃子はシンプルに楽しむのが一番。ニラなどのほかの野菜を入れてしまうと、キャベツの甘みが消えてしまいます」とのこと。さらに、秀逸なのはキャベツのうまみを引き出すために使っているオリーブオイルだ。一口かぶりつくと、口の中にオリーブオイルのさわやかな香りとキャベツの甘みが広がり、とても軽やか。キャベツに火が通りすぎていないため、シャキシャキ感も残っていて、それも軽やかさを後押ししている。一つひとつが大きく、1皿6個入りとボリューミーだが、ペロリと食べることができてしまう。先ほどの料理とお酒を付けても2,300円ほどなのだからコストパフォーマンスも飛びぬけて良いと言える。
ハイコスパな理由は、おいしいものを食べて喜んでもらいたいから
店の看板料理でもある老火粥は、手間がかかっているにもかかわらず単品でわずか700円。お昼時には、小皿2種にデザートがついて900円というお得さだ。その他の一品メニューも400円~700円が主流とどれも良心的な設定で「こんなに手間がかかっているのに、この価格で大丈夫?」といらぬ心配をしてしまいたくなる。しかし、その理由を漫莉さんは「身体にいいものを、おいしく食べて、そして笑顔になっていただけるだけでうれしいんです。おいしいねと言っていただけることで、私たちもお客様からたくさんのものをいただいています」と語った。それはお金では換算できない、漫莉さんたちの喜びの糧だという。
そんな店主の漫莉さんはとても朗らかで、控えめの笑顔が可愛いらしい女性。料理人の旦那さんとは日本の大学で出会ったそうで、そこからの付き合いだという。店を始める前は、日本と広州を行ったり来たりする仕事をしていたが、昨夏に大好きなお母さんが亡くなられたことで漫莉さんは悲嘆の涙にくれる日々を送っていたそうだ。そんな漫莉さんを元気づけるために、旦那さんがお母さんとの思い出深い老火粥のお店を開くことを提案。この場所に物件を見つけ、2人でアイデアを出し合いながら開店に至ったという。
一方で、照れ屋の旦那さんは、実はバリバリの理系。とはいえ、叔父が広州市の名店「泮溪(ばんけい)酒家」で働いていたことがある厨師だったこともあり、幼いころから「本物」の料理に触れる環境だった。店のオープンにあたっては、叔父さんからのアドバイスも参考にしながら、オリジナルの味をつくりだしてきた。
これからの新常識は、二日酔いやお酒の締めに老火粥
料理はもちろんだが、仲睦まじい2人のやりとりも魅力の「漫莉キッチン」。店名に漫莉さんの名前を入れたのも、旦那さんの提案だそうだ。さらには、漫莉さんの名前を冠した看板も自分のイメージで作りたいと、旦那さんが手書きで作ったというからその愛情の深さがわかる。そして、そんな旦那さんから生み出される料理が、ほっこりとしていて何度でも食べたくなるのも頷ける。
胃が疲れているときや、二日酔いのときはもちろん、お酒の締めの麺の代わりにお粥というのもいいだろう。加えて、お腹も心も満たされたい。そんなときにも通いたくなる店だ。
■食事
・焼き大根もち 400円
・オリジナル焼き餃子 700円
・ムール貝粥 700円
■ドリンク
龍眼棗(ソーダ割) 500円
合計 2,300円
※価格はすべて税抜