【食を制す者、ビジネスを制す】

第6回 混雑する観光地で優雅に食を楽しむ方法

 

旅行に行くといつも思うことがある。

観光地の名所を巡ろうとすれば、どこも人ばかり。名物のおみやげ店や飲食店は必ず行列ができている。人気の温泉に行けば、イモ洗い状態だ。ビジネスパーソンはシーズン時や土日祝日しか休みがとれないから、宿泊代も休前日が一番高い。どうしてこんなに高いおカネを払って、わざわざこんな混雑したところまで来てしまったのだろうかと後悔することも少なくない。もちろん混雑しているからこそ、観光地は楽しいこともある。にぎわいがその場の雰囲気をつくるから、それはそれで楽しめる。

そんなとき、いい方法がある。混雑が予想される観光地に行ったとき、混雑を避けるために、人と違う時間帯に訪れてみると、意外にも楽しめることが多いのだ。例えば、早朝から出発すると、朝9~10時くらいには現地に到着できる。混み始めるのは昼前後だから、観光名所もゆっくりと見られるし、飲食店も開店と同時に入店できて、待たなくてもいい。その分、気分は落ち着いていて、同伴者とのちょっとした小競り合いやケンカも少なくなるはず。帰りも15時くらいなら、予約しなくても新幹線や特急の切符は取りやすいし、帰宅後も疲れをとってゆっくりと夜を過ごすことができる。

 

 

割高なカレーライスと

割安な高級和食ランチ

 

かつて六本木ヒルズがオープンしたころ、面白い現象が起きていた。ランチの時間になったころ、1,000円台の店から行列ができてしまっていたのである。もちろん私だってランチを安くあげたい。そのレベルの店を一通り回ってみたのだが、どこも行列ができている。当時のヒルズのランチは単価が高く、1,000円以上の店のほうが多く、1,000円以下のメニューはカレーライスくらいしかなかった。一方、高い店にはあまり人が入っていない。なんともアンバランスなかたちになっていたのである。

そのとき私は思い切って、1人1,000円のカレーライスではなく、1人3,000円のランチを選んだのである。しかも高級和食店のコース料理だ。夜なら1万円以上からなのだが、昼は3,000~5,000円台の価格になっていた。入店すると、人はほとんどおらず、一番いい席に通された。もちろん料理も満足のいくもので、これで3,000円は安いと思ったし、非常に有意義な時間を過ごすこともできた。1,000円の割高のカレーライスではなく、3,000円の割安な和食のコース料理。そのとき、思ったのだ。大勢の人と違うことをすればいい、と。ランチに関する、たわいのない話と思うかもしれないが、そうしたほうが楽しめることが多かったのである。

 

出典:お店から

大阪の財界関係者が愛する

「道頓堀 今井 本店」のきつねうどん

 

今年のゴールデンウィークに大阪を旅行したときのことだ。人気のある飲食店には人だかりができていて、なかなか入ることができない。しかし、混雑する時間帯を避ければ、人気の飲食店にだって入ることができる。

出典:お店から

例えば、大阪なんばの「道頓堀 今井 本店」は、きつねうどんや親子丼で有名な名店。風情のある店構えだが、外観のイメージとは裏腹に価格はリーズナブルだ。

ランチ時はうどんや親子丼だけを食べる人が多いが、東京の蕎麦屋を使うように酒とつまみを食べたあとに、きつねうどんで〆ることだってできる。松竹座からも近く、観劇目的で来ている人も多く、上品そうな人も少なくない。私は、この店に15時くらいに訪れた。中途半端な時間だったが、通し営業だったので、難なく入店できた。静かな空間で、冷たいビールや冷酒、つまみを食しながら、最後はきつねうどんで〆た。ちなみにそのあとは、また16時からやっているバーに流れたのだが……。

この「道頓堀 今井 本店」は大阪の財界関係者のほか、名のあるビジネスパーソンたちがよく利用している。例えば、日本マイクロソフト元社長で現在、様々なベンチャー企業の取締役や書評サイト、HONZ代表を務める成毛 眞さんも、来阪の際はよく利用していたという。こうした有名店は通し営業なら繁忙時を避けたり、開店時間の少し前に行ったりすると俄然入りやすくなる。また、あまりにも有名店で当日予約が無理そうでも、当日の早い時間なら空きがある可能性も高くなる。

大勢の人が食事をとる18~19時台より、一足早く食事をとることで、混雑を避け、優雅な時間を過ごすことができるのだ。政財界の人や有名人が、観光地で食事をとる場合は、特にこうした使い方をする傾向が強い。私が知っているビジネスパーソンもそう。

日頃、忙しい彼らだからこそ、休日や旅行の際は、いかにリラックスして時間を有意義に使うかに気を遣っているのである。

 

 

 

<著者プロフィール>

國貞文隆 

経済ジャーナリスト。明治、大正、昭和の実業家や企業の歴史にも詳しく、現代ベンチャー経営者の内実にも通じている。著書に『慶應の人脈力』『やはり、肉好きな男は出世する ニッポンの社長生態学』『社長の勉強法』『カリスマ社長の大失敗』がある。お酒大好きで、名バーに行くことが趣味。