〈サク呑み酒場〉

今夜どう? 軽〜く、一杯。もう一杯。

イマドキの酒場事情がオモシロイ。居酒屋を現代解釈したネオ居酒屋にはじまり、進化系カフェに日本酒バー。どこも気の利いたツマミに、こだわりのドリンクが揃うのが共通点だ。ふらっと寄れるアフター5のパラダイスを、食べログマガジン編集部が厳選してお届け!

1階はカウンター、2階はテーブル席。和モダンをベースにした店内。店内にはノリの良い音楽が流れ、客や店員の声が飛び交うライブ感あふれる空間だ。

起業を目指したきっかけは、サラリーマン時代の出会い

店主の遊津(ゆうづ)拓人氏は大学を卒業後、アサヒビールに入社。営業職の仕事を通して「いつかは飲食で独立を」と芽生えた思いは、当時担当した大阪の飲食店を営む社長との出会いによって加速度を増す。2年後に開業することを目標に2017年4月に退職。飲食店での修行を経て2年後の2019年9月、「焼鳥やおや」を20~30代のクリエイターの集う情報発信地、池尻大橋に開店した。器選びにもこだわった和モダンのハイセンスな店内は、熱気あふれる賑わいで連日満席だ。

ヒップホップやソウルを流しながら、焼鳥を焼く店主の遊津氏。イメージしたのは焼鳥屋にありがちな頑固大将ではなく「兄ちゃん系」の職人だという。

酒呑みが焼く酒呑みのための焼鳥は、強めの味が特徴

焼鳥へのおもいが強い遊津氏だが「焼鳥やおや」は地鶏など産地よりも、鮮度と味にこだわり、その時によい国産鶏を仕入れ「おいしくリーズナブルな」焼鳥を提供している。土佐の備長炭でじっくりと焼き上げた焼鳥は、どの酒にも合うよう塩もたれも強めの味付けゆえに一層酒が進む。修業元の大阪にある「炭火焼きとり えんや」の甘めの味をベースにしたオリジナルのたれと、野菜を組み合わせた串が特徴的だ。

「せせり」は香り高い柚子胡椒ポン酢で、「ねぎま」と「つくね」は継ぎ足しのタレで。「こころ」に組み合わせてあるのは玉ねぎだ。そしてうまみたっぷりの米麹味噌に漬けた「とりはらみ」。「砂ずり」にはししとうとセロリが組み合わされている。伊万里や信楽など、盛り付ける皿は現地で買い付けたもの。器を楽しみながら焼鳥を味わえるところにもこだわりが感じられる。

手前右外側から時計回りで、「とりはらみ」180円、「こころ」150円、「せせり」180円、「ねぎま」180円、「つくね」200円、中央に「砂ずり」150円。土佐の備長炭で焼き上げられた香ばしい串のラインナップだ。

野菜との組み合わせが一筋縄ではいかない焼鳥。日本酒は熱燗を合わせて

串物の「せせり」には、なんと刻んだ大葉がたっぷり練り込まれている。豪快な焼鳥と、繊細なひと手間とのギャップが楽しい。焼きたてが運ばれたら熱々の串にかぶりつきたいものだ。練り込まれた大葉と強めの塩は肉に程よく馴染んで風味よく、柚子胡椒ポン酢を添えればなお酒が進む。

大葉の存在感がしっかり生きた「せせり」は、さいたまの「新亀 真穂人(まほと)」650円や、島根の「扶桑鶴」600円、広島の「竹鶴」600円などを、季節を問わず熱燗で合わせて。

中華風あり、エスニック風あり。個性的な一品料理が客を飽きさせない秘密

焼鳥屋に並ぶ酒の肴は定番ものが多いが、「焼鳥やおや」には、定番とされる鶏皮ポン酢や軟骨のから揚げ、出汁巻といったありきたりの一品はない。その代わりにメニューにはジャンルレスの一皿料理がバリエーション豊かに並ぶ。

例えば、「ウニマヨ半熟玉子」はどこかフレンチ風。「パリパリピーマンと麻婆肉味噌」は生のピーマンを使いながらもえぐみがなく、花山椒と豆板醤のピリ辛にカラフルなゴマが彩りを添える。

見た目のインパクトが抜群の「スパイシーチューリップ」はジャークチキンを思わせるようなスパイシーさでビールによく合いそうだ。そして〆にぴったり、「やおやのチキンカレー」は、マイルドながらスパイスがたっぷり使われている。いずれもいわゆる酒のアテでありながら、焼鳥屋の概念を覆すような逸品揃いだ。

手前右から時計回りで、「ウニマヨ半熟玉子」480円、「やおやのチキンカレー」900円、「パリパリピーマンと麻婆肉味噌」580円、「スパイシーチューリップ」680円。

評判の「ウニマヨ半熟玉子」に合わせるならこの酒がおもしろい!

ウニマヨ半熟玉子は「ネクストバッターズサークル」の品から展開している、「焼鳥やおや」の人気メニュー。どんな酒とも相性良しとのことだが、遊津氏があえて選んだのは、神奈川海老名産の「いづみ橋」。濃厚な練ウニのソースと、トロッとした半熟卵のほのかな甘さは、コクのある日本酒がぴったり。この店へ来たら、ぜひ試したい組み合わせの一つだ。

人気の「ウニマヨ半熟玉子」480円は、どこか懐かしさを感じさせる練ウニベースのソースが濃厚な味わい。負けずにコクのある日本酒、神奈川海老名の「いづみ橋」650円を合わせて。

カレー専門店も脱帽? オリジナルのスパイシーなチキンカレー

最後の〆にはずせないのが、「やおやのチキンカレー」だ。スパイスが惜しげなく使われているが、辛過ぎることなくむしろマイルドながらも奥の深い味。辛さよりも自然なうまみとスパイスが程よいバランスで調和している。こんなカレーに合わせるのは、あえて「ビオワイン」。大阪の酒屋の社員がフランスへ渡ってつくっている、ナチュールワインを合わせれば、ジューシーかつスパイシーな味わいがマッチする。

〆に食べたい「やおやのチキンカレー」900円は、あえて居酒屋のカレーではなく本格派。とっておきのナチュールワイン「ガンガンメルローマルベック」と一緒に。

チューハイ好きには見逃せない、追いチューハイでさらにリーズナブルに

こだわりの酒が並ぶ一方で、カジュアルに飲みたい客にとって、焼酎のラインナップが豊富なのはありがたい。サクッと飲むなら「ガリ」や、カットしたレモンがごろごろ入った「ゴロゴロレモンチューハイ」が人気。1杯飲んだらこちらにプレーンを足して「追いチューハイ」すれば、さらにリーズナブルに楽しめる。料理に合わせて、炭酸をきかせた焼酎ソーダや、ロックなど飲みわけるのも面白い。

看板メニューの一つ、豆板醤と花椒がきいた「パリパリピーマンと麻婆肉味噌」580円。合わせて、奄美の黒糖焼酎「長雲 一番橋」を焼酎ソーダでオーダーしたい。

料理と酒を自由に楽しめる、思わぬ組み合わせを掛け算で提案

「焼鳥には、夏でも日本酒を熱燗ですすめたい」というのが氏のこだわり。日本酒本来の風味を楽しめるうえ、酔いが早く次の日に残りにくいという。さらに食欲も増進させてうまみ成分も増すため、料理との口内調味が楽しめるとのこと。

日本酒だけでなく、焼酎、ビール、ハイボール、ワインと品数も豊富だが、同じ料理でも合わせるお酒によって幾通りにも味わいの妙を楽しむことができる。メーカー出身だけあって、料理がよりおいしく感じられる飲み方を提案してくれる氏の提案に身をゆだねてみたい。

左端から、奄美の黒糖焼酎「長雲 一番橋」550円/グラス、海老名の「いづみ橋」650円/グラス、さいたまの「真穂人(まほと)」650円/グラス、島根の「扶桑鶴」600円/グラス、広島の「竹鶴」600円/グラス、ナチュールワイン「ガンガンメルローマルベック」4,500円/ボトル。

日本のブルックリン、活気あふれる池尻大橋に今夜も人が集まる

池尻大橋は著名人や若手のクリエイターなどが数多く集まる街。「焼鳥やおや」も、焼鳥屋としてのアイデンティティは残しながら、遊津氏の感じる「今、かっこいいもの」が随所に取り入れられている。そこには酒とつまみをはじめ、接客スタイルも含めて創られた、独特の世界観が広がる。

土地柄ハイセンスな客層だが、どんな人でも肩肘はらずに「素」でお酒や料理を楽しめるようにと過度な接客はしないのが「焼鳥やおや」流。気軽な友人とワイワイするもよし、地元の住民が1人でふらっとハイボールだけ飲んで帰るのもよし。旨いつまみと酒を目当てに、池尻の夜を自由に楽しみたい。

香ばしい焼鳥の香りに、客や店員たちのワイワイとにぎやかな声が響く。池尻の夜はこれから、とばかりに次々と客を吸い込んでいく。
【今夜のお会計】
パーソン:女性2人
■料理
・せせり 180円×2本
・ねぎま 180円×2本
・つくね 200円×2本
・こころ 150円×1本
・とりはらみ 180円×2本
・砂ずり 150円×1本
・パリパリピーマンと麻婆肉味噌 580円
・やおやのチキンカレー 900円
・ウニマヨ半熟卵 480円
・スパイシーチューリップ 680円

■ドリンク
・ガリ 580円
・ゴロゴロレモンチューハイ 580円
・追いチューハイ 400円×2杯
・日本酒熱燗 900円 1合

合計 7,280円(1人 3,640円)

※価格はすべて税抜

 

取材:坂口あや(grooo)
文:増山順子(grooo)
撮影:松村宇洋