〈食べログ3.5以下のうまい店〉
グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はグルメライター小寺慶子さんがおすすめする、東新宿にある隠れ家ビストロをご紹介。
教えてくれた人
小寺慶子
肉を糧に生きる肉食系ライターとして、さまざまなレストラン誌やカルチャー誌などに執筆。強靭な胃袋と持ち前の食いしん坊根性を武器に国内外の食べ歩きに励む。趣味はひとり焼肉と肉旅(ミートリップ)、酒場で食べ物回文を考えること。「イカも好き、鱚もかい?」
初回で迷わずたどり着くのは不可能!? 雑居ビルの一角に佇む驚旨ビストロ
巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。
1990年代の後半はまだ「歌舞伎町に隣接したディープなエリア」というイメージが強かった東新宿。黄色の電飾が輝く大型ディスカウントストアがオープンした頃から第一次韓流ブームが巻き起こる2000年代のはじめまで、多くの日本人にとっては“未知の領域”であったが、今ではすっかり日本最大級のコリアンタウンとして、老若男女を問わずに賑わう街へと生まれ変わった。そんな大久保エリアで食を楽しむとなると、本場気分で楽しめる韓流グルメがまず頭に浮かぶが、食べることが好きな大人のソウルを満たしているのが、大江戸線の東新宿駅に近い雑居ビルに店を構える「umedaya」だ。
いわゆる「隠れ家」と言われるレストランに通い慣れた人でも「まさか、こんな場所に」と尻込みするほど、マニアックなロケーション。雑居ビルのスロープを進むと左手に小さな入り口が。扉を開くと変形カウンターのみの8坪ほどの空間が現れ、想像よりもアットホームな雰囲気にほっと胸を撫でおろす。店主の手塚佳典さんが手書きのメニューを差し出してくれるのでアラカルトで好きなものを好きなだけオーダーしたい。秘密基地のような雰囲気も相まってこれから出される料理への期待も高まる。
料理のハイセンスぶりに稲妻が走る!
柔和な表情とおだやかな口調。接客も調理をする姿も自然体で、料理を提供するテンポもじつにリズミカル。亀戸「梅田屋 本店」が経営母体の同店で料理の腕を振るう手塚佳典さんは新宿の調理師専門学校を卒業した後、ブーランジェリーや都内のフランス料理店でも働いた。どんなに手間をかけようと良い素材を使おうと、おいしい料理は作る人のセンスと腕にかかっている、というのは当たり前のようでいてそれを心の底から実感することは意外と少ない。ところが、手塚さんの料理は食材使いも盛りつけも一見、シンプルなようでいて、想像を軽々と超えた“驚旨“な味で食べ手の心をぐいぐいと惹きつけるのだ。