前編では井上芳雄さんご本人をクローズアップしました。後編では「ミュージカルスターの食生活」に迫りつつ、「S’ACCAPAU」のアーティスティックな料理たちを一部ご紹介。
全国グルメ行脚
料理:サワラ 菜の花 カブ
脂が乗った旬のサワラ(3月撮影時)を薫製に。「薫製によってうま味がすごく引き出されていますね。舌に上質な脂が残っています」
編集部、以下・編 食べログって使ったことありますか?
井上芳雄、以下・井 ミュージカル公演で全国津々浦々回ることが多いので、地方の美味しい物を食べ歩くのもひとつの楽しみ。
その時はやっぱり「食べログ」をよく使いますよ。持ち上げるわけじゃないですけど(笑)。
グルメな人に教えてもらったり、メディアで見たお店の情報は食べログの“行きたい”に登録しておいて、その土地に行く時に見返します。
編 使いこなしている……!
井 お店の情報って案外忘れがちなので、食べログをリマインダー機能として使うと便利なんですよね。これも持ち上げているわけじゃないですけど(笑)。
編 ありがとうございます! 最近行って良かったお店ってありますか?
井 大阪の北新地にあるカウンター6席の隠れ家ワインバーが面白かったです。
いるのはマスターひとりだけ。奥の狭い厨房の中でこんろと小さいお鍋ひとつで、本格的なフレンチ料理を作り上げている、魔法のようなレストランでした。
食についての知識が豊富で、食事に合わせたワインを提供してくれました。料理とワインの「マリアージュ=結婚」というものでしょうか?
ワインを飲み始めた頃は「マリアージュ」と言われると、口の中で料理とお酒を一緒にしないといけないと勘違いしていたので、ご飯食べた瞬間に急いでワイン飲んでいた時もありました(笑)。
東京ワイルドめし
料理:シチリアンドッグ ? トマト
遊び心たっぷりなアメリカンドッグ風ソーセージ。「アメリカンドッグっぽいけど、ソーセージが全然違います。屋台では絶対売っていない味!」
編 最近食べた中で思い出に残っているひと皿は?
井 恵比寿にある「ロウリーズ・ザ・プライムリブ東京」のローストビーフ。両親が福岡から東京へ舞台を見に来てくれた際、父親の退職祝いを兼ねて家族みんなで行きました。
おしゃれな雰囲気と美味しいお肉に感動しました。事前にサプライズでケーキも用意していたのですが、周りのお客さんも10組くらいお祝いしていて(笑)。
編 アニバーサリーにピッタリなお店ですよね。
井 まだ“ローストビーフ熱”が冷めません。お肉が山盛りにのっているローストビーフ丼もいつか食べてみたいなぁ。
あと、ジビエ料理で有名な西麻布の「またぎ」というお店も印象的でした。
以前、猟師の役をする機会があったので勉強したいと思ってお伺いしたんです。店主はご自身でも猟師経験があり、サバイバルな体験談を語ってくれました。
熊、猪、鹿など、普段なかなか食べることがない貴重なジビエ料理を堪能しました。
プリンスロードを歩くまで
料理:タリオリーニ タイラガイ 黒ニンニク
タイラガイとアスパラのソースを使ったパスタ。「タイラガイの貝殻が器になっていて、ビックリしました。これは楽しい!」
編 チェーン店って行ったことあります?
井 もちろん! いまになってやっとそれなりにいい店にも行けるようになりましたが、学生時代はお金がなかったので、チェーン店の居酒屋ばかりでした。
僕の中で一番イケてると思っていた居酒屋は「甘太郎」。料理が美味しいし、カラオケも併設してあってコスパがいいんですよね。
編 井上さんの生歌が聞けるなんて、コスパ破壊!
井 酔うとついつい歌いたくなってしまって。女子ウケがいいと勝手に思っていたMr.Childrenさんの「シーソーゲーム」なんかをよく歌っていました。
小学生でシェフデビュー!?
編 料理ってされますか?
井 僕の自炊デビューはとても早くて小学校3年生の時でした。
夏休みの初日、母親が急に「今年の夏休み、1カ月間はお昼ご飯を全部あなたに任せる。お金を掛けてもいいから、毎日自分で作ってね。」と言われたんです。
すごく驚きましたが、渡された“子どもの料理本”のような物を参考にして自分で材料を買ってきて、見よう見まねで作っていくうちにだんだん楽しくなる感覚がありました。
編 料理の才能もあるとは……。お母さまの意図が気になります。
井 母親は育児カウンセラーをしていたこともあり、児童教育の専門家なんです。そこで“我が子が9歳までにひとりでご飯を炊けて、1品おかずを作れるようになれば子育ては成功した”という定義があるらしく、それを実践したみたいです。
編 超成功例じゃないですか!
王子はお料理も得意なんです
料理:ウサギ 人参 ドライトマト
ウサギのお肉はヨーロッパだとポピュラー。こちらはハンガリーのウサギ。「味がしっかりしています。ジビエ好きには堪らない」
編 いまも自炊しますか?
井 その時の影響もあってまだ好きです。冬はいろんな鍋を作って食べます。特に、“ピェンロー”という白菜鍋が得意レシピ。舞台美術家の妹尾河童さんが著書『河童のスケッチブック』で紹介し一躍有名になった鍋です。
編 もしやだしとか取るんですか……。
井 やります。干しシイタケからとっただしに、豚や鶏肉、春雨を入れたシンプルな鍋。味付けは塩。お好みで一味唐辛子を入れても美味しい。
編 シンプルかつ豪快な男の鍋料理ですね!
東京コンプレックス
料理:ブラッドオレンジ ハチミツ ヤギのリコッタ
ワインと合わせてちょうどいい甘さになるように作られている。「チーズの風味がすごい。甘過ぎないので、スイーツが苦手な人にも◎」
編 ついにデザートですが、お料理いかがでしたか?
井 お洒落で都会的。東京らしい洗練されたお料理でした。西麻布のイタリアンと聞くと、それだけでおしゃれですよね(笑)。
福岡出身なんですが、やはり、上京当時は東京への憧れと同時にコンプレックスもありました。地方出身者の方なら誰しも経験したことはあるのではないでしょうか。
地図を見ずにさっそうとオフィス街を闊歩する人たちを見ると「さすが東京人だな。」といつも圧倒されていました。
なので、「井上さんって東京生まれですか?」と言われるとちょっとうれしかったりもする(笑)。
編 意外とみんな迷っている気がしますけどね。
井 ですよね。住んでみてわかったことですが、実は東京は僕のような地方出身者の集まり。
みんな地元や両親を離れ、甘酸っぱいノスタルジーに思いをはせながらも、自分を奮い立たせて大都会の東京で戦っている。そう思うと、共に切磋琢磨し合う仲間みたいな気持ちになったりもしますね。
逆風も追風にする
編 まさに順風満帆な人生といったイメージですが、つまずいたことってあるんですか……。
井 意外とあります(笑)。中学生の時にアメリカに1年間、家族と一緒に現地の学校に留学した経験があるんですが、当時、全く英語がわからなかった。
そんな状態で飛び込んだので、周りのクラスメイトとコミュニケーションが取れないために赤ちゃん扱いされ、毎日泣きながら学校に行っていました。
編 井上さんが!?
井 日本では生徒会長などのリーダー役が多く自信家だったこともあり、自尊心がボロボロに。思春期の僕にとっては想像以上に大変で、苦い経験ですね。
編 アメリカでの食事はいかがでしたか?
井 嫌いじゃなかったです。冷凍で「チン」するワッフルや、自分で作るチョコチップクッキーなど。いま思い返すとかなりジャンキーだと思うのですが、よく食べていました。
1年間の海外留学もいまとなってはいい経験。新しい環境に戸惑ったり悩んだりしながらも、自分なりにそしゃくして、対応する適応力や自己表現力が自然と身に付きました。
この“柔軟性”や“変化を恐れない心”は、役者生活でも大いに活かされていると思います。
編 さすが何ひとつ無駄にしない男!
ミュージカル・ホリック
編 仕事のために我慢している食べ物ってありますか?
井 常に最高の演技をお客さんに観ていただきたいので、公演中は生ものを口にしません。生牡蠣や貝類などは大好物なのですが、あたってしまったらどうしようもないので。
編 体調管理を徹底されているんですね。
井 一種の「ワーカホリック」かもしれません。休日でもジムや病院やマッサージに行ってメンテナンスをし、休みなのにずっと仕事のことを考えていることもあるくらいですから。
編 息抜きできないのでは?
井 いえ、純粋に仕事が好きなので。休みは3日あったら飽きますが、仕事はやればやるほどできないことが見つかってどんどん楽しくなる。
新しくて優秀なミュージカル男優たちが次々に出てくるので、「ちょっとでも休んだら自分が必要とされなくなるかも。」って自分を追い込んでいるんです。
編 王子、貪欲。
井 ただ、もし長い休みがあって、仕事のことを気にせずに好きなことをしていいのであれば、海外に行きたいです。今一番行ってみたい国はトルコ。海外をよく知っている人にお薦めの国を聞くとトルコっていう人が多くて。
旅行もひとつの新しい体験ですから、美しい自然や美味しいご飯に癒やされてリフレッシュし、仕事での表現するエネルギーをたっぷりチャージしてきたいと思います。
編 尊敬すべきワーカホリック!
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写真/宮崎健太郎 @REP ONE、スタイリング/吉田ナオキ、ヘアメイク/川端富生