〈食べログ3.5以下のうまい店〉
巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。
そこで、グルメに精通したあの人にお願いして、まだまだ知られていないとっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、大阪在住のライター・猫田しげるさんが、高級住宅街のマダムを虜にする本格中国料理店をご紹介。
教えてくれる人
猫田しげる
20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「あまから手帖」「FRIDAYデジタル」「旅の手帖」などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。
高級住宅街に相応しい、新たなスタイルの「ガチ中華」
「ここは芦屋より富裕層が住むエリアやで」と兵庫県民のカメラマンが言っていました。炎上すると困るので「どっちも富裕層エリアだよ!」とフォローしましたが、確かに苦楽園口、道行く人も車も犬までも、そこはかとなくハイソで品が良い……!
だから「滕王閣」にも、小綺麗な装いのマダムやお利口そうな子供を連れたファミリーが訪れます。阪急苦楽園口駅から苦楽園口通りの坂を上がって6分ほどの建物2階にあるんですが、駅から歩いて来る客なんて自分ぐらいだろうな。
しかしこの店、瀟洒な雰囲気と裏腹に、料理は「目ん玉飛び出るほど高い」わけではないんです。ランチコース2,750円、単品でも鮑の黄金ソース2,000円……と“ちょい贅沢”ぐらいの感覚。シェフはなんと、オーナーが中国・天津から招聘した五つ星ホテル歴任の敏腕料理人。「全聚德」「ビクトリア インターナショナル ホテル – 天津」「リッツ・カールトン」など名だたる高級店を経験してきた杜宝華さんです。
猫田さん
オーナー曰く「高級住宅街にガチ中華料理の店はあまりないので、本場のおいしさを知ってほしくて」とのこと。ガチとは言えヌーベルシノワを取り入れていて、盛り付けも大変上品。さすがホテル中華出身です。
ちなみにオーナーは江西省出身の渡部蕾さんという女性。日本語が上手すぎて最初は中国の方だと気付きませんでした。現在は杜さんが一人で厨房に立つんですが「中国に料理人を探しに行って何人か来たのですが、杜さんが料理にストイックすぎて誰もついてこられなくて……」とのこと。
とにかく、完璧な味への追求心たるや。食材も調味料も可能な限り中国から仕入れ、良いものが手に入らない時はその料理は作らない。妥協しない。誤魔化さない。そりゃ杜さんの下で働くの大変だろうなー!(笑)
エビと鶏肉が唐辛子に埋もれる料理
前口上はこのへんにして、その腕前を発揮した料理をご紹介。まず軽いジャブ程度に、「四川鶏爆虾蝦」。と言ってもどんな料理か分からないですよね。要するに「鶏とエビの唐揚げを唐辛子と花椒で炒めためっちゃ辛い料理」です。現地では唐辛子の中に埋もれた鶏を探して食べるぐらいの真っ赤な料理。
猫田さん
エリア的に子供さんや年配の方が多いので、激辛にはせず唐辛子は控えめにしているそう。でも唐辛子モリモリにして!という要望にも応じてくれます。
鶏もも肉と天使の海老に塩やニンニクで下味を付け、衣をつけてじっくり揚げる。それを四川唐辛子、花椒などとサッと炒めて完成。出来たてを頬張ると、サクッと音が出るほど軽快な衣の中にホクホクのエビ、ジューシーな鶏肉。花椒の香りとシビレ感がガツンと後から来ます。
遊び心で唐辛子を口に含んでみると……むっちゃ辛いけどけっこうイケる。そう、四川の唐辛子は辛いだけでなく甘みもあり、香辛料というより「野菜」なのです。
日本で食べられる店は少ない「酸湯羊肉」
次は「酸湯羊肉」。字面でなんとなく分かりますが、酸味が利いた羊のスープ料理ってことです。四川の代表的なメニューで、黄緑がかったスープに、ラム薄切り肉、高菜、春雨、そしてたっぷりの青唐辛子。スープというよりしゃぶしゃぶと呼ぶべきでしょうね。一口すすってみると……旨い! 辛い! でもどことなくクリーミー!
こちらは鶏ガラスープをベースに、日本ではなかなか手に入らない「黄唐辛子」で作ったチリソース「黄辣椒醤(ファンラージャオジャン)」で辛みをつけているとのこと。そこに牛乳を加えることでマイルドな口当たりに仕上げているんです。ラムはクセがないけど羊らしい香りがしっかりあり、羊好きにはたまらんわい。
猫田さん
すくってもすくっても肉が出てきて、無限ラムや~!と小躍りしたくなります。実に匙の止まらないスープ(というよりほとんど具)です。