〈これが推し麺!〉
ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。
今回訪れたのは、食べロググルメ著名人・柏原光太郎さんがおすすめする中国料理店「赤坂 華悦樓」。この一杯でふかひれの姿煮のうまみを十分味わえると絶賛の「ふかひれの煮込みつゆそば」を紹介する。
教えてくれる人
柏原光太郎
日本ガストロノミー協会会長。大学卒業後、出版社に勤務し、グルメ本を手がけたことで食の奥深さに目覚める。料理は作ることも食べることも大好きで、一人娘の弁当を毎日作っていたことも。料理好きのための食の発信基地としての役割を担うべく2017年12月社団法人「日本ガストロノミー協会」を設立。
ふかひれがメインでありながらハイコスパと評判
大型ザメのヒレを乾燥させたふかひれは、中国料理における高級食材の代名詞。「赤坂 華悦樓」は、このふかひれをメニューのメインに、2017年にオープンした中国料理店。赤坂見附駅から一ツ木通りに向かう通りに面したビルの3階という目立たない立地ながら、隠れた名店として足繁く通うファンも多い。
柏原さん
ふかひれ専門店で料理長を6年務めた料理人の店が赤坂にできたと聞いてうかがいました。ランチがリーズナブルなのも驚きました。
オーナーシェフの服部憲作さんは、静岡県焼津市の「中国パレス」をスタートに、都内各店で修業を重ね、ふかひれ料理で有名な「筑紫樓(ツクシロウ) 丸の内店」の料理長を6年務め上げた実力派。店名には、中華料理で悦(よろこ)んでほしいとの思いが込められている。
「中国料理で王道のふかひれは、誰もが真っ先に思い浮べる高級食材。前職でもお客様の期待の高さは感じており、ふかひれをメインに据えました」と服部さん。
ふかひれはすべて気仙沼産。水揚げ量が多いこともあるが、気仙沼の気候はサメのヒレを乾燥させるのに最適で、加工技術も高いという。
店で主に扱うのは、ヨシキリザメ(葦切鮫)とモウカザメ(毛鹿鮫)。「姿煮には質の高いモウカザメの尾ビレ、リーズナブルな料理にはヨシキリザメの胸ビレやほぐれた繊維を活用するなど、サメの種類や部位で使い分けています。比較的安価に提供できるのは、信頼できる納入業者さんの応援も大きいですね」と服部さん。
白濁、黄金色の2種類のスープと合わせ調味料が味の決め手
とろみの強いあんかけスープでいただく、こちらのつゆそば。太めの麺ではふかひれの味だけ先にきて、あとが麺だけになってしまう。そこで製麺業者と二人三脚で完成させたのが、特注の細麺だ。
「おいしく味わうためにはあんかけが麺によくからみ、ずるっと一緒に食べられることが重要になります。試行錯誤の末、準強力粉2種をブレンドし、卵も少し多めに入れて、低温熟成でねかせた細麺にたどりつきました」と服部さん。
柏原さん
コラーゲンの利いた粘り気のあるスープにうまくからみ合うよう、特注の細麺が使われています。
ふかひれは、モウカザメの尾ビレの下処理の際にほぐれてしまった部分や、ヨシキリザメの胸ビレの割れている部分などをミックスしたものを使う。「食感的に、ふかひれのじゃまにならない程度に水煮タケノコの千切りも加えています」(服部さん)
ふかひれを煮込むスープのベースは、鶏のコラーゲンと豚肉を終始強火で7時間かけて煮込んだ白湯(パイタン)と、2.5~3kgはある大きめの丸鶏を弱火でじっくり炊いた黄金色の老鶏湯(ロウチータン)。
「これらを合わせることで、ふかひれに含まれるコラーゲンの吸収率が高まり、奥行きのあるコクとうまみが生まれます。和食と同じで中国料理もスープは基本、だしが命。多少材料費がかかっても、スープがおいしいことが何より大切です」と服部さん。
柏原さん
スープは、これまでの経験をベースにして服部スタイルにブラッシュアップ。鶏は関節部を多めに、スープまでもふかひれが香るふくよかな味。とろみがたっぷりで食べ終わるまで熱々です。
作り方を見ていこう。熱した中華鍋にネギ油をひき、老鶏湯、紹興酒、白湯を加え、塩こしょう、オイスターソースベースの合わせ調味料で味を調えたらふかひれとタケノコを投入。火を止めて、薄めの水溶き片栗粉を少量ずつ加えながらとろみをつけ、仕上げにコクが出る鶏油(チーユ)を落としたら完成だ。
「ふかひれが縮まないよう投入したら火を止めることがポイントです。そのままじっくりなじませてから、火力全開にして仕上げます」
目の前に出された「ふかひれの煮込みつゆそば」は、麺が見えないほどあんかけスープがたっぷり。箸を入れて引き上げてみると、なるほど、麺一本一本にとろみのあるあんかけがからみ、絶妙なバランスのまま口に運べて、2種のふかひれの存在もしっかり。
オイスターソースの甘味の中にキリッとキレのようなものも感じられ、得も言われぬ味わいとはこういうことかと思わされる。かなり熱い料理ではあるがコラーゲンがたっぷりで、夏場でもオーダーがよく入るという。
柏原さん
具材がシンプルなので、スープの奥深いうまみがより際立っているのを感じます。ランチセットにはご飯が付くので、最後に丼のようにしていただくのもおいしいです。
ということでやってみたのが、あんかけスープのオンザライス。ふかひれを巻き込んだ味わい深いあんかけスープが白いご飯に合わないわけがなく、一杯で麺とご飯の2通りのおいしさを楽しめて一挙両得だ。
「はじめにあんかけの上澄みをご飯にかけて麺と並行して味わったり、麺を食べきってからあんをご飯にかけたり、ご飯を丼の中に入れて味わったりとご自由にどうぞ。紅酢や黒酢をかけてもおいしいですよ」と服部さん。
口の中をさっぱり整えてくれる食後のデザート、杏仁豆腐もこれまた絶品。動物性と植物性、3種のクリームを、濃度を変えて組み合わせてあり「ご要望に応え、ランチでもディナーと同じサイズで提供しています」と服部さん。