〈福岡人のローカル飯〉

ラーメンやもつ鍋もいいけれど、絶対にこの場所でしか味わえない福岡のローカルフードがこちら。自然あふれる西公園のほぼ頂上・中央展望広場の一角にある「今屋のハンバーガー」です。御年76歳の店主が作る絶品バーガーを求め、いざ出発!

教えてくれたのは

森 絵里花

福岡生まれ博多湾育ち。地元タウン誌やグルメ情報誌、料理専門誌、WEBマガジンなどを中心に活動。ランチ、カフェ、星付き店から路地裏の酒場まで、オールマイティに楽しむ呑み食い道楽 兼 グルメライター。

“ばりうま”。思わず声が出る、唯一無二のバーガー

出来立ての熱々をガブリと頬張れば、サクッ、フワッ、じゅわっ、シャキッ……! 食感と旨みが弾ける、堪えられないおいしさ。
「福岡で、これは絶対に食べてほしい! 」
物心付く前から西公園でどんぐりを拾ってきた私が、地元民が、心から愛するローカルフード。週末ともなれば閉店を待たずして売り切れてしまう逸品、それが「今屋のハンバーガー」です。はじめての人は、不思議に思うことでしょう。「ハンバーガーなの? ホットドッグなの?」と。“なぜこの形になったのか” 、今回はそんな秘密も探っていきたいと思います。

目指すは頂上! レッツハイク!

春は約3,000本の桜が咲き誇る、桜の名所としても知られる「西公園」

福岡の中心部・天神から車で約10分。自生のマツやシイが生い茂る、自然豊かな西公園へやって来ました。目指すのは、この頂上にある中央展望広場です。
公園と言っても全体が丘陵地となっており、園内はさながら小さな山のよう。しっとりとした散策路を歩き、福岡藩・黒田官兵衛と長政を祀る「光雲(てるも)神社」に参拝し、小さなアーチを抜けて……。もう、気分はハイキング。時間のない人でも頂上まで車で登れます。

船を思わせるオブジェが目を引く中央展望広場。ベンチもたくさんあります

ワクワク、ソワソワ。はやる気持ちでたどり着いた中央展望広場。“博多湾や志賀島が見える! 空が広い! 風が気持ちいい!”なんて景観に浸るのは後です。広場の片隅に、ひっそりとたたずむ「今屋のハンバーガー」へ急ぐのです!

丘を登った先に残る昭和の薫り……

そこかしこでくつろいでいる地域猫の姿にもほっこり

赤いひさし、レトロなパラソルと鯉のぼり、そして「今屋のホットドック 全国三位に入りました。」の看板も目印に。一見すると屋台のようですが、実はキッチンカー。創業して49年、かつて移動販売をしていたころから使っているというワゴンは年季が入っており、実にいい味を醸し出しています。

いつ来ても変わらない姿……と思ったらいつの間にかファサードが水玉からチェッカーフラッグ柄に変わっていました!

両開きのバックドアを開くと、カウンターが現れる仕組み。その先には、黒く光る鉄板と白いコックコートを着た店主・今崎勝美さんの姿があります。
注文いいですか?と声をかけると、中から元気な声が響きました。

一人で店を切り盛りする店主の今崎さん

「はーい! どうぞ〜!」
にっこりと笑顔を向けてくれた76歳、現役バリバリの今崎さん。店を始めたのは、ホットドッグを販売していた友人から、このキッチンカーを譲り受けたことがきっかけです。創業当時はハムのような加工肉を揚げ、それをパンに挟んだホットドッグを“ハンバーグ”という名で売っていたそう。しかし、ハンバーガーのチェーン店が増えるにつれてだんだんと売れ行きが悪くなっていったのだとか。

メニューは全部で12種類!

そこで「自分もハンバーガーを作ろう」と考え、独学で試行錯誤。こうして生み出されたのが「今屋のハンバーガー」です。中身はハンバーグやフランクフルト、形はホットドッグ。だからメニューには「今屋のホットドッグ」とも書いているわけですね。

1時間以上煮込んで作るソースや自家製ハンバーグ、焼き立ての熱々にこだわる今屋の味は次第に評判となり、2007年には「カーセンサーエッジ」という雑誌で「新・ハンバーガー愛好会」が選んだバーガーとして全国3位に輝いたのだとか。