【おいしいパンのある町へ】

Vol.2
東京・中野「LA CLOCHETTE(ラ クロシェット)」

 

新宿から、中央線・快速で一駅。改札を出るなり、その活気に圧倒される街「中野」。シニア世代から家族連れ、学生、ミュージシャン風の若者たち……多種多様な顔ぶれが印象的なこの街には、都心の喧騒とも下町感ともどこか違った、独特な空気が流れる。

 

そんな街の人々の生活に根付く「中野サンモール商店街」を通り抜け、歩き進むこと約10分。家屋やアパートが並ぶ住宅街にあるのが、グリーンとウッドの色味が一際目を引くパン屋「ラ クロシェット」

街選びの決め手は、気取らない雰囲気

「“クロシェット”とは、フランス語で“鈴”という意味。僕の苗字から取りました」と語るのは、オーナーの鈴木暁(すずき・ぎょう)さん。幼いころからとにかくパンが大好きで、大学を卒業するとともに東京のベーカリーに就職。10年前に独立し、この店をオープンした。

独立する際に「気張らずに淡々と、丁寧な仕事をしたい」と決めていたという鈴木さん。そんな彼が、中野を選んだ理由とは? 「通勤のために自転車で毎日この街を通っていたのですが、ごちゃっとした街並みが好きで。住んでいる人もお店も、気取っていなくて、すごく落ち着くんですよ」

「こだわり抜いた高級パン」よりも「値段以上の価値があるパン」

「個人的な嗜好ですが、とことん素材にこだわった高級パンよりも、丁寧に作られていて、おいしいのにリーズナブルなパンが好き。お客さんが食べたときに“値段の割に、ちゃんとしているな”と感じてもらえるようなパン作りを心がけています」。そんなモットーの通り、ベーシックな素材にひと手間かけることで、よりおいしく仕上げることに注力しているという鈴木さん。

その活力になっているのは、お客さんからの「おいしい!」という言葉。大通りから入り組んだ立地ながら、午後2時を過ぎるとほとんどの商品が売り切れてしまうという盛況ぶりは、口コミのおかげだとか。「よく“おいしいと聞いて、来てみた”と声をかけていただきます。そう言ってもらえるのが、一番うれしいですよね」


「温かみを感じられる空間にしたい」とオーダーしたという内装は、白とウッドの素朴な色味にほっこり。ディスプレイは、広い店内スペースを贅沢に使用したデザイン。バラエティに富んだパンをしっかりと見渡せ、選びやすいのがうれしい。

中野の町で愛される“ひと手間パン”。人気のメニューはこちら

細い路地までびっちりと飲食店が軒を連ねる中野で、住民の心を掴んで離さない“お値段以上の価値があるパン”。オーナーの“ひと手間”が光る60種類ものパンのなかでも、とくに人気が高い商品がこちら。

リピート率ダントツ1位の「クロワッサン」

「僕自身、パンのなかで一番好きなんです。そのぶん思い入れも大きくて。納得のいく味を出すのに、2年ほどかかりました」。塩と砂糖の比率を微調整するなど、幾度となく改良を重ねたというクロワッサンは、他店に比べて甘味を強調しているのがオーナーのこだわり。

 

噛むほどに口の中に広がる濃厚なバターの風味は、生地にたっぷりと練りこまれた発酵バターの特徴。ふわりと軽い食感で、何個でも食べられそう。150円

 

同じく高い人気を誇るチョコレートクロワッサンには、アーモンド入りの板チョコを使用。「普通のチョコだと、つまらないので。かりかりとした食感を加えることで、定番商品を差別化しました」

翌日食べてもしっとり!が大好評の菓子パン

惣菜パンはその日の昼食に、菓子パンは翌日の朝食用に購入するというお客さんのニーズを知り、しっとり感が長続きする生地作りにこだわっているという鈴木さん。「フランスパンや食パンはオーブンで焼けばおいしくなるけれど、菓子パンは焼き直せないので。パサついたパンを食べたときほど、残念な気分ってないですよね」

 

しっとり感を持続させるために、仕込みを工夫。「生地を一度こねてから3時間ほど発酵熟成させて、再度こねて本仕込みをする“中種法”を取り入れています。仕込みにじっくり時間をかけることで、パンの老化を遅らせることができます」

 

年配のお客さんのリクエストに答えて作りはじめたという「コロネ」は、少しずつ違う味を楽しめるようにと、ベーシックなカスタード&チョコカスタードの2種類をワンセットに。160円

惣菜パンはアイデア食材が新鮮!

「中野という土地柄、独身男性や男子学生が多い。男性はボリュームのある惣菜パンがとくに好きなので、バリエーションをかなり増やしました。サンドイッチに使っているパンは、オリーブオイルをたっぷりと含んだフォカッチャ。マッシュポテトを生地に練り込むことで、食べ応えのあるずっしりとした質感にしています」

 

さらに新鮮な味覚を楽しんでもらうため、パンの具材としては珍しい食材や季節感のある食材を加えるという試行錯誤も怠らない。例えば写真の「うすぎりハムと生ハムのクリームチーズサンド」には、隠し味として大葉をプラス。「僕が大葉好きで(笑)。どうにかパンに生かせないかと思い、アレンジしてみました」

 

たっぷりとサンドされた北海道産クリームチーズとの相性は、意外にも絶妙。大葉の独特な香りが加わることで、夏らしい爽やかな味わいに。290円

鈴木さんに聞く、中野の一押しグルメ

“中野愛”あふれる鈴木さんが絶賛する、必食の中野グルメをリサーチ。パン屋を訪れた際に合わせて立ち寄ってみては。

中野イチ予約が取れない名店「マグロマート」

「中野を代表する名店といえば、間違いなくここですね」と宣言するのは、テレビや雑誌でもひっぱりだこのマグロ料理専門店。「刺身がヤバいです。ここのものを一度味わったら、他では満足できなくなりますよ。連日満席で、なかなか行けないのが残念」

丁寧な仕事が光る「やきとり処 月忠 中野店」

スタッフの方も口を揃えて「何を食べても、外れがない!」と褒めるのは、「ラ クロシェット」から徒歩5分ほどにある焼き鳥屋さん。「一番感動したのは、もつ煮込み。臭みが一切なくて上品な味わい。しっかりと下処理を行っている、丁寧な仕事ぶりが感じられます」

もっと知りたい中野の“おいしい”

食べログでキャッチした、中野のグルメ情報はこちら
取材・文:中西彩乃
撮影:山本マオ