【食を制す者、ビジネスを制す】

 

第7回 ときには飲食店が仕事への勇気をくれることもある

 

この世の中、失敗を恐れる人は多い。誰でもイヤなものだ。

だが、面白いことに、失敗をしなければ成功にたどり着けないのも、また事実だ。その証拠に成功した著名なビジネスパーソンほど独自の人生ストーリーを持っている。

実際、その人の人生ストーリーに失敗が多いほど、話は独特で面白くなる。失敗の中からどうやって這い上がってきたのか。成功するためにどれだけの苦労があったのか。何事も他人のせいにせず、自分で責任をもって真摯に失敗に対処し、乗り越えてきた人ほど、その人自身の心を豊かにし、他人を感動させることもできる。

だからこそ、失敗しないことを意識するあまり、無難に過ごすことだけを考えたり、あきらめてチャレンジをやめたりすることは、たった一度の人生を過ごすうえで、とてももったいないことだと言えるのではないか。

もともと失敗のない成功だけのストーリーなんて、存在しない。

とくに有名人ならば、才能もあって、一直線に成功したようなイメージをもつ人が多いかもしれないが、それは表面を見ているだけだ。どんな有名人にも失敗があり、その失敗が数多いほど、成功の度合いも大きくなるのである。

 

秋元康はなぜ多くのヒットを出せるのか?

ヒットメーカーで鳴らすあの秋元康さんだってそうだ。秋元さんは放送作家、作詞家、そしてビジネスでも大きな成功を収めており、失敗がないように見える。だが、実際には何度も失敗してきた経験があるという。

 

例えば、まだAKB48の企画を手掛け始めたころの秋元さんは、かつての「おニャン子クラブ」のような大ブレイクする企画になかなか巡り合えず、どちらかというと旬を過ぎた放送作家といった印象だった。

 

そんな秋元さんを、私が30代のとき取材したことがある。

「秋元さんは、なぜ多くのヒット企画を生み出せるのですか?」

そう質問すると、秋元さんは次のように答えた。

「とにかく自分が面白いと思うものを何度も企画で出して実際に試してみるんです。もちろん失敗することも多々ありますが、試しているうちに必ずヒットに出会える。だからこそ、常に“バッターボックス”に立ち続けることが重要なのです」

失敗してもめげずに、毎回バッターボックスに立って、チャレンジしていくうちにブレイクしたものの一つが、あのAKB48だ。試してダメなら、どんどん方向性や場所を変えてみてもいい。1回や2回の失敗で落ち込んで、やめるのではなく、何度もチャレンジし続けることが大事なのだ。

 

渋谷の洋食店「ツバイヘルツェン」からもらった勇気

 

私も30代のころ、仕事がうまく行かず、よく落ち込むことがあった。後ろ向きになっていたと言ってもいい。

あるとき、そんな私を見かねて「おいしいものでも食べろ」と知人が紹介してくれたのが、渋谷の初台駅近くにある洋食店「ツバイヘルツェン」だった。ディナーの時間に予約して入店したのだが、店の親父さんは頑固そうで、とても緊張した思い出がある。

 

出典:lua brancaさん

 

当時の記憶では、とくにオムライスやピザがおいしかったが、出てくる料理はどれも、つくった親父さんの人としての温かさが伝わるようなものばかりで、私は食べるごとに、なんだか救われたような、自分が生き返ったような気持ちになった。

出典:ガレットブルトンヌさん

 

もっと言えば、人のぬくもりが伝わる料理を食べているうちに、ふいに何らかの勇気をもらえたのだと思う。

そのとき同時に、私は取材で聞いた「失敗しても、バッターボックスに立っていれば、いつか良いことがある」という秋元さんの話を思い出した。

失敗してもいい。何度失敗してもバッターボックスに立っていれば、いつかチャンスに巡り合える。

 

たまたま秋元さんに取材したことから思い出したのだが、飲食店で料理を食べているうちに、仕事に対する勇気をもらえたのは、そのときが初めてだった。

実は、この店、秋元康さんが薦めたことで、世間的に多くの人に知られるようになった。それまでは有名人や味にうるさい常連さんが集う、知る人ぞ知る店だったという。

私は、秋元さんがお薦めの店だということは、あとで聞いた。しかし、なんだか偶然のことだとは思えなかった。秋元さんの話とこの店がリンクしたのは、何とも不思議な感覚だった。

ときには飲食店が、仕事への勇気をくれることもあるのだ。

今、「ツバイヘルツェン」ではランチでおいしいオムライスを楽しむことができる。ランチ時は混むようなので、できれば夜に予約して行くことをお勧めしたい