【前編】和洋中で進化し続けるポテサラ最前線

メニュー表で見かけると、ついつい頼んでしまう料理ってありますよね。居酒屋では欠かせないポテトサラダにはじまり、とりから、モツ煮、カプレーゼなど……。どれもメイン料理ではありませんが、そのお店に欠かせない定番料理であり、名脇役でもあります。また、お店ごとの個性やこだわりが強いのも魅力のひとつ。人気ドラマの陰には必ず優れたバイプレイヤーがいるように、人気のお店には、必ず名脇役のおいしい定番料理があるのです。

本連載〈至高の名脇役〉では、そんな定番料理を一品ずつ取り上げて、毎回オススメの店舗をピックアップ。元女性ファッション誌編集長でありながら、年間600軒以上の飲食店を食べ歩く自他ともに認めるグルメの私、大崎安芸路が実際に食べておいしかったものだけを紹介させていただきます。

 

記念すべき一品目は、定番中の定番、みんな大好きな「ポテトサラダ」を2回に分けて紹介。居酒屋系の王道ポテサラに対して、最近では創作料理の題材として様々な解釈やアレンジがされ、イタリアンや中華料理の名店でも看板メニューとしてポテサラが注目を浴びています。前編では、そんな既成概念にとらわれない、ポテサラ界のイノベーティブフュージョンとも言える、4店舗の自信作をセレクト。また、初回ということで、自分が最も得意とする渋谷・恵比寿付近で厳選してみました。

1. ピータンのポテサラ!? と思わせる美しいひと皿

「卵だらけのポテトサラダ」coyacoya(恵比寿・中華)

「卵だらけのポテトサラダ」600円

清潔感のあるカウンターのみのモダン&カジュアルな店内。スキンヘッドと髭がトレードマークの店主の風貌からは想像できない、繊細で華麗な盛り付けと味付けで、女性に絶大な人気を誇る恵比寿の中華料理店「coyacoya(コヤコヤ)」。気さくな店主との会話も食事を盛り上げてくれます。

 

中華の枠に収まらない、オリジナリティ溢れるラインアップのなかでもとりわけ人気メニューなのが、この「卵だらけのポテトサラダ」。まず目を引くのは、一瞬、中華だけにピータンと思ってしまうような、しっかりと漬け汁の染み込んだ煮卵のトッピング。上には砕いたアーモンド、ピンクペッパー、ディルが散りばめられていて、センスの溢れる華やかな盛り付けがより食欲をかきたててくれます。

また、見た目だけでなく、香ばしいナッツとハーブが、シンプルながらも濃厚なポテサラのアクセントになり、味の奥行きを演出。しかも、ポテトサラダ自体にもたっぷり卵が使われているので、卵好きにはたまりません。まさしくヌーベルシノワの名に相応しい、中華ファンも、ポテトサラダフリークも満足させてくれる一品です。

 

2. ワインに合う、ビストロ仕立ての贅沢ポテトサラダ

「フォアグラ入りポテトサラダ」LOVAT(恵比寿・イタリアン)

「フォアグラ入りポテトサラダ」 950円 (税抜)

恵比寿駅西口を出て徒歩5分、渋谷橋を左に曲がってすぐにお店を構える「LOVAT」は、デートスポットの聖地恵比寿にふさわしい、ビストロのニュアンスを併せ持つイタリアンレストラン。200種のワインとA5ランクの黒毛和牛の赤身肉のマリアージュを楽しめるお店です。さまざまな部位が食べられる黒毛和牛の豊富なメニューに負けない人気を誇るのが、ちょっと贅沢なポテトサラダ。

 

まるごとのった半熟卵の存在感はさることながら、特筆すべき具材はフォアグラ。フォアグラはブランデーで一晩マリネしたものをテリーヌにし、サトウキビの砂糖でキャラメリゼしたこだわりよう。さらにアクセントを出すために、南イタリアの赤玉ねぎと長芋を使用しています。

濃厚なフォアグラのテリーヌと自家製のマヨネーズを使ったポテトにシャキシャキとした食感が加わり、より奥深い味わいに。ぷるぷるの半熟卵にナイフを入れるとゆっくり流れ出す黄身を、しっかりとポテトやフォアグラに絡めながら一緒に口に運んでいただきたいです。高級食材のフォアグラと、大衆的なポテトサラダの組み合わせは、まさにビストロ仕立ての新しい一皿。ぜひ、ワインと一緒に味わいたいポテサラです。

 

3. 決め手は、焦がしバターとニンニクの効いた肉厚ベーコンの焼き汁

「ポテトサラダ」松濤はろう(神泉・居酒屋)

「ポテトサラダ」700円(税抜)

 

都会の喧騒から離れた一角にある、神泉の隠れた名店「松濤はろう」。大将の井上隆之氏と女将の仁美さんの夫婦二人で切り盛りする日本酒と和食のお店です。
シンプルなラインアップながらも一品一品がオリジナリティに溢れ、繊細な味付けと気配りの行き届いた盛り付けが魅力。

 

当然、定番のポテトサラダにも「はろう」らしさが光ります。ベースは、マヨネーズが少なめのシンプルなジャガイモとゆで卵のポテトサラダ。そこに、フライパンでバターとニンニクと一緒に香ばしく炙った、アツアツの角切りベーコンがのせられます。そして、最後にベーコンの旨味がぎゅっとつまった香ばしい焼き汁をフライパンからそのまま回しかければ、ビールだけでなく日本酒との相性も抜群の「はろう」名物ポテトサラダの完成。

肉厚でジューシーなベーコンとホクホクのポテトサラダの組み合わせは、一口食べるとベーコンの肉汁とジャガイモ本来の上品な甘さが口の中に広がり、思わず笑みがこぼれます。焦がしバターと牛乳で煮た後に潰したニンニクとベーコンの肉汁から出来上がる香ばしい焼き汁が味の決め手。素材を生かしたシンプルなポテトサラダに旨みとコクをプラスして仕上げてくれます。

 

「日本酒が飲めないお客さまはお断り」という、ちょっと変わったこだわりも納得の、和食屋さんの絶品ポテサラです。

 

4. ポテサラをイタリアンの新解釈でアンティパストにすると……

「名物! 陽気なポテトサラダ」AURELIO(神泉・イタリアン)

「名物!陽気なポテトサラダ」550円(税込)

「これがポテトサラダ!?」もはや違う食べものとしか思えないのですが、一口食べれば納得の一品。いつも満席で賑やかな、神泉を代表するトラットリア「AURELIO(アウレリオ)」の看板メニューのひとつです。

 

ムース状の滑らかなポテトサラダの上には半熟卵と粉チーズがのっており、この半熟卵をとろりと割って、自家製のバゲットにたっぷりつけていただきます。

更においしさを引き出しているのが自家製のマヨネーズで、なんと隠し味にはシチリアのデザートワインの一種であるマルサラ酒、「ヴェッキオ・サンペーリ」を使っているとのこと。このヴェッキオ・サンペーリは、あえて酸化熟成をさせた特殊なワイン。これをヴィネガーの代わりに使うことで、通常のマヨネーズとはまた異なった風味を味わうことができます。この酸味と卵のまろやかさのハーモニーが、一度食べたらやみつきになるおいしさの秘密です。

 

限りなくクリーミーなペースト、ふわとろの半熟卵、柔らかく程よい甘みのパン。どれも軽やかな食感にこだわった素材を、三位一体で味わうことができる変わり種。ポテサラでありながら、スパークリングや白ワインと一緒に、スターターとしてもオススメです。

 

進化し続けるポテサラから、今後も目が離せない!

ポテサラの発祥は、ロシア、ドイツなど諸説ありますが、日本では独自の進化を遂げていて、和洋中さまざまなジャンルで定番料理としての確固たる地位を築いています。次回は、そんな新しい流れをものともしない、和食、居酒屋系の王道クラシックスタイルのポテトサラダを紹介します。

 

企画・文・写真:大崎安芸路(Roaster)