〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
インバウンドや食材の高騰で、外食の価格は年々上がっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで、「おいしいものを食べたいとき」に使えるハイコスパなお店とは?

日本橋でパワフルに“肉”で盛り上がりたいなら、あの名店のセカンドラインで

令和元年10月に1周年を迎えた「紅花グリル」は、鉄板焼きのスゴ技で海を越えて名をとどろかせる「レストラン紅花」のセカンドライン。本店同様、パワフルな肉料理とスリランカ風のスパイシーなカレーを看板に、よりカジュアルに利用できるダイニングとして誕生した。夜は飲み放題コースもあり、これからの忘年会シーズンに押さえておきたい一軒だ。

“肉の名店”世界の「BENIHANA」の支店にも、もちろん絶品の肉とココットカレーがありました

日本橋「レストラン 紅花グリル」は2018年10月にオープンした。ようやく1周年を迎えたとはいえ、1950年に同じく日本橋に創業した「レストラン紅花」をルーツにもち、1962年に「紅花別館」へと改称した老舗の支店。そこにはNYマンハッタンを皮切りに、アメリカで鉄板焼きチェーン「BENIHANA」を成功させたグループのノウハウがみっちり詰まっている。

 

それでいながら、「本店よりも価格もスタイルもカジュアルにしていますから、若い世代のお客さまをターゲットにしています」と店長の井上和哉さんが語る通り、ハードルがかなり低くなっているのだ。

店長、井上和哉さん。明るくソフトな接客で対応してくれる。

本店「紅花別館」は鉄板焼きと洋食メインに、接待利用が多いのに対し、こちらは肉料理とココットカレーがメイン。昼は名物のココットカレーのほか、日替わりランチ、ローストビーフやステーキがメインのミートランチ、バーガーランチなど。夜は昼のメニューをアラカルトで。また、4千円台からの飲み放題コースを提供しており、界隈のビジネスパーソンの要望にしっかり応えている。

 

そもそも紅花グループは創業者、青木湯之助が1937年、日本橋で「ジャズ喫茶エリントン」を開いたのが始まり。ジャズが聴けてコーヒーが飲める店として、当時の最先端を走っていたのだとか。そして第二次世界大戦中から終戦直後にかけてはお汁粉屋を、戦後はコーヒー専門店と、常に時代のニーズを汲み取り、鉄板焼きで世界のBENIHANAへと進化。その精神は令和になった今に引き継がれているのだ。

NY、ブルックリンのステーキダイナーをイメージした店内。
お肉がさらにおいしく感じられるワインを、アメリカ産、チリ産を中心に赤白10種以上置いている。

そこでセカンドライン「レストラン 紅花グリル」が打ち出したのが、肉とカレーである。これは強い! 半世紀以上にわたって、効率よく高品質な肉の仕入れ、保存や下処理、調理のメソッドを磨き上げた結果、生き残ったメニューの数々がラインアップにあるのだから。昼も夜も食べたいものだらけ。基本、本店と区別するため、内容もカジュアルになっているが、ちょっと贅沢したければ、A5ランクの和牛も選べるなど、種類が豊富なのもうれしい。

こんなお肉が食べられます! 牛、豚、鶏のオブジェ。

前菜はシーザーサラダや魚介のカルパッチョ、ポテトフライなど、NYスタイルのステーキダイナーの定番ものを提供。生麺のパスタなども置いているが、ステーキだけではない、多彩な肉料理と種類豊富なココットカレーが、日本が生んだ世界の「BENIHANA」らしさを印象づける。これから紹介する料理は、きっと「また食べたくなる」逸品ばかりである。

スリランカ人スタッフによる、まかない生まれの壺入り「ココットカレー」

「ココットカレー」1,650円。

今やすっかり紅花グループの名物となった「ココットカレー」。誕生は1990年頃、本店「紅花別館」で働いていたスリランカ人アルバイトが、まかないで故郷のカレーをつくったところ、当時のシェフがいたく気に入ったのがきっかけ。以降、そのアルバイトスタッフのツテで、スリランカ大使館に勤めていた人にも相談にのってもらい、スパイスの調合や食材、器に至るまで試行錯誤を重ねて、瀬戸焼の壺で出てくる「日本人好みのスリランカカレー」を生み出し、正式メニューとして採用されることになったのだとか。当初、チキンカレーしかなかったのが、2000年代に入り、シーフードや海老カレーなども仲間入り。

 

基本のチキンの「ココットカレー」は大ぶりの鶏肉がゴロゴロ入っていて、食べ応え抜群。サラッとして汁っぽいソースは後から刺激的な辛さが追いかけてくるものの、スーッと爽やかに消えて舌に残らない。合間に食べるジャガイモの自然な甘味が追い風となって、気がつけば完食という一品だ。これが約30年もの間、1,500円と税抜価格が据え置きであることに感謝したい。

キッチンではココットカレーの容器、瀬戸の壺がスタンバイ。

牛・豚・鶏がモリモリ山盛り! 圧巻のミートプレート

「ミートプレート」2,400円。

このひと皿で肉パーティができる、スペシャルな一品がこの「ミートプレート」である。木製ボードに気前よくドーンと盛られるのは5種類の肉。USビーフのサーロインステーキには、1週間かけてつくられたデミグラスソース添え。アンガス牛のランプ肉を真空にかけ、57度の低温で2時間湯煎しでゆっくり火を通したローストビーフには、デミグラスと本店でも使われている秘伝のマスタードソースを合わせたものを。

 

さらに塩でマリネして1日寝かせた豚肩ロースを、日本酒を加えたお湯で1時間かけて茹でた塩豚肉にはオリーブを使ったタプナードソース。ほか、ローズマリーの風味をまとったチキンコンフィとスパイシーなソーセージ、チョリソー付き。肉への渇望をこれほど満たしてくれるメニューもないだろう。

パティ&ローストビーフのWミートを、バーガー界屈指の実力派バンズが受け止める

「紅花バーガー」1,400円。

パティの上のスライスは、なんとベーコンではなくてローストビーフというゴージャスな「紅花バーガー」は、まさに牛肉を味わうためのバーガーだ。赤身肉を使ったパティは、機械でミンチにするのではなく、店のキッチンで塊肉を手作業で粗めのみじん切りにカット。焼いたときに肉が縮まないようにと、塩すら加えていない、100%のビーフパティは、ほんのりクミンと胡椒を利かせたのみ。噛みごたえのやさしいステーキとでも言おうか。

 

一方、アンガス牛のローストビーフはしっとりした食感。バンズは人気バーガー店御用達ベーカリー、新宿「峰屋」製。パンの旨味を極力押さえたリーンな生地が、肉の旨味を最大限に引き出している。これらをまとめているのが、デミグラスを加えた秘伝のマスタードソースだ。バンズの頭を押さえつけ、ガブリと味わえば、至福の瞬間が訪れる。

肉に、ココットカレーにぴったりの、摩訶不思議なピリ辛カクテルはいかが?

「スパイスライムサワー」590円。

当然、ドリンクは肉とカレーに合うものが揃っている。生ビールにワイン、ウイスキーやカクテル。カレーにフォーカスするなら、バナナ風味やライム風味のラッシーもおすすめだ。だが、ここに来たなら、ぜひとも紅花グループでしか飲めない、熊本産麦焼酎をベースにした「スパイスライムサワー」を頼んでほしい。

 

表面にクミンとブラックペッパーの粉末が浮いたサワーは、単体で飲むと世にも不思議な味がする。だが、ステーキやローストビーフなどの肉料理、そしてスパイシーなココットカレーに合わせると別次元のおいしさが出現するのだ。これぞマリアージュ! 八角や丁子、ローリエなどと漬け込んだライムシロップのエキゾチックで甘酸っぱい風味が、別添えのソースのような役割を果たしてくれるうえに、シュワシュワとした炭酸が脂を洗い流してくれるので、次のひと口を新鮮な気持ちで味わうことができる。

がっつり派なら、昼も夜も押さえておきたいアドレス

そんなわけで、肉好きにとってのパラダイスであり、カレー通やバーガーマニアにも刺さる名品を揃えるこちら。ハードルが低いうえに、食べたいジャンル別に入口が用意されている。

 

「まずはランチに、それから夜の飲み放題で気軽にご利用いただければと思います。うちで紅花の味に親しんでいただいて、ゆくゆくは本店にも通っていただけたらうれしいですね」と店長の井上さん。

 

肉食の本場、アメリカで多くのセレブをも魅了した世界標準の実力を、まずはこの支店で体験して、肉の経験値を上げていくのがいいかもしれない。

【本日のお会計】

■食事(2人でシェア)
ココットカレー 1,650円
ミートプレート 2,400円
紅花バーガー 1,400円

■ドリンク
スパイスライムサワー 590円×2人分 1,180円

合計 6,630円

※価格はすべて税込

 

取材・文:寺尾妙子
撮影:山田英博