ラグジュアリーな空間で、極上の海老フライを堪能する

海老フライの専門店と聞いて、あなたはどんな店をイメージするだろうか。庶民的な定食店か、それとも古き良き洋食店か……。2019年7月26日にオープンした「Ab・de・F(エビデフ)」は、そのどちらでもない。日本料理人の巧みな技により、海老フライという料理を珠玉の逸品に高めて提供する今までにない形態の店だ。

北品川の地にありながら、銀座の香りを漂わせる空間

イタリアモダンをテーマにした洗練された空間が広がる。差し色に使っているレッドは海老をイメージしたもの。

北品川駅から徒歩2分、歴史情緒あふれる旧東海道沿いに店を構える「Ab・de・F」。一見しただけでは、ここが海老フライ専門店だとは誰も思わないだろう。「Ab・de・F」の母体は、資生堂の創業者である福原有信氏が設立した福原コーポレーション。資生堂銀座ビル用地などの賃貸管理などを行っており、銀座を知り尽くす会社といっても過言ではない。

 

創業者の福原有信氏は、明治になったばかりの文明開化の時代に品川の近くで暮らしていた。埋め立て前の品川沖で取れる海老は格別で、なかでも大きな海老が大好物だったという。四代目の福原有一氏は、子どものころに聞いたこの話を今も深く覚えており、海老の一番おいしい食べ方を実現したいと、同店ははじまった。

 

料理長を務めるのは、日本料理人の高岡大輔さん。

「北品川にありながら、銀座らしい雰囲気でお客様をおもてなしいたします。メインは海老フライですが、前菜では会席料理をベースに海老を使った最先端の料理をご用意しています。ソムリエ厳選のワインもあり、今までにない組み合わせをお楽しみいただけるのが当店の強みです」

スパークリングワインを片手に、魅惑の味に酔いしれる

フランスのスパークリングワイン「Crémant d’Alsace Extra Brut」グラス700円。

最初の1杯にうってつけなのがフランス・アルザス地方のスパークリングワイン「Crémant d’Alsace Extra Brut (クレマン ダルザス エクストラ ブリュット)」。きめ細かな気泡、黄金色の輝き、そしてスッキリとした飲み口と、シャンパーニュにも引けを取らない味わいながらコストパフォーマンスのよさは抜群だ。

サービスで提供される「海老のビシソワーズ」。海老の味噌、そしてうまみが凝縮されている。

アミューズの「海老のビシソワーズ」がテーブルに運ばれると、海老の芳醇な香りが嗅覚を刺激する。大量の甘海老の頭のローストを香味野菜と一緒に煮出したダシに、裏ごししたジャガイモを合わせた冷製スープで、味つけは天然塩のみ。天然の素材だけで、これほど複雑かつ濃厚な味に仕立てられるのかと驚かされる。

この一口によって気分は海老モードに舵を切り、これからどんな品々が登場するのか心が躍る。

「海老の温玉雲丹和え」700円。ガラスに盛られた様子が美しく、女性人気も高い。

最初に選んだ一品は「海老の温玉雲丹和え」。高級卵として名高い奥久慈卵の温泉卵を、北海道産の生ウニと合わせ、塩ゆでした海老と和えている。温泉卵のコクとうまみに生ウニの深い甘みが混ざり、わさび醤油がほのかに香る。そして弾ける海老の食感……。魅惑の味わいに、とろけてしまう。

皇帝海老フライのド迫力と新感覚のおいしさ

「ビッグリトルジョン(皇帝海老)」3,400円。全長40cmほどで、海老の頭までぎっちりと身がつまっている。

そして、お待ちかねの海老フライ。大海老、皇帝海老、オマール海老、国産天然大車海老(要予約)、伊勢海老(要予約)などから選べるが、イチ押しは世界最大サイズの皇帝海老を使った「ビッグリトルジョン」である。

この日の皇帝海老は重量300g超、全長約40cmの特大サイズ! 思わず歓声が上がるほどの迫力だ。

 

「天然の皇帝海老は、まさに皇帝と呼ぶにふさわしい味わいです。肉質はジューシーで、食感も素晴らしい。サイズから大味ではと思われるかもしれませんが、とても繊細な味で凝縮感があります」と高岡さん。

海老フライを好みの厚さに切り分けながら食す。特製ソースとタルタルの両方をつけていただくのが「Ab・de・F」のスタイル。

まず、海老フライをナイフでザクザクと切る感覚が面白い。厚めに切った海老フライを口いっぱいに頬張ると、サクッと衣に歯が入り、海老はしっとりやわらかい。奥久慈卵を使った衣はコクとうまみがあり、皇帝海老の繊細で凝縮された味と口のなかで混ざり合う。海老フライという概念をくつがえす、えも言われぬハーモニーが繰り広げられる。

 

「この味に辿りつくまで試行錯誤を繰り返しました。パン粉、卵、打ち粉、揚げ油を吟味し、海老フライに合うソースの開発にも取り組みました。揚げる温度も165~180℃まで、1℃ずつ試して仕上がりの差を確かめています」と高岡さんは語る。

 

例えば下味には、天然塩・白胡椒に加えて白ワインを吹きかけている。香りや甘みが海老にプラスされ、アルコールの作用で生臭さを抑えられるのだ。打ち粉は北海道産小麦粉に粉末状にした卵白をブレンドし、海老の身から衣がはがれないように工夫。さらに言えば、衣をまとわせる卵液に高級な奥久慈卵を使うこと自体、通常では考えられないほど贅沢だ。

 

「ひとつひとつの素材、工程にこだわることで、自然と“料理”になっていきます」

極上の海老ダシが沁みる〆の逸品

「特製 海老そば」800円。豊潤な海老ダシのスープが、やや細めのちぢれ麺とよく合う。

そして、〆を飾るのが「特製 海老そば」。甘海老の頭をたっぷり使った海老ダシに、昆布と追いがつおを加えたスープが美味。やや細めのちぢれ麺にスープが見事に絡みついてくる。アミューズの「海老のビシソワーズ」が海老の香りとうまみをストレートに主張していたのに対し、「特製 海老そば」のスープは昆布とかつお節によってまろやかに調和させている。

 

すだちと山椒七味が添えられており、途中でスープに加えることで味わいががらりと変わる。すだちの爽やかな酸味によりエスニックな香りがプラスされるが、山椒七味がピリッと利いて「和の味」を逸脱しない絶妙な仕立てで、最後のひと口まで飽きさせない。

さまざまな角度から海老のおいしさを引き出す手腕に、感動させられる。

海老フライの範疇を超える美味を、リーズナブルな価格で

店の奥には6~10名用の個室も完備され、接待や会食にも利用できる。コース料理も人気。

確かに「Ab・de・F」は“海老フライ専門店”だ。しかし、その範疇には収まらない。海老という素材の真価を日本料理人の巧みな技で追求し、銀座の名店をも凌ぐ味と空間でゲストを魅了する。それを、北品川ならではの手頃な価格で楽しめるのだからうれしい限り。わざわざ足を運びたくなる、唯一無二の店だ。

※価格はすべて税抜

 

取材・⽂:梶野佐智⼦(grooo)

撮影:松村宇洋