駅弁のプロが太鼓判! お花見エリアの必食駅弁リスト〈東海編〉

全国各地でお花見シーズンに突入。この季節におすすめの春の駅弁はお花見弁当にも最適。駅弁に一家言あるお三方に、お花見とベストマッチの駅弁を紹介してもらう短期集中連載。4回目となる今回は東海地方のお花見駅弁をお届けします。(九州編関東編中国・四国編もチェック!)

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん推薦!:三重・松阪駅「松阪牛物語」

JRと近鉄が乗り入れる松阪駅には「新竹商店」という名物駅弁調製元があります。社長の新竹浩子さんは“ぴーちゃんの愛称で親しまれ、駅弁ファンのアイドル的存在。いつも笑顔でバイタリティあふれるぴーちゃん、素敵な社長です。

 

松阪はいわずと知れた牛肉の町で、新竹さんが作る駅弁も牛肉弁当がたくさんあります。定番、ロングセラー、話題の駅弁がいろいろですが、今回紹介するのは2007年の1014日(鉄道の日)に発売された「匠の技 松阪牛物語」。加熱式容器を採用しており、ヒモを引いて8分ほど待つとアツアツの弁当が完成します。白飯の上にA5ランクの最高品質の松阪牛すき焼き肉120gをどっかりとのせてあり、副菜には牛そぼろ、南高梅などが盛り込まれています。新竹さんによると、作るきっかけは松阪牛の肥育名人、牛の匠の森本宇助さんというおじいちゃんと知り合ったこと。松阪牛品評会で、一席に輝く松阪牛を何度も育てた名人で、森本さんの代わりに松阪牛肥育の技を伝えたいという衝動にかられたそうです。

別袋に入った「粗挽粒黒胡椒」を振りかけて、すき焼き肉にかぶりついてください。松阪牛の特徴である脂肪分の旨みと肉汁が口の中で完全に溶け合い、とろけそうになります。地元三重産米を同社伝統の4升釜でふっくらと炊き上げたご飯も二重丸! 食べる際には肉汁を吸い込んでさらに豊かな味わいになります。「松阪牛証明書」も添付されています。これほどの上質な松阪牛を旅の途中で食べられるとはなんという口福。うまい地酒を用意して、ライトアップされた松阪公園の夜桜眺めながら駅弁、もオツですよ。

駅弁ライター望月崇史さん推薦!:静岡・身延線 富士駅「竹取物語」

桜と富士山をダブルで楽しめるのが、静岡と山梨を結ぶ身延線です。静岡側から入って、特急「ふじかわ」で富士川をさかのぼるルートが特におすすめ。まず、西富士宮~沼久保間で、“最高の富士山”が現れます。3,776mの剣ヶ峰をセンターに、富士宮の街を懐に抱く風景は圧巻! 富士川に寄り添って走りだせば、こんどは両岸が桜の帯となります。身延線はカーブが多く、列車もゆっくりなので、普通の路線よりじっくり花見を楽しめます。身延駅は久遠寺のしだれ桜が有名ですが、一つ先・塩之沢駅も知る人ぞ知る名所。満開の桜に包まれるように、列車が走り抜けていく風景は、まさに春爛漫です。

そんな身延線の旅のお供としたい駅弁が、富士駅の「竹取物語」。地元のかぐや姫伝説にちなんだ可愛らしい掛け紙を外すと、茹で落花生のおこわの上に、駿河湾名産「桜えび」をはじめ、山海の幸が彩り華やかに載っています。なお、富士駅で「竹取物語」を購入する際は、3日前までの要予約(富陽軒:0545-61-2835)。特急「ふじかわ」は、富士駅で進行方向が変わるため、3~4分程の停車時間があります。この時間にホームのそば屋さんで駅弁を受け取れば、間違いなく身延線の春旅は最高です!

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん推薦!:静岡・東海道本線 清水駅「桜えびすし」

殖産興業の時代に東西両京を結ぶ初めての幹線鉄道として、明治22年に新橋駅~神戸駅が全通した東海道本線は、今年で全通から130年。全通当時で約20時間を要した道のりは、蒸気機関車から電気機関車を経て電車や新幹線の時代となり、今ではわずか3時間半ほどの旅となりました。普通列車のみを乗り継いでも9時間台で移動できます。今は「青春18きっぷ」の利用シーズン。春・夏・冬休み期間中に使えるこの格安切符を持ち、大勢の人が東海道本線を東へ西へ乗り継いでいく光景は、もうおなじみとなりました。高架橋やトンネルをあまり作らない時代、地面に敷かれた線路を走る列車は、都市を次々と通過し、公園や街路樹が整備された沿線は、3月下旬になれば車窓の目線で桜の花が流れていきます。

 

清水駅で売られる「桜えびすし」は、清水市街で半世紀前に創業した有名な寿司店が、20年以上前から駅のキヨスクへ卸している軽食。沼津駅~焼津駅で車窓に見え隠れする駿河湾は、サクラはサクラでもサクラエビの産地。桜色の掛紙をめくり、ふたを開くと、桜色の小海老がカリッとした佃煮でたっぷり現れます。錦糸卵と酢飯が柔らかく合わさり、油揚げや海苔の隠し味もあり、そもそもサクラエビそのものが駿河湾の特産ですから、ここに来ないと得られない貴重な味です。

 

教えてくれたのは

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん

千葉県出身。新聞・出版・編集制作会社を経て独立。年間150日近くを旅するという旅行ジャーナリスト。駅弁はこれまで30年以上、5,000個以上を食べ歩く。雑誌やウェブだけでなくテレビ番組でも活躍中。

 

駅弁ライター 望月崇史さん

1975年静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、ニッポン放送で放送作家に。番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年、およそ4,500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。「1日1駅弁」を基本に、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の執筆を行う。

 

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん

1973年長崎県生まれ。日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」の館長。年間約400個のペースで全国各地の駅弁を食べ集め、今まで食べた駅弁は6,600個以上。日本国内の全線と海外25か国の鉄道に乗った「乗り鉄」でもある。