駅弁のプロが太鼓判! お花見エリアの必食駅弁リスト〈九州編〉

今年もお花見シーズンが到来! 今年は少し足を伸ばして列車で花見スポットを訪れてみては? そこで今回は駅弁のプロの方々にお花見シーズンにオススメの駅弁をピックアップしていただきました。まずは今まさに開花時期という九州エリアから!

駅弁ライター望月崇史さん推薦!:熊本・新八代駅の「鮎屋三代」

九州の鉄道旅で最も楽しい路線は、何といっても肥後と薩摩を結ぶ「肥薩線」! 特にこの時期のお薦めは、日本三大急流の一つ「球磨川」に沿って走る八代~人吉間です。川沿いには桜の木が植えられており、花の見ごろには桜色の帯になって川面に映り込みます。花見気分を楽しむなら、この区間を走る特急「かわせみ やませみ」。JR九州自慢の観光列車の一つで、車内には焼酎バーもあり、地元の酒造組合の方が乗車された日には、プロの指南を受けながら、本場の球磨焼酎の味を楽しめることもあります。

球磨川の流れと桜を眺めて、花見気分で駅弁を楽しむなら、新八代駅の「鮎屋三代」(1,250円)。

八代駅前で長年、鮎の加工や鮎料理を手掛けている「頼藤商店」が手掛けている駅弁で、八代駅前のお店のほか、八代駅、新八代駅、熊本駅などで購入できます。初代店主の方の覚書という、天皇陛下に球磨川の鮎を献上した際のエピソードが綴られた掛け紙を外すと、三代にわたって受け継がれてきた秘伝のたれで煮込まれた大きな甘露煮が現れます。鮎は骨までやわらかく煮こまれ優しい歯触り、川魚の臭みも苦味もありません。焼き鮎からとった出汁で炊き込まれたご飯と共に箸が進むことでしょう。

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん推薦!:長崎本線の「角煮めし」

鳥栖駅と長崎駅とを結ぶ長崎本線は、幹線でありながらどこかローカル線の雰囲気があり、乗っていても気分がのんびりします。特急「かもめ」も、ネーミングがどこか昭和風で、決して速くはないけれど、風に乗って優雅に飛んでいるかもめのように、マイペースで走っていく姿にノスタルジーを覚えます。

 

多良駅を過ぎたあたりから左手の車窓に海が見えてきます。ムツゴロウが顔を出しているのが見えそうな、のどかな春の有明海を眺めながらゆらゆら。肥前大浦駅までは絶景が続きます。鳥栖から長崎までは約100分、ここで大好物の駅弁が待っているのです。

それは坂本屋の「角煮めし」。錦糸卵を敷き詰めたご飯の上にのるのは大きな豚の角煮。長崎では東坡煮(とうばに)”と呼ぶ卓袱料理に欠かせない一品です。口に入れると、ぷるん、とろ~りと脂身が溶けて、肉がほろりとほぐれていきます。食感も味も実に上々。「皮付きのバラ肉を長時間ゆでると脂が抜けてゼラチン質だけが残り、うまみ成分へと変わるんです。脂が抜けすぎるとパサパサになるのでギリギリのところで止める。その加減が難しいです」とは坂本屋の岩重浩さん。

 

ご飯はニンジン、ゴボウ、シイタケなどを混ぜ込み東坡煮の煮汁で炊いた混ぜごはん。良い香りがします。坂本屋は明治27年創業の料理旅館で、角煮めしは、もとは板場のまかない食でした。請われて駅弁界に進出したのが平成14年のこと。観光客より地元にファンが多いそうです。「普通角煮は料亭でしか食べられません。駅弁になって気軽に味わえるのが喜ばれているのでしょうね」(岩重さん)。繰り返して食べたくなる地元密着の駅弁。ぜひ召し上がれ!

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん推薦!:熊本・新玉名駅「玉名まるごと四季彩薬草弁当」

博多駅と鹿児島中央駅を一時間半ほどで結ぶ九州新幹線。その列車名は、平成23年3月の全線開業前に一般公募により「さくら」に決まりました。筑紫平野や熊本平野などを縦貫するこの路線は、近年に開業した新幹線にしてはトンネルが少なく、車窓が明るく開放感があります。3月下旬の列車に乗れば、公園や社寺にまとまって植えられた桜が時々、車窓を流れてゆきます。

 

熊本県の新玉名駅も平成23年3月に開業。玉名温泉に近い菊池川沿いの田園地帯に新幹線の駅ができ、観光案内所や土産物屋が立地し、昭和時代から地元の日本料理屋が作る弁当が、ここで駅弁になりました。「玉名まるごと四季彩薬草弁当」は平成24年秋ごろに駅弁デビュー。薬草混じりの俵おむすび、ナズナとオオバコのコロッケ、季節の御飯に熊本県産の野菜や佃煮やみかんゼリーなど、10種類以上の具材を楽しめる賑やかさ。実は「二人で食べる」というコンセプトもあり、掛紙にそう書いてあります。確かに割り箸が二膳付いて、具の多くが2個ずつ入っています。切符にも車窓にも「さくら」が咲き、春の季節の駅弁を堪能できます。

 

※価格は税込

 

教えてくれたのは

駅弁ライター 望月崇史さん

 

1975年静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、ニッポン放送で放送作家に。番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年、およそ4,500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。「1日1駅弁」を基本に、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の執筆を行う。

 

 

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん

 

千葉県出身。新聞・出版・編集制作会社を経て独立。年間150日近くを旅するという旅行ジャーナリスト。駅弁はこれまで30年以上、5,000個以上を食べ歩く。雑誌やウェブだけでなくテレビ番組でも活躍中。

 

 

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん

 

1973年長崎県生まれ。日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」の館長。年間約400個のペースで全国各地の駅弁を食べ集め、今まで食べた駅弁は6,600個以上。日本国内の全線と海外25か国の鉄道に乗った「乗り鉄」でもある。