メキシカン人気を加速させる新感覚タコス

昨年からタコスを提供する店が増え続け、モダンメキシカンブームが到来している東京。タコスと聞くとファーストフードのイメージが強いかもしれないが、三軒茶屋にオープンした「Los Tacos Azules(ロス タコス アスーレス)」はコースを用意するなど、ひと味もふた味も違う。これまでの概念を覆す一軒だ。フードトレンドに敏感な人たちからジワジワとその注目度を上げている、新しいタコスの魅力をじっくりとお届けする。

「とびっきりおいしいタコス作りたい」という思いを込めて

日本語を流暢に話す、メキシコ・モンテレイ出身のマルコ・ガルシアさん。

 

カウンターで料理を作るのは、メキシコ出身のマルコ・ガルシアさん。ドリンクを担当する妻の莉香さんと共に、アットホームな雰囲気のなか店を営む。

 

マルコさんは大学時代に日本に留学した際、食文化に感銘を受けた。メキシコへ帰国すると料理を勉強。モンテレイでタコス専門店「ロス タコス アスーレス」を営んだ後、日本へ再来日した。

「青いタコス」を意味する店名にちなんで、青をアクセントにした店内。

 

お店は三軒茶屋駅から歩くことおよそ7、8分、玉川通りから1本入った静かな場所にある。店頭に置かれたサボテンが目印だ。店内は寿司屋を彷彿させるカウンターとテーブル席。奥には半個室がある。カウンター席に座れば、目の前で鮮やかにタコスができ上がる様子を見ることができる。

蕎麦の実を挽くような伝統的製法「ニクスタマル」で作られるタコス

メキシコから輸入しているトウモロコシ。料理と相性のいい青い在来種をメインで使用。

 

こちらの最大の特徴は、トウモロコシから手間暇かけて作るトルティーヤだ。メキシコ在来種のトウモロコシを輸入し、すべて手作業で作り上げていく。メキシコを起源とする在来種は200種ほどにも及ぶそうだ。色合いによって風味が異なる点も興味深い。例えば、赤いトウモロコシは青に比べて甘みが強く、ナッツのような風味を感じられる。

メキシコ製のマシンで、トウモロコシの粒からトルティーヤの生地を作るマルコさん。

 

カウンター内に置かれたマシンを使い、ニクスタマルと呼ばれる伝統製法で、トウモロコシの粒からマサと呼ばれるトルティーヤの生地を作る。マシンに火山の石をセットすると、蕎麦を挽く石臼を縦にした状態に。一晩寝かせたトウモロコシの粒を少量の水と共に挽いていく。作業を始めると、香ばしい匂いが店内に漂う。

マシーンの石臼を通過すると、トルティーヤのもととなる生地になる。

 

石臼によってなめらかでしっとりとした状態のトウモロコシの生地が出てくる。この作業から手間暇かけている店は本場メキシコでも珍しい。マシーンの下部から出てきた生地は、寝かせると色合いが鮮やかになる。販売されている安価なトルティーヤ粉に比べ、風味豊かで栄養価も格段に高い。

 

営業中、トルティーヤの生地はカウンターに置かれた桶に入れられ、手ぬぐいで覆われている。その様子は、寿司屋のシャリの扱い方にも重なるようだ。

カウンター内の鉄板で一枚一枚丁寧に焼き上げていく。

 

生地を適量取って、プレスマシーンで平らにして鉄板で焼き上げていく。ゲストの料理のオーダーに合わせて焼いていくと、鉄板の上でぷくっと膨らんでいく。その様子はまるで生地が生きているようだ。ご覧の通りの小ぶりなサイズにしているのは、バリエーション豊富な種類をいくつも味わってほしいという思いからだ。

アーティスティックに盛り付けることで引き立つ、手をかけた具材

左から「天然ブリと自家製チポトレマヨネーズのトスターダ」「カリフローレのフリッタータにチチャロンサルサのタコス」「美桜鶏のカルニータスに菊芋サルサのタコス」。すべて7,600円(税抜)のコースからの一例。

 

トルティーヤ同様、具材も非常に手がかかっている。生地の焼き立てのタイミングと合わせて、焼きたてや揚げたての食材を作り上げ、自家製のサルサなどと共に盛り付けている。例えば、「カリフローレのフリッタータにチチャロンサルサのタコス」は、豚の皮をラードで揚げたチチャロンを隠し味にしたサルサの上に、スティック状のカリフラワーの品種であるカリフローレのフライをスフレのような衣でくるんだものをのせている。添えているほうれん草とフェタチーズがアクセントに。

 

「タイミングが非常に大切ですね。日本料理の料理人が、ほぼ1人ですべての調理を行っている様子に感銘を受けたことが根底にあります」と語るマルコ氏。美しいビジュアルだが、素材の味わいをしっかりと表現できるよう、1つのタコスに味わいは3つまでと決めている。オリジナリティ溢れる革新的な具材だが、メキシコのソウルフードであるチチャロンを使用するなど、メキシコのクラシックなエッセンスを残すことも忘れない。日本ならではの食材を巧みに組み合わせている点も印象的だ。

ドリンクは、ワイン、日本酒、クラフトビール、メキシコの伝統的なアルコールであるメスカルもラインアップ。小規模な生産者が作る質の高い素材や風味の高いものを厳選している。

 

ディナーはアラカルトのほか、前日までの予約でおまかせコースを用意。休日のブランチでは、メキシコでブランチとして食べられている人気メニューをアラカルトで提供する。クラシックな技法と新たな感性で作り上げる新感覚のタコス、体験してみてはいかがだろうか。

取材・文:外川ゆい

撮影:松園多聞