デザイン事務所の社食スペースがカフェ&食堂に

営業は水曜から土曜の週4日間、営業時間も8時から17時までと短め。それなのにローカルな人たちからオープン後すぐに愛されるお店となったのは、元社員食堂だったという空間。グラフィックデザインがおしゃれな外観に、「なんの店かな?」と思わずのぞいてみたくなる。出版業界では有名なデザイン事務所の1階にカフェをオープンした理由をオーナーに聞いた。

社員食堂をなぜカフェに?

営業日は、水曜日から土曜日までの週4日。朝の8時からやっているのがうれしい。17時には営業終了。

 

実はこの建物の2階は、出版業界では知らない人のいない著名なデザイン事務所。雑誌や書籍のほか、料理の専門誌やグルメ本も多く手がけている。所縁のある料理家にローテーションで夕食を作ってもらっているそう。そんな贅沢な社員食堂のスペースを、日中だけ一般に向けてオープンしたのが、今回ご紹介する「レタープレスレターズ カンティーン」。誰もが気軽に入れて、おいしいごはんやお菓子が食べられる。

デザイン事務所には看板犬のアレックスくんがいる。普段は1階には下りてこないが、犬好きのお客さまばかりのときは下

りてきてくれることも。愛犬との散歩中に立ち寄る人も多いそう。

お店の雰囲気も味わいのひとつ。朗らかな接客に、おいしそうなものが食べられるという期待が膨らむ。

 

料理を手がけるのは、田村亜弥さん。レタープレスレターズ カンティーンをオープンする前は、外資系の化粧品会社でバリバリ働いていたとか。もともと料理は好きだったけれど、仕事で赴任したフランスでさらなる料理やお菓子の魅力に開眼し、働きながら「ル・コルドン・ブルー」で学ぶこと4年。伝統的なフランス料理の技術とフランス菓子の技術の集大成であるグラン・ディプロムを取得した。ここでは、そんなフランス仕込みの本格的な味でありながら気取らずに食べられる料理を提供している。デザイン事務所ができた当時から1階で食堂を開きたいという思いはあったものの、前職が多忙であったためにお店のオープンまでは少し時間がかかったという。

毎日通いたくなる日替わりランチ

ランチボックスは電話予約で取り置きも可能。日替わりメニューにグリーンサラダがついて970円(税込)で、コーヒーとのセットが1,200円(税込)、カプチーノとのセットが1,300円(税込)。

 

ランチは一日20食限定。メニューは日替わりで、例えば2月のある週はパルマンチエやローストビーフ、キッシュ&スープ、ローストチキンが登場。イートインもできるし、ランチボックスとしてテイクアウトも可能。ティータイムには、焼き菓子とコーヒーを目当てに、さまざまな人がやってくる。コーヒーは、両国にあるコーヒー専門店「Single O(シングルオー)」のブレンド。サスティナブルな方法で高品質なコーヒーを育てている農園の豆を使用したおいしいコーヒーで、食後にはもちろん、焼き菓子との相性も抜群だ。

 

取材日のメニューは、「パルマンチエ」。なめらかな舌触りのマッシュポテトの下には、コクのある肉ダネが隠れている。2層を合わせて食べると、止まらないおいしさだ。パンのほかに2種類のサラダが添えられ、野菜がたっぷり食べられる。紫キャベツのサラダはりんごのさわやかな風味と、ナッツの香ばしい食感が楽しい。グリーンサラダはランチメニューに添えられる定番。栃木のきくち農園のものをはじめとしたオーガニックの葉野菜を選んでいるそう。素材そのものの味わいが濃いから、シンプルなサラダが驚くほどおいしい。

ケーキやタルトは380円(税込)から。ソイラテやハーブティーなどのドリンクメニューもある。

 

タルトは日替わりで3種類。この日はアプリコットタルト、バナナ&ヘーゼルナッツタルト、アーモンドタルト。しっかりと焼き色がついたタルトが食欲をそそる。バナナ&ヘーゼルナッツタルトはしっとりサクッとした食感のタルトに、ほどよい甘さのフィリングが絶品だ。そのほかにオレンジやレモン、マーブルのパウンドケーキやフィナンシェなどもあり、その日のおやつや手土産に買って行く人も多い。

活版印刷のスタジオを併設

店内に飾られた活版印刷のフレームは、スタジオのワークショップで制作したものも。

デザイン事務所と所縁のあるアーティストやイラストレーター、スタッフがデザインをしたカード類も販売。350円(税込)から。

 

店内に飾られている額やカード類は、デザイン事務所が開設した活版印刷(レタープレス)のスタジオにて、1960年代のヴィンテージの大きなレタープレス機で制作したオリジナル。田村さんはそのスタジオのディレクターも務めているため、ランチボックスのスリーブやテイクアウト用のペーパーバッグにも、活版印刷のロゴがあしらわれている。なんとも贅沢でうれしいサービスだ。

紙袋やランチボックスのスリーブにも活版印刷が。

取材日はバレンタインデーのガトーショコラの受け取り日。今後はこうしたスペシャルなイベント用のお菓子の提供も検討中だという。

天気のいい日は、外の席もおすすめ。

 

手土産探しにも、打ち合わせにも重宝しそうなデザイン事務所発のカフェ。パリにも活版印刷のスタジオがあり、田村さんが行き来しているため、不定期で休みになることもあるのでご注意を。デザイン事務所らしい美意識が生きた空間で、シンプルに味わい深い料理と焼き菓子が味わえる、気取らない居心地の良さを感じたい。

撮影:馬場わかな

取材・文:藤井詩織