鍋は結局、「誰と囲むか」が重要

前回前々回は、鍋を囲む人物と鍋奉行の役目とその作法。さらに美味しい雑炊の作り方について説いた。これを守れば美味しい鍋は完成する。しかしその前に、最も美味しく鍋を食べる方法があるのを知っているだろうか? それは、「人選」である。

 

一人で食べる「一人鍋」を除けば、最も大切なことは「人選」である。鍋を囲む人のメンツで、鍋の味は八割決まるといっても過言ではない。嫌いな人とは食事をしないとは思うが、鍋という料理は、一つの鍋にみんなで箸を突っ込んで食べるだけに、それぞれの人の相性、性格というものが、美味しさに大きく左右されるのである。

山さきの「ねぎま鍋」 出典:きゅいそんさん

鍋の美味しさを左右する6つのポイント

「鍋の人選」には6つのポイントがある。

気心が知れた人

これが第一条件であろう。気心が知れた人とする食事は、どんな食事でも楽しくなる。だが初めて会食する人や数回しか一緒に食べたことがない人と鍋を囲むケースもあろう。その時は以下の条件をチェックされたい。

食べることが好きな人

世には食べることにあまり興味のない人もいる。そういう人が混じると、せっかく小鉢に取り分けた具をなかなか食べず、全体のペースが乱れ、盛り上がりに欠けてしまう。やはり鍋は、この白菜美味しいね、このエビの火の通し方がいいね、などと言い合いながら食べたいものである。

せっかちな人、怒りやすい人、泣き上戸はNG

鍋はゆっくりと楽しむものである。「もっとたくさん具を入れろ」と言ったり、鍋奉行が最適な加熱具合で取り分けようとしているのに我慢しきれず取ってしまったりする、せっかちな人はご遠慮願いたい。また怒りっぽい人や泣き上戸も、ペースが乱されるので避けたい。

説教好きな人、知識をひけらかす人、場が読めない人、チェーンスモーカー、トイレが近い人、少食の人、ひがみっぽい人、横柄な人、威張りたがる上司もNG

説教好きな人→鍋に限らず、一緒にご飯を食べていて、これほど食事をまずくさせてしまう人はいない。

 

知識をひけらかす人→「車海老というのはね、サイズの小さいものから『さい巻き』『中巻き』『巻き』って言ってね、これは10cm以下20g以下だからさい巻きだな」……ってちっとも美味しそうじゃありません。

 

場が読めない人→言語道断。

 

チェーンスモーカー→奉行が取り分けようと思っているときに席を立ってタバコを吸いに行く人は困ります。ずうっと不在も困ります。申し訳ないが、トイレが近い人も同様です。

 

少食の人→具材が変則的に余ってしまうと、その事後処理を他の人がしなくてはならなくなってしまいます。まあ、すき焼きや豚しゃぶなど、肉系鍋の時は、逆に少食の人がいると喜ばれますが。

 

ひがみっぽい人→「あっちのエビの方が大きい」「一番後に盛られた」などと言われてもねえ。

 

横柄な人、威張りたがる上司→傍若無人という言葉がありますが、これも和気あいあいと盛り上がろうとする鍋の席はご遠慮いただきたい。

接待には不向き

相手に気を使うあまり鍋の味がおろそかになる。逆に考えれば、自分を捨て、相手が楽しむことだけを考えれば、接待は成功する場合もある。

信頼する鍋奉行を選ぶ、連れてくる

もしいなければ前々回の記事を参考にして自分が鍛錬し、務める。

 

以上である。さあこれを実践して、みなさん、楽しい鍋ライフを送ってみよう。

名店の寄せ鍋の一例をご紹介

最後に特別付録として、かつて大塚にあり一昨年なくなった「なべ家」の寄せ鍋(蓬莱鍋)と、「なべ家」出身の人気料理店、神楽坂「山さき」での寄せ鍋(蓬莱鍋)での仕切りを紹介する。

 

この2軒とも仲居さんがそれぞれのテーブルについて、鍋の具材を次々に入れては、煮えばなを取り分けてくれる店である。

 

大塚の「なべ家」の場合。

「海老、鶏の薄切り、小さいがんもどき」→ 「白菜、鯛、焼きちくわ」→「平目、くわい、白菜」→「蛤、筍、しめじ」→「鞘インゲン、白菜、白滝」→「小豆麩、えのき茸、湯葉」→「銀杏、白菜」

なべ家の「蓬莱鍋」 出典:bottanさん

 

一方「山さき」の場合。

「蛤、焼きかまぼこ、白菜」 →「鶏肉、銀杏、白菜、椎茸」→「鯛、舞茸、巻湯葉、芹、白菜」→「舞茸、芹、白菜、生麩、車海老」

鍋つゆは沸騰させず、アクも出ず、静かに煮えていく。食べれば、上品なカツオだしの割り下が、うっすらとからみあい、染みて、噛めばしっとりと歯に吸い付き、甘いエキスが滲み出る。

 

こういう鍋を食べて思う。

「鍋は、具と汁のせめぎあいではない。互いに譲り合い、抱き合い、高めあう。具と汁のエッチなのデアル」。

 

文/マッキー牧元