〈おいしい歴史を訪ねて〉

歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。

第13回 “日本の地中海”を想わせる、小豆島への旅

先日、スペインのカタルーニャ地方の小さな村を旅した。画家のダリやピカソがこよなく愛した漁村のレストランでワインと南地中海料理を味わった。気さくな国民性もあり、ずいぶんと癒やされた。オリーブがたくさん実っていたのが印象的だった。そんなカタルーニャを彷彿させるのが、瀬戸内海にある小豆島(香川県)だ。戦国時代に秀吉が小西行長に統治させた、キリスト教が広められたこともある伝統ある島。今から400年ほど前、お伊勢参りに行った島民が三輪そうめんを学び「小豆島そうめん」を作り、今や名物になっている。そして無添加の醤油を作ったり、古くから香川の高松を中心に石材の商売をしている。なんと、大阪城のお堀の石は小豆島産が多いのだとか。

前述の通り、小豆島はオリーブの産地として有名である。温暖で雨が少ない瀬戸内式気候なのでオリーブ畑が島を囲み、その名の通り、ごぢんまりした小豆(あずき)のような島。交通機関はいろんな手段があるが、僕は新岡山港から小一時間で土庄に到着した。他に神戸や高松からも船のルートがある。

 

最近はオリーブの葉が注目されている。果実よりもはるかに多くのポリフェノールが含まれていることが判明し、赤ワインの2.2倍、緑茶の3.3倍あるのだそうだ。まさしくここに来ると身も心も健全になる気がする。

 

また、小豆島は映画『二十四の瞳』のロケ地としても名高い。原作は、1952年に発表された作家壺井栄の同名小説で、壺井の故郷であったこともロケ地に選ばれた理由だとか。

先生と12人の小学一年生の子どもたちの人間愛は昭和を代表する映画として、そしていかに戦争が庶民も巻き込む悲惨なものだったのかを問いかけている。なんでも映画やTVドラマやアニメで9回も映像化されているそうだ。そして映画ロケに作られた場所を利用した映画村が存在する。昔の木造の校舎やボンネットバスなどが懐かしい。

 

僕がこの島にはじめて取材で訪れたとき、「虫送り」という豊作を祈る夏祭りの最中だった。

土庄町の肥土山では「とーもせ、灯せ」と子どもたちの歓声で祭りは始まり、緑の棚田に浮かぶ火影は幻想的な光景だった。

 

近くに直島という現代アートが点在している島もあり、特に草間彌生さんの大きな「水玉のかぼちゃ」は一見の価値ありだ。

島の名産、オリーブオイルの専門店へ

東洋オリーブ

最近、日本初、イタリア・ピエラリシ社の新型採油機を導入。より高品質なオイルの生産に向けた体制を整え、国産バージン・オリーブオイルを一つ一つ手間をかけて搾り出して供給している会社で、全国の高級レストランへおろしている。またオリーブ化粧品も評判がよい。

小豆島唯一の酒蔵に併設されたレストラン

森國酒造

小豆島が誇る酒蔵のこちらでは、風土と米と水と心を育む「海、空、山、風、太陽」など、ここにしかない環境のもとで生まれる島仕込みの酒を造り上げた。築70年の佃煮工場を改装したレストランは素晴らしかった。

もうひとつの島の名産、醤油ができるまでを見学

ショウキン(正金醤油)

大正9年創業の老舗。こちらでは、国産丸大豆、国産小麦、天日塩を使用した、120本の木桶で長期熟成させる天然醸造醤油を造っている。昔ながらの工程を大事にした醤油は、旅のお土産としておすすめだ。

https://shokinshoyu.jp

オリーブオイル畑が旅気分を盛り上げる

道の駅小豆島 オリーブ公園 OLIVAZ/オリヴァス

ここは瀬戸内海が眼下に広がる丘に2千本のオリーブが植えられた、小豆島産のオリーブオイルを全方位で楽しめるカフェレストラン。野菜と豆を煮込んだ「リッボリータスープ」(写真下)は、地中海料理を想わせる、風土色と滋味あふれる味わいだった。

日本人の知恵と暮らしへの想いを感じる旅だった。

写真・文:小平尚典