〈おいしい歴史を訪ねて〉
歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。
第6回 盛岡の「冷麺」
盛岡で思い出すのは岩手山の堂々とした姿。
また、盛岡でよく耳にする、「ほんだら」という言葉が好きだ。盛岡以外でも使われているかもしれないが、さよならを意味するらしい。なぜか親しみを感じるこの言葉の中には「元気でね」「また会いましょうね」「よろしくね」などの意味が含まれている魔法の挨拶だ。東北人は思いやりのある人が多いような気がする。
鬼がいるという伝説の岩手山(いわてさん)は東北の奥羽山脈の北にあり、岩手県の最高峰でお天気であれば盛岡市内から一望できる標高2038mの火山である。日本百名山に選定され、東西南北どこからみても美しい。なんか富士山を少し優しくした感じだ。
歌人達もこう詠んでいる。
岩手山 秋はふもとの三方の 野に満つる虫を何と聴くらむ (石川啄木)
風さむき岩手の山にわれらいま校歌をうたふ先生もうたふ (宮沢賢治)
盛岡で生まれた冷麺
冷麺はもともと朝鮮半島の北西部ピョンヤンで生まれた。日本に渡来してきた人々が故郷を懐かしみ盛岡に冷麺を出したのが始まりとされている。なぜか博多の明太子と同じ状況だなあ。盛岡と同じ北緯40度付近にある辛味のある冷麺の味を合わせ独特な盛岡冷麺ができた。辛味のある元祖的な麺はそば粉を入れずジャガイモのでんぷん中心で、透明感があり、冷たい食感が食を進ませる。
おすすめは、盛楼閣という焼肉屋が出す冷麺。
東北新幹線で盛岡駅に到着するとまずは中央出口からバスターミナルを越えて盛楼閣のビルにまっしぐら。むろん、冷麺もうまいけど焼き肉もうまい。昼は冷麺、夜は焼肉を食べ、締めはまた冷麺という流れでも飽きがこない。
岩手の名の起こり、三ツ石神社へ
東顕寺の裏手にある、三個の巨大な花崗岩が立ち並ぶ三ツ石神社。その三ツ石には、岩手の名の起こりとされている鬼の手形伝説がある。
伝説によると昔この地方に鬼が棲んでいて住民を悩まし、旅人を脅かしておりましたとか。そこで人々は三ツ石の神にお祈りして鬼を捕まえてもらい境内の三ツ石に縛り付けた。鬼は二度と悪さをしないと誓い、約束の印として三ツ石に手形を押させて逃がしてやりましたとさ。それが「岩手」の語源だそうだ。岩手山からおりて来たんだろうなあ。まだいるかもしれない。
また、ここはさんさ踊り発祥伝説の地でもある。鬼の退散を喜び三ツ石のまわりを「さんささんさ」と踊ったのが“さんさ踊り”起源だと言われている。「サッコラチョイワヤッセ」という独特のかけ声と共に踊り手が優雅に舞い、東北の夏祭りの始まりだ。
栄養士が切り盛りする食堂で生命力を養う
医科大学附属病院の近くにある食堂「ヘルシー風土」は、管理栄養士が経営し調理もしているお店。さすがにここはからだにやさしい食だらけだ。人間は光合成では生きていけません。体に入ってからの栄養学のススメなどなかなかである。
お店から車で5分も走れば野菜畑がたくさんあり、いきいきとした野菜たちが出迎えてくれる。写真は、サボイキャベツ(ちりめんキャベツ)。見るからに生命力を感じる。
ここは元気モリモリの盛岡。ほかにもじゃじゃ麺の店をはしごして、コッペパンは福田パンで牛乳は小岩井農場なんだ。ほんとに盛岡は歴史ごはんどころだ。ほんだら!!
旅はまだまだ続く。
写真・文:小平尚典