前半の焼鳥は肉の味を堪能する「胸」か「ふりそで」から
提供するのは前菜、焼鳥5種、鶏の一品、焼鳥5種、〆の麺、デザートという流れの「おまかせコース」14,500円。「追加の串」800円と「季節の炊き込みご飯」800円、half400円も用意しています。こちらの名物である「つくね」はその食感に驚く人が続出。ほんの少しだけ刻んだ茗荷を入れているそうですが、それとは別の食感で話題になっているのです。
「できるだけすぐに召し上がってください」と置かれた串は、噛むと薄い膜の中からやわらかい肉が舌にのり、ふわっ、とろっと溶けるように崩れ、じゅわ〜っと肉汁があふれてきます。ところが2口目になると余熱でほんの少しだけ歯応えを感じるように。この前代未聞の食感にするためには、肉の温度を一定に保ちながら4時間かけて仕込むそう。これは話題になるのも納得です。
「肝」は自家製タレをたっぷりつけて焼き、山椒オイルを裏面に少しだけ塗って香りづけ。仕上げに青山椒を振りかけます。
艶やかに焼き上がった「肝」のふんわり&しっとりとした食感にうっとり。松山さんの火入れ技術の高さたるや! これがほぼ独学と言うのだから驚きます。タレは甘めですがクドさはなく、山椒がピリッと利いた絶妙な甘辛バランスに松山さんの舌のセンスを感じます。
前半の焼鳥の後には「鶏の一品」の「チキンカツサンド」が登場。薄い衣をつけ、中心だけレアに仕上がるように揚げた胸肉はカリッカリに焼いたトーストに挟み、食感の妙を楽しみます。リンゴ酢を使用した自家製マスタードの酸味のまろやかさが絶妙で専門店ができるレベル。一切れではなくフルサイズで食べたくなります。
後半の焼き鳥の最後は〆をおいしくさせる「ねぎ間」
「チキンカツサンド」でリセットすると後半の焼鳥5種が始まります。出色は「ちょうちん」。それはよく見るキンカンとヒモを串にさしてタレ焼きしたものとはまったく異なります。
鶏のミンチとディルなどのハーブで作った「鶏ソーセージ」を卵管に詰めたものとタレをつけたキンカンを一つの串にさして鶏油を塗って焼き、最後に岩塩を一振り。「ちょうちん」は一口で食べるのが鉄則。口中でほんのり温かい程度のキンカンがプチッと弾け、熱々の鶏ソーセージに絡むといい塩梅の温度感に。
こんな「ちょうちん」があったとは!ときっと誰もが驚くはず。「キンカンは卵になる前の卵黄なのでまろやかさだけでうまみがなく、卵管もそのままだと味気がないのでどうしたらおいしく食べてもらえるか考えました」と、キンカンはタレをつけることで、卵管はソーセージを入れることで味わい深い“シン・ちょうちん”が誕生しました。
こちらはインスタで一番人気の「ねぎ間」です。一昼夜寝かせた丸鶏の皮を3〜4日間ドライエイジングして余分な水分を取り、ささみは当日もしくは2日目のものを使い、この素晴らしい食感を作りあげます。
皮は揚げたかのようにサックサクで、身はしっとりとやわらかい。「ねぎ間」は肉と肉の間に葱を挟むことが多いですが、こちらは肉で浅葱を巻いて皮をのせています。スタイルは変わっていても葱の甘みで肉のうまみを引き出すのは同じなので、食べるとれっきとした「ねぎ間」。隠し味に2種類のナッツを入れた九条葱のペーストはねっとりと甘みが強く、葱の風味を高めており「葱の風味を活かした『ねぎ間』を作りたかった」という松山さんの意図が伝わる串です。
すべての串が印象的!
〆は鶏のミンチを弱火で炊き、肉のうまみを引き出した清湯で塩ダレを割ったスープと細麺と細葱のみという、器の中にうまみだけを入れたかのようなシンプルで美しい「鶏ラーメン」です。
なんという繊細な味わいなのでしょう。クリアなスープはふわりと鶏油の香りが漂い、口にすると胃袋にじんわりと染み渡ります。サラリと食べられる細麺もこのスープにはピッタリ! 「焼鳥を10本食べた後なので、翌日残らないように軽い仕上がりにしています」と、食べ疲れしない焼鳥を提供する松山さんらしい〆麺です。追加メニューの同じ鶏スープで炊いた「季節の炊き込みご飯」にこのスープをかけると、相乗効果で至福の味わいに。
松山さんの串は美しく創造性があります。それは決してうわべを飾るのではなく、すべての部位をレアで提供できるほど新鮮で上質な鶏肉と炭を邪魔せず角が取れたまろやかさが出せる藻塩とゲランド塩を混ぜたものを振り塩に使い、それぞれの串に最適な温度に焼き切る技術の高さが根幹にあった上で、松山さんのアイデンティティをプラスしてこれまでにない焼鳥の世界に誘ってくれるのです。
「他の焼鳥店に食べに行っていいなと思う串に出会ったとして、真似をしたらそれを超えられないし、同じものを作っても意味がないんです。だったら同じ部位で違うベクトルのおいしさを目指したい」という松山さんの串に、大いなる魅力を感じてしまうのです。
※価格はすべて税込