〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はフードコラムニストとして活躍する門上武司さんに“食堂を超えた食堂”を教えてもらった。

教えてくれる人

門上武司

1952年大阪生まれ。関西中のフランス料理店を片っ端から食べ歩くももの足らず、毎年のようにフランスを旅する。39歳で独立し「株式会社ジオード」設立後はフードコラムニストというポジションにとどまらず、編集者、プロデューサー、コーディネーターとマルチに活躍。関西の食雑誌「あまから手帖」編集顧問であり、全日本・食学会副理事長、関西食文化研究会コアメンバー。著書には「食べる仕事 門上武司」「門上武司の僕を呼ぶ料理店」(クリエテ関西)、「京料理、おあがりやす」(廣済堂出版)、「スローフードな宿1・2」(木楽舎)、など。年間外食は1,000食に及ぶ。

食堂を超えた食堂

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

寺町夷川西入ルにある、食堂らしい外観

京都市役所前駅から徒歩5分程度。寺町夷川を西に入ったところに、ザ・食堂な外観の一軒がある。海鮮がうまいと評判で、曜日ごとにメニューの変わるお昼の定食は高コスパと、地元の人々に愛されている。

気さくな店内にはテーブル席とカウンターがある

海鮮がうまいのには理由がある。店主の前田慎太朗さんは、京都市中央市場の仲買人であり、魚屋も営んでいる人物だ。「午前は市場に行き、魚屋の仕事をしていますよ」とのこと。もちろん鮮度が自慢の造りや焼き魚などおいしい海鮮が味わえるのだが、この店はひと味もふた味も違う。まずは、店内のずらりと下げられた手書きのメニューを見てほしい。「はもと甘海老のビスク」「鴨のロティ ソースビガラード」「月の輪熊と実山椒の小鍋」などなど。ここはいったい何屋?となってしまうのだ。

カウンターのケースには鮮魚が並ぶ
店内にずらりと並ぶメニュー。目移りしてしまう

今の店は前田さんが、魚屋のお客さんだった「食堂ゑびす」の前の店主から引き継いだ。わけあって、前の店主が9年前に店ができなくなり、頼まれたからだそう。当初は、以前のメニューを踏襲していたが、「自分のやりたいことを」と、店の形態は変えずに、自分らしさをどんどん加えていった。「変な店でしょ?」と前田さんは笑うが、元々前田さんは料理人。調理師学校卒業後、東京のフランス料理店などで経験を積んだそう。食堂の内観で、前田さんのアイデアが光る、ひと手間工夫された料理が味わえるのは、そういった経緯からだ。

店主の前田慎太朗さん。明るい人柄で元気がいただける
 

門上さん

東京の食いしん坊や、知人の精肉店店主から存在を聞いていたので訪れてみました。当たり前のメニューが、予想を超える味わいでした。