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お菓子博士・猫井登のスイーツ白書Vol.2「ロールケーキ」
お菓子の歴史研究家・猫井登先生が毎回ひとつのスイーツを取り上げ、その成り立ちについて解説し、「食べログ スイーツ 百名店 EAST 2018」と「食べログ スイーツ 百名店 WEST 2018」からオススメのお店を紹介してくれるという、なんとも美味しいこの企画。連載第2弾となる今回は、おやつの定番「ロールケーキ」編です!
ロールケーキってどこの国で生まれたの?
編集(以下、編):ロールケーキって英語ですよね? イギリスか、アメリカのお菓子ですか?
猫井先生(以下、猫):いいところに気がつきましたね! 実は、イギリスのヴィクトリア女王がスイスを旅行した折に持ち帰った「ルーラード」というお菓子に由来するといわれ、イギリスでは「スイスロール」と呼ばれています。昭和30年代にヤマザキが発売したロールケーキは今でも「スイスロール」の名で呼ばれていますよね。
編:たしかに! 元々はスイス発祥なんですね。
猫:そういう説もあるんですけどね。ロールケーキというのは、スポンジを巻いたものでしょ? でも、スポンジ生地はスペインで生まれたものといわれていて、それを考えるとしっくりこないんですよね。それに、スペインのカタルーニャには、古くから「ジプシーの腕」と呼ばれるロールケーキがあるんです。
編:ジプシー…ギターが上手そうな名前ですね! では、スペインからスイスに伝わったものだと?
猫:スペインは一時、ハプスブルク家(ドイツ系の貴族)の支配下にあったわけですが、ハプスブルク家は元々、スイス発祥の貴族なんですね。
編:(なんだか複雑になってきたぞ…)ハプスブルク家によって、スペインから伝えられたと?
猫:そうです。ロールケーキは、オーストリアやハンガリーで発展したもので、スイスはあまり関係ないという説もあって、それらの地域はまさに、ハプスブルク家が支配した地域なんです。今でもハプスブルク家の中心であったウィーンでロールケーキが多く見られることとも合致するわけです。
編:なるほど…日本には、いつ頃、どうやって伝わったんですか?
猫:16世紀の半ばに、スペインの隣の国であるポルトガルから、いわゆる南蛮菓子として伝わったとされています。当時のものは、オレンジ果汁を加えたスポンジ生地を巻いたような単純なものでした。お正月の「伊達巻」のルーツもロールケーキだといわれているんですよ!
編:伊達巻のご先祖様がロールケーキ!? たしかに似ていますね。
猫:さてさて、そろそろ現代日本のロールケーキの話をしましょうか。
編:そうでした! ロールケーキにも色々な種類がありますよね。
猫:そうですね。元々は、生地にクリームもしくはジャムを合わせたシンプルなタイプのものでしたが、やがてフルーツなどを巻き込んだ“巻き込みタイプ”が登場します。1992年に「パティスリーキハチ」から発売された「キハチトライフルロール」が、その先駆けだといわれています。
その後、抹茶ロールやきなこロールなど、クリームや生地そのものに工夫を凝らした“アイディアタイプ”や、生地の上にデコレーションを施した“デコレーションタイプ”も登場してきました。最近では、さらに新たな考え方というか、新しいトレンドもありますね。
編:ロールケーキの新しい考え方??
猫:きっかけとなったのは、ローソンが2009年9月29日に発売した「プレミアムロールケーキ」でした。これは、多くの画期的な要素をもったロールケーキでした。まず1つ目は、製法。通常のロールケーキは、生地にクリームをのせる→巻く→切るという工程で作りますが、この商品は、容器に細長くカットした生地を立てて円筒を作り、中央にクリームを充填するという“巻かないロールケーキ”だということ。
2つ目は、クリームをスプーンですくって食べるということ。生地をクルクルと巻くことから出発したロールケーキに対してクリームが主役となりうることを広く示し、「ロールケーキの主役は、生地か?クリームか?」という根本的な問題提起を行ったのです。
3つ目は、完成度が高く、コンビニスイーツブームを巻き起こしたことです。パティシエも安穏としていられない時代となったのです。
編:なんだか、ただ事ではない感じがしてきました…。
猫:もちろん、製法に関しては、ムース系のホールケーキでよく用いられる方法だし、クリームが主役のロールケーキに関しても生地を「の」の字形ではなく、O字形に巻いた「ログロール」というものが以前からあるじゃないかという人がいるかも知れません。でも、ホールケーキの製法をロールケーキに応用し、切らないで済むようにしたことは画期的ですし、ロールケーキのクリームをスプーンですくって食べるという発想も斬新でした。
こういった背景を知ると、ロールケーキを見る目が変わってきませんか?
編:ロールケーキだけに、目が回りそうです。
猫:座布団一枚! オチもついたところで、ロールケーキの名店を紹介していきましょう。
あらゆるタイプのロールケーキが勢揃いする実力店「ル・パティシエ ヨコヤマ」(千葉)
〈シンプルタイプ〉の「谷津ロール」出典:kickusajpさん
千葉の名店として名高いパティスリー。シェフの横山知之氏は、専門学校卒業後、「ホテルオークラ」「ホテルニューオータニ」など、超一流のホテルで修行され、「マンダリンナポレオンコンクール世界ベルギー大会」準優勝、「ルクサルド・グラン・プレミオコンクール」優勝、「ジャパンケーキグランプリ」優勝など、国内外の大会で数多くの賞を獲得された実力派。「ホテルニューオータニ幕張」では、シェフパティシエに就任。『テレビチャンピオンケーキ選手権』では初の3連覇を達成された。
こちらのお店では、さまざまなタイプのロールケーキのラインアップされており、ロールケーキ好きにはたまらないお店。
〈巻き込みタイプ〉の「貴婦人ロール」出典:まりゅたさん
〈アイディアタイプ〉の「黒蜜わらび餅ロール」出典:姫ちん♡さん
〈デコレーションタイプ〉の「マンゴーロール」出典:眞論酔徒さん
「谷津ロール」には、生地の焼き目を残した(茶)と焼き目のない(白)の2種類がある。写真は白。卵の風味がしっかりと感じられる、ふわふわのスポンジにふんわりと泡立てられたクリームが巻かれ、口の中で消えていく、軽いロールケーキ。
「貴婦人ロール」は、バナナ、キウイ、イチゴ、オレンジ、ブルーベリーなど季節のフルーツを生クリームとともに巻いた彩りの美しいロールケーキ。そのほか、ちょっと変わり種の「黒蜜わらび餅ロール」や、デコレーションの美しい「マンゴーロール」もオススメ!
冷凍したまま食べればアイスクリームのようなロールケーキを楽しめる!「シェ・アガタ」(京都)
「アガタロール(抹茶)」出典:りりたさん
京都宇治の三室戸寺近くにある、宇治抹茶のスイーツが有名なお店。ロールケーキ「アガタロール」には、「抹茶」のほか「ミルク」「ショコラ」のバリエーションがある。
「アガタロール(ショコラ)」出典:時くんさん
冷凍状態で購入するロールケーキで、冷凍のままでも、解凍しても美味しく食べられるという逸品。冷凍状態ではアイスクリームのような食感を楽しめ、これからの暑い季節にもピッタリ! 解凍すると抹茶の味わいがより強く感じられる。こちらのロールケーキの断面はO字形。ロールケーキの主役はクリームといわんばかりに、上品な味わいの抹茶クリームが真ん中にたっぷり詰まっている。
異国情緒漂う空間で味わうほっこりロールケーキ「五感 北浜本館」(大阪)
五感 北浜本館の内観 出典:ジョルノ☆さん
大阪・北浜にある重厚な建物の中にあるパティスリー。大正時代に建てられたという、こちらは元々銀行で、現在は国の登録有形文化財に指定されているのだとか。異国情緒漂う建物の内部は、1Fがパティスリーで、吹き抜けとなっており天井が高い。2Fの吹き抜けを囲む部分がサロンになっている。建物だけでも一見の価値のあるお店だ。ケーキを注文すると、トレイに全種類をのせて席まで持って来てくれ、実物を見て選ぶことが出来る。
ケーキのトレイ 出典:★papi★さん
「お米の純生ルーロ」出典:akiiさん
こちらの「お米の純生ルーロ」は、新潟県胎内産のコシヒカリを100%使用し、しっかりと焼き色をつけた柔らかな米粉生地で生クリームを巻いたもの。中央にはカスタードクリーム。一緒に巻き込まれた丹波産の黒大豆がほっこりとしたアクセントを与えている。
文:猫井登