〈噂の新店〉
大阪・淀屋橋の「芝川ビル」奥にある、築100年超えの木造建築が全改装。2024年1月、一棟丸ごとリストランテ「isolata(イゾラータ)」としてオープンしました。大阪の名門ホテルや、現地イタリアでの修業経験もある斎藤章仁シェフならではの味づくりは、モダンなのにクラシック、そのバランスが絶妙。大阪在住のフードライター船井香緒里によるレポートです。
教えてくれる人
船井香緒里
福井県小浜市出身、大阪在住。塗箸製造メーカー2代目の父と、老舗鯖専門店が実家の母を両親に持つ、酒と酒場をこよなく愛するヘベレケ・ライター。「あまから手帖」「dancyu」「BRUTUS」などでの食にまつわる執筆をはじめ、「dancyu.jp」で連載「大阪呑める食堂」を担当。食の取り寄せサイトや、飲食店舗などのキュレーションもおこなう。「Kaorin@フードライターのヘベレケ日記」で日々の食ネタ発信中。
名建築「芝川ビル」奥に突如現れる“都心の隠れ家”
大阪・淀屋橋にある芝川ビル。昭和初期の竣工当時の姿を残したまま、商業施設として利用されているここはまさに、大阪の生きた名建築の代表格。ビル内を進みゆき、木の扉の向こうのアプローチを抜けた先にあるのが「isolata」。初めて訪れる方は、少し、いやめっちゃ迷うかも? まさに“隠れ家”という言葉がぴったりのリストランテだ。
戦前、芝川ビルには「芝蘭社(しらんしゃ)家政学園」という花嫁学校があった。当時、洋裁室(ミシン室)として使われていた一棟を、近畿大学建築学部准教授である建築家・高岡伸一さんが大幅リノベーション。一棟まるごとレストランへとアップサイクルする「芝川ビルHANAREプロジェクト」と名付けられ、この場所に「isolata」が誕生したのは、2024年1月のこと。
爽やかな笑顔で出迎えてくれたのは、オーナーシェフ・斎藤章仁さん。「リーガロイヤルホテル大阪」や、「セント レジス ホテル 大阪」のイタリアンレストランでの勤務を経て、イタリアへ渡り、現地で3年間キャリアを積んだ。その修業先は多岐にわたる。
エミリアロマーニャ州の小さなトラットリアを皮切りに、カンパニア州・ソレントにあるリストランテへ。その後は、ピエモンテ州や、トレンティーノ=アルト・アディジェ州、ヴァッレ・ダオスタ州、ラツィオ州にある星付きレストランを渡り歩く。つまり、北はトレンティーノ・アルト・アディジェ州から南はカンパニア州まで(フランスやスイスと国境を接する地域でも)、各州に伝わるローカルな料理と向き合ってきた料理人なのだ。
「イタリア各地に伝わる郷土の味をベースに、少しの変化球を楽しんでいただけたら」と斎藤シェフは穏やかな表情を見せる。
高コスパのコース料理。モダンな皿が、食べ手の心をつかむ
イタリアのクラシックとモダン、さらには日本の四季が見事に融合した味づくりが「isolata」ならでは。昼夜共にコースのみで、ランチは5,500円(6皿)〜、ディナーは7,700円(8皿)〜。値打ちのある構成でいて、おいしい驚きがコースの随所に。
この日の前菜は、「ヨコワとイチゴ!?」という意外な組み合わせ。表面を軽く炙ったヨコワに、イチゴと赤玉葱のアグロドルチェ(甘酢漬け)や、エディブルフラワーが添えられた、じつに華やかな一皿。
ヨコワは程よい旨みと清々しい風味が印象的。そこに、赤ワインビネガーやシェリービネガー、砂糖などで味を調えた赤玉葱のまろやかな酸味がじんわり広がる。さらに、イチゴのフレッシュな甘酸っぱさが重なることで、複雑味と奥行きのある味わいに。驚きのある構成でありながら、じつに調和が取れた味わい。
前菜と同じく、見目麗しい一品が「ビーツのリゾット」。「修業先のイタリア人は、コース料理の中の“リゾット”で遊んでいました。つまり、旬素材を組み合わせながら遊び心を加えていたのです」(斎藤シェフ)
斎藤シェフが主役にしたのはビーツ。その鮮やかな色合いと素朴な甘み、パルミジャーノ・レッジャーノやバターのコクとまろやかな味わいが溶け合い一つに。そこに白魚のフリットを添え、サクサクとした食感のアクセントを。さらに「飽きずに味わっていただけるように」と添えた、ディルの香りを利かせたレモンクリームによる味の変化も楽しい。まさに華やかさと、食べ進む楽しさを兼ね備えた名作!
これから夏にかけては、ミントの色合いと爽やかさを生かしたリゾットも登場する。