【食を制す者、ビジネスを制す】
デパートの屋上ですするうどんの効用
本当にリラックスできていますか?
ゴールデンウィークも近づいてきて、これから青空が広がる暖かい季節がやってくる。多くのビジネスパーソンも連休をどう過ごそうか、そろそろ考え始めているところだろう。でも、仕事が気になって、考えあぐねている人も少なくないのではないだろうか。私も仕事の日程のことを考えると、心から休日を楽しむ気分にはなれない。本当は楽しみたいけれど、どうしても頭の片隅にやるべき仕事の数々が残ってしまって不完全燃焼になる。
私の場合、本当にリラックスできるのは、懸案の仕事が終わった日の夜ぐらいだ。どうすれば仕事のストレスから逃れて本当にリラックスできるのか、いつも悩んでいる。
ここ最近は連日、仕事が集中していたせいか、こめかみのあたりがずっとピクピクと痙攣しているような日々が続いた。ちょっと休みたいと思うけれど、目の前の仕事をこなさなければ、後からやってくる仕事と重なって“渋滞”してしまう。だから結局、逃げることはできない。
仕事をしながら、少し気を休めてリラックスしたい。そんなときは自宅近くの銭湯に行くことにしている。都内の銭湯は、大人1人460円で入ることができる。かつては存亡が危ぶまれた銭湯だが、最近では、ビジネスパーソンや若者たちも好んで銭湯に来るようで、近くの銭湯も夜や休日はロッカーが全部埋まってしまうくらい盛況だ。
経営者も悩んでいる
それでも仕事や何かで夜ずっと考えていると、ときには完全に眠れなくなることもある。皆さんもそんな経験はないだろうか。実は私たちと同じように経営者も考えている。私がインタビューしたある著名な経営者は、どうしても眠れないときは、気功と瞑想をして、頭の中をリラックスさせるという。瞑想では、例えば、頭の中に南の島で自分が楽しんでいる姿を想像して、なるべくストレスを溜めないようにしているそうだ。
経営者の一番大きな仕事は「考えること」だと言っていい。では、日々どんなことを考えているのだろうか。その経営者はこう言う。
「大事な経営決断の〆切が迫っていたり、何らかの判断をしたりするために考えている時間は全体の3分の1くらい。残りの3分の2は、自分の考え方だとか、世の中が今後どのように変化していくのか。そんなことを漠然と夢想、妄想していることが多いですね」
何かを決めなければならないときには論理的思考を司るといわれる左脳を使い、3分の2は感情や感覚を司る右脳を使って、創造的なことを考えているという。ただ、会社が右か左どちらに進むべきか考えるときも、実は右脳で考えていることが多いそうだ。
「車の運転をするときも、ずっといろんなことを考えています。お恥ずかしい話、そのせいで東京に60年間住んでいて、ほとんど道を覚えていない。これまでに2、3回自分の家に帰れなくなったこともありました。ふと我に帰ったら、ここはどこなのかわからなくなった。それほど経営について何かを考えていたんでしょう」
デパートの屋上の青空うどんで一息
人は左脳だけでなく、右脳も動かし、健全に仕事に向かうためにも、少しボーっとする時間が必要だ。だから、忙しい1日であっても、ほんの少しの時間、自分をリラックスさせて、ボーっとする時間を持ったほうがいい。例えば、ランチの時間、短時間であるにせよ、少しは仕事を忘れて気分転換することも必要だ。
そんなとき私がふらりと寄るのが西武池袋本店の屋上にある讃岐うどん店「かるかや」だ。エレベーターで本館9Fまで昇り、屋上に出ると、典型的なデパートの屋上に目立たない感じのセルフサービス形式の簡素な店舗がある。それが「かるかや」だ。多くのファンがいる名物店で、店舗には、たいてい行列ができているから、場所もすぐにわかる。並んでもたいして時間はかからないから心配する必要はない。
この店に来て、だいたい注文するのが、山菜や油揚げの入った「スタミナうどん」、または釜揚げの「つけうどん」だ。どちらも人気メニューで、揚げ玉と生卵が入っていて、これが食欲をそそる。値段もスタミナうどんが550円、つけうどんが450円だから財布にもやさしい。
先日は午前中、池袋で仕事があり、終わったのが11時30分ごろだった。晴天に恵まれ、その日は気持ちよかった。これならいける。そこで、迷わず「かるかや」へ向かった。注文するとトレイに載って出てきたスタミナうどんに七味をかけ、適当に食べる場所を探す。誰もいない4人掛けの席に1人で座って、うどんをすする。うまい。生卵を崩して、スープに混ぜて、もう一度すすると、揚げ玉の油と合わさって、これまたいい味になる。そうして、ふと目線を上方に向ける。青空が広がっている。なんだろう、この開放感は。青空が本当に気持ちいい。平日のランチ時の少し前。ボーっとしながら、青空を眺め、うどんをすする。この店の本当のごちそうは「青空」だ。束の間の休憩だったが、私は気分が弾むような心持ちになって、次の仕事へ向かった。