〈これが推し麺!〉

ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。

今回訪れたのは、京都の花街・上七軒からほど近い場所にある「ポーヨネン」。フィンランドのレストランの人気メニューを再現した黄色いパスタは、誰もがとりこになる味……!

教えてくれる人

猫田しげる

20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」(手帖好き?)などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。

西陣×町家×フィンランド! 店内も店主もクセ強め!

西陣の町家でフィンランド料理って、京都はやっぱり町家先進都市だなと思います。ここ「ポーヨネン」は、築100年ほどの古民家を改装して2019年にオープンしたフィンランドカフェ。京都五花街の一つ、上七軒からもすぐの場所です。

入り口の扉がやや建て付け悪い(笑)。スムーズに開閉できるようになると「自分、常連になったな」と実感します

今出川通からすぐの場所にあるのですが、三叉路の長屋の一角にあり、車も入りづらい。この外観を見るだけでも「ただもんじゃない店だろうな」と予想できますね。

隣はギャラリーになっており、切り絵展などが不定期で開催されています

扉を開けると、店内はフィンランドまみれ。壁もカウンターもテーブルの上も、何かしらフィンランド関連のグッズで埋め尽くされています。雑貨も、飾られているのか販売されているのか分からない状態です。

細長い土間の奥には「おくどさん」もありました
友人が作るフィンランドのスイーツや、現地直輸入のお菓子も販売。世界一マズいあめとして名を馳せる「サルミアッキ」もありますよ!

これらは全て、店主が現地の友人に頼んで送ってもらったり、自分が行った時に買ってきたりしてそろえたもの。日本では見たことのない柄のマグカップやバッグなどもあり、さすがデザイン大国!と見入ってしまいます。

 

猫田さん

余談ですがカメラマンが「サルミアッキ」大好きだそうで、爆買いしていました。私も1個もらって食べたらマズかったー!(現地では大人気)

フィンランドに魅せられて会社を辞めちゃった、店主「えみぞう」さん

このクセの強い店を営むのは、えみぞうさん。本名は明かさず、どの媒体でもえみぞうさんで通っています。私も会った時からえみぞうさんと呼んでいたので、結局本名を聞きそびれたまま今に至る(ぬるい取材……)。

周辺グルメ情報に詳しいえみぞうさん。おいしい店の話で盛り上がりまくります!

えみぞうさんは金融関係の会社に勤めていましたが、14年ほど前にフィンランドにハマり「エグい時は年に2回ぐらい行っていた」そう。会社の上司も長期休暇を取ることに嫌な顔をせず、むしろ「今年はオーロラ見に行かないの?」とけしかけてくれるほどだったとか。理解がある職場ですねえ。

では念願のフィンランドカフェを開くために会社を退職したのかというと、実はそうではないんです。「歳を取ると体力的にも行きたいところに行けなくなるのが嫌だなって。元気なうちにいっぱい旅行したいと思って、辞めちゃえって」。随分勇気がありますね! 私だって台湾とか行きたいですが、そんな勇気も熱意もないので、いくばくかの安月給を貰うために会社勤めを続けています。

フィンランドのビールも飲めます! 販売してないのですかと聞くと「お酒を売るのは別の許可が要るんです」とのこと。へ~

でも実は辞める後押しになったのは歌手のユニコーンの『大迷惑』だそうで。「歌の最後に『お金なんかはちょっとでいいのだ』って叫ぶじゃないですか。それ聞いて『そうなのだ!』って思って」。

それでピーンと来るなんて、やっぱりえみぞうさんは私がにらんだ通りちょっと変人です(笑)。いや本当にこういう人、好きです。

そうして町家でカフェを開くに至るまでは、話せば長くなりすぎるので割愛しますが、知人がこの物件を持っていて「あんた何かやらへん?」と無茶振りされたのがきっかけ。しかしえみぞうさんは料理好きではあったけれど素人なので、とある料理人に弟子入りして修業したのだとか。

フィンランドに行かなくても食べられる! レモンクリームのパスタは忘れられない味

「わーレモン色ですね!」と言ったら、ターメリックが入っているからだそうです。確かにレモンでこんなに色は付かないか……

カフェで何を出そう?と考えた時に、「フィンランドの家庭料理も良いけれど、現地の人も好きで食べに行く、本場の人気メニューが喜ばれるのでは」と、ヘルシンキのレストラン「Cafe Bar No 9」の名物「ポロ リモネッロ」を看板メニューにしようと決意。

ソースは、ヨーグルトに生クリーム、ニンニク、カイエンペッパーなど多種類のスパイスやハーブを加えて煮詰めます。レモン汁も入れ、生レモンもトッピング

このレシピは本やネットでも公開されているのですが、同じ材料を使って同じように作っても、「何か違う……」となったそう。そこで料理の師匠にこのパスタに入っている材料を伝えて相談したところ、「イメージはカレーやな」との答え。さらに「料理にはストーリーが大事」との深いアドバイスをもらったのだとか。

パスタは2.2mmを使用。ゆで時間16分という料理人泣かせの極太麺です

それを聞いてえみぞうさんは「つかんだ」そうで、落としどころはカレーをイメージして作ってみたところ、納得のいく味に仕上がったのだとか。

ただヘルシンキのレストランと一点違うことと言えば、パクチーではなく紫蘇をのせること。「日本はパクチーが苦手な人が多いので、大体『いらない』と言われるのが寂しくて。それなら最初から他のもので代用してしまえ!と」

 

猫田さん

えっ、パクチーの方がおいしそうじゃんと思いますが、確かに苦手な人は多いですからねえ。

ポロ リモネッロ900円。けっこうな爆盛りですが「何も考えないで作るとどんどん量増えるんです」と

麺がむっちむちで、ヨーグルトのほのかな酸味とレモンの香り、ニンニクや唐辛子も利いていて、食べる手が止まらない! 日本にはない、“エスニックなクリームパスタ”と表現したくなる味です。

自家製チキンハム、タマネギも入って具材感もあります。そうそう、ポーヨネンはどの料理も量が多い。「カフェ飯ってちんまりしているイメージですが、私は現地みたいにドカッと出したくて。でも女子にそれやると『スイーツまで入らへん』ってなるので、加減するようになりました」。ええ店や!