すべてのバランスが最高。最後までおいしい

ヤリイカとカラスミのタリオリーニ 2,530円

仕上げにたっぷりのカラスミと刻んだトレビスをのせて完成。ヤリイカの香り、うまみ、カラスミのコクある塩味をまとったパスタ。トレビスのほどよい苦みがアクセントとなり、食べ飽きることなくペロリと完食だ。

パスタそのものもおいしいが、具材のうまみが染みて味わいがより深まる

出来立てはもちろんだが、時間が経ってもパスタはぐたっとのびることなく、逆にさまざまなうまみを吸って味わい深くなっていく。一口ごとに味わいの変化を発見できるほど、この一皿で得られる満足感に驚きを隠せない。このパスタだけでワインが進む。

 

武智さん

噛むほどにセモリナ粉の甘やかな香りが口の中に広がります。手打ちパスタならではの味わい。甘み、うまみ、塩味、苦み……さまざまな味わいが口の中で絶妙に絡み合う、秋野シェフが仕上げたバランスの良さに感服です。

もっと味わいたい! パスタと共に楽しむなら

もう一皿。「ラ ファーメ」のパスタに心奪われる

もう一皿はショートパスタを。こちらは具材の豚モツと同じような大きさ、食感のパスタ(オレキエッテ)で仕上げることで、同じような大きさながら、モツは柔らかく、パスタはもっちりと異なる食感を実現させている。

豚モツのオレキエッテ 2,530円

仕上げにのせるミニトマトの酸味が、口に残る豚モツのコラーゲンをさっぱりとさせてくれる。やはり、味のバランスが素晴らしく、いつまでも食べていたいと思わせる一皿。シャンパーニュや白ワインと合わせて味わいたい。

モツは3種類を使い、味わい深く、食感も楽しい。このバランスは秋野シェフならでは
 

武智さん

口に含むとモツの香りがブワッと広がり、噛むとうまみが滲みます。この豚モツソースはそれだけでつまみになるおいしさ。もちもちしたパスタが入ることで食感の幅が広がり、噛む楽しさまで教えてくれます。

肉のうまみとソースが作る、唯一無二の味

和牛ほほ肉の赤ワイン煮 4,950円

メインからの一皿。和牛のうまみ、甘み、ワインソースの程よい酸味とコクが相まって、「はぁぁ」とため息の出るおいしさ。

A5ランクの黒毛和牛を赤ワインと共にじっくりと弱火で煮込むこと8時間。
フォークだけですっとほぐれていくほどに軟らかく、数度噛めばうまみを放ちながら溶けるように身が消えていく。また和牛の脂の甘み以外に感じられる甘みは自家製の2種のキャラメルをソースに加えているからで、これがほどよい苦みと甘みを演出している。また肉塊の下にあるのはマッシュポテトではなく、べネチアあたりでポピュラーに使われる「ポレンタ」。独特の味わいがソースと好相性だ。

ボリュームある見た目とは裏腹に、実に繊細に仕上げられた逸品なのだ。

 

武智さん

「時間短縮になるからと、圧力鍋を使うことはありません。時間をかけ、ひたすら丁寧に煮込みます」(秋野シェフ)。だからこその味わい。大満足のおいしさ。ただ寝る時間を惜しみ、時間をかけて仕上げた逸品なのに、10分くらいで食べてしまってごめんなさい。

訪れるたびに、新しい味と出合う。食の楽しさがここに

今回紹介した手打ちパスタ、そしてメイン料理。こだわりと技術があればこそのおいしさだ。が、副菜のようになっている野菜も、実はシェフの中では主役の扱いで、実家で作る無農薬や有機栽培の野菜を中心に使用している。

さらにどのお皿も同じ味での提供はしないという。年齢やお酒の有無を見て微妙に塩分や仕上がりの量を変えるという目に見えない気配りも。また先に紹介した「豚モツのオレキエッテ」も頼めば豚モツの煮込みのソースだけで提供もしてもらえる。ショートではなくロングパスタで楽しみたいという要望にも応えてくれる。ただおいしいだけでなく、すごく楽しい時間を「ラ ファーメ」で過ごしてもらうために。そういう哲学がお店にあるからだ。

これは知識とフレキシブルな対応が求められることで、言うは簡単、実現は難しい。料理のこと、それを食べるお客さんが浮かべる笑顔のことを24時間、考えている秋野シェフだからこそできるのだ。ランチは単品で1,320円〜、前菜・パスタ・ドルチェ付きのコース「Corso(コルソ)」が2,640円(いずれも自家製パン・飲み物付き)。まずはランチからでも良いので、秋野ワールドを楽しんでみてほしい。

※価格は税込。

取材・文:武智新平、食べログマガジン編集部
撮影:長尾真志