〈これが推し麺!〉
ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。
今回ご紹介するのは、類いまれなるセンスとアイディアで話題沸騰中の「OLD RAMEN」。月替わりで登場するフルーツラーメンは「毎回、想像をはるかに超えてくる」とコアなファンが急増。気になる3月の新作は“禁断の果実”を使った、型破りな一杯。ファンタジックでドラマティックなラーメンに新しい味覚の扉が今、開く!
教えてくれる人

小寺慶子
肉を糧に生きる肉食系ライターとして、さまざまなレストラン誌やカルチャー誌などに執筆。強靭な胃袋と持ち前の食いしん坊根性を武器に国内外の食べ歩きに励む。趣味は一人焼肉と肉旅(ミートリップ)、酒場で食べ物回文を考えること。「イカも好き、鱚もかい?」
朝9時開店のラーメン店は独自メニューのオンパレード!

最寄り駅はウルトラマンで知られる小田急線の祖師ヶ谷大蔵。のどかな空気が流れる住宅地を15分ほど歩くと、出待ち行列でおなじみの東京メディアシティ(通称TMC)が見える。推しのタレントを一目見たいというファンの熱意を感じながら、麺好きが目指すのは、昨年、同じ小田急線の豪徳寺から移転をした「OLD RAMEN」だ。

一見、普通のアパートのような建物の階段を上がり、小さく屋号が記された表札を目印に扉を開けると、そこにはラーメン店らしからぬ洒脱な空間が。カウンター席をメインに、テーブル席、そしてオリジナルTシャツなどのアパレルを販売するスペースも備えている。最近は東京にも朝早くから営業するラーメン店が増えているが、こちらも“朝ラー”に軸足を置いており、バーのようにおしゃれな雰囲気もあって女性の1人客も多数。移転前は、今とは真逆の深夜(3時から!)に開く店、として地元のラーメン好きの間では謎多き都市伝説のように語られる存在だった。


期間限定で出したラーメンが“朝の主役”として大人気に
アパレル職から転身し、深夜営業のラーメン店を始めたという異色の経歴を聞くと、一筋縄ではいかない変わり者を想像するが、見た目にも人柄の良さがにじむ店主に優しく迎えられほっと一安心。常連客に「今日はお休みですか?」とさりげなく声をかけるなど「OLD」という店名通り、昔、家の近所にあったような古き良き日本のラーメン店を彷彿とさせる。


ところが、品書きを見ると“醤油”以外にいわゆるラーメン店の定番が見当たらない。塩ミルクに醤油ミルクとは、まるでかき氷店のようでもある。高まる好奇心をおさえながら塩ミルクを注文し、目の前の小さなコンロで提供直前に温められる自家製焼豚を見つめていると、やがて端正な盛りつけのラーメンが。
レンゲに書かれた「TOKYO OLD RAMEN IS THE SUPREME ART」の意味を店主にたずねると「東京の昔ながらのラーメンはすでに完成形である、というリスペクトを込めた言葉です」との答えが。「その“完成形”を踏まえながら、自分のラーメンを作るのがとても楽しい」という言葉を聞きながら、スープをすすると朝の胃袋に優しく染みるマイルドな味わいに、思わずしあわせのため息がもれる。豚骨を使わずに、豚肉や香味野菜を炊いてベースを作り、豆乳を合わせることでまろやかなコクを出しているのだという。

「朝営業にシフトチェンジしてからは、塩ミルクを頼まれるお客様も増えたのですが、実はこれも最初は期間限定でお出ししていたラーメンなんです。豪徳寺で深夜営業をしていたときはお酒を飲んでから最後の締めで来店される方が多かったので、醤油ラーメンの味も今よりだいぶ濃くしていました。醤油(ラーメン)とビールから始まったお店なので、店の軸として、少しずつ味の濃淡を変えながらお出しできたらいいなと思っています。変わり種が多いので、最初に普通の醤油を注文するのは気が引けるという方もいらっしゃいますが、常連さんには醤油も人気です。ベースの醤油だれは豪徳寺のときから継ぎ足しで使っているので、自分の中でも“はじまりの一杯”という思い入れの深さがあります」
