定食王が今日も行く!Vol.34

鰹節に恋した女性の間借り食堂で食べる、かつおめしごはん定食

週3日限定!朝8時から開く

かつお節の女神の間借り食堂

 

たまに通る渋谷の路地裏で、ずっと気になっていた神出鬼没な看板がある。それが「かつお食堂」だ。SNSで調べてみると、鰹節専門のセレクトショップ「かつお舎」を運営するオーナーが、水、木、金の朝8時から14時だけ、バー「bar&…miiiii」を間借りして「かつおめしごはん」を提供していることがわかった。

 

「かつお舎」というオンラインの鰹節専門店を運営する美人オーナー “かつおちゃん”こと、永松真依さんは、「広める価値のあるアイデア」を共有するために世界各地で生まれているコミュニティー「TEDx」の東京版「TEDxTokyo(テデックス・トーキョー)」に登壇しており、おばあちゃんが削ってくれた鰹節の思い出とその愛を語っている。

 

20代の頃、派遣とアルバイトを繰り返して将来に悩んでいたとき、おばあちゃんが作ってくれたダゴ汁に導かれ、鰹節の産地や漁師さんの元を廻るようになったそう。鰹節の良さを広めようと、削り器を持ち歩いて銀座のクラブで削ってお客さんに振る舞うパフォーマンスを行なったこともあるという。SNSで発信をしながら、ワークショップを開催するなか、現在の朝御飯食堂を開くに至ったそうだ。

 

削りたてのかつお節が

白米のステージで舞う!

 

かつお食堂メニューはシンプルにふたつのみ。メインは「かつお食堂ごはん」と呼ばれる、“かつおぶしめし”=極上のねこまんまを主役にしたシンプルな定食だ。

 

店内のカウンターにはカンナがあり、目の前で削ってくれる。削りたての鰹節に、特製の卵をトッピング、卵の黄身の上に潮かつおをちょこっとのせた“かつおぶしごはん”に、大きな油揚げが入った具沢山のお味噌汁。そしておかずは作りたてのお出汁たっぷりの卵焼きに、手作りのぬか漬けという、なんともシンプルな定食。朝ご飯にも、ちょっと胃腸が疲れた日の昼食にもぴったりのボリュームだ。

とろっとろの卵の黄身の周りを、天女のようにひらりひらりと舞う鰹節。香りもふわっと舞い上がって、ステージの上で歌姫を囲む踊り子のよう。

 

もちろん鰹節専門店だけあって、鰹節にも、卵にも、潮かつおも厳選している。静岡県の田子で明治15年から鰹節を作り続けている老舗、「カネサ鰹節商店」のものを使用。鰹節の製造方法が確立したと言われる350年前とほぼ変わらない伝統的な製法で、今や幻となった「田子の本枯節=本枯れ田子節」を作り続けている。静岡県だけではなく、日によって高知県、鹿児島県の老舗からの鰹節を仕入れており、同じメニューでも異なるかつおぶしごはんを楽しむことができる。

 

究極のかつお節エンターテイメントで

店内はかつおのワンダーランド!

 

店内にはかつお漁のDVDが流れ、かつおの絵本や、全国のかつお節のラベルをファイリングした資料などが、置かれている。日本の食卓を支えてきたかつおについて、深く学び体験できる空間となっている。

 

ちなみに箸置きも、鰹節を樹脂加工して作られており、ご飯に鰹節のお代わりをお願いすることは“追いがつお”と呼ばれている。金曜には「花かつおのような花丸な金曜日を!」と元気に見送ってくれるのだ。これぞ、極上の鰹節エンターテイメント。おばあちゃんとの思い出から鰹節に惚れ込んで、気づいたら仕事になっていたという鰹節の伝道師、“かつおちゃん”さん。

 

昭和時代と異なり、お金をたくさん稼ぐことや出世することではなく、自分らしく、好きなことを仕事にしたい人が多いなか、なかなか好きなものを見つけられない人が大半だ。意識が高いとか頑張っているというよりも、自然体で好きなことを追い続けて、漲る愛情や情熱で鰹節と人生を楽しむ姿はとても美しい。そんな彼女の姿を見て食べる、かつお節ご飯は、現状を打破したいあなたの背中をきっと押してくれるはずだ。