「食べログ 百名店」パン部門で高い評価を得た、全国上位100軒のパン屋さん。そのラインナップをもとに、パンラボの池田浩明さんが、今知っておきたいパンをとりまくキーワードを選出。その解説とともに、関連するパン屋さんを紹介します。

Keyword 03 「専門店」

第3回となる今回のテーマは「専門店」。
パンの専門店化の流れが止まらない。

昨年は、食パンブーム、コッペパンブームと言われた。

牽引したのは、続々出現した、食パン専門店、コッペパン専門店。

一般のパン屋が、あらゆるパンをカバーするゼネラリストだとするなら、専門店はスペシャリスト。

たった一品へかける情熱は熱く、追求はより深くなる。

食パン、コッペパンだけではない。

パンの世界でもともと専門店化が先行していたベーグルショップや

こんなものまで専門店が?と思うほどニッチな店も登場している。

東京・富ヶ谷「テコナベーグルワークス」

予約のとれないパン教室の先生として女性に絶大な人気を誇る高橋雅子さんがオーナー。

生地は「ふか」「もち」「むぎゅ」の3種類。

「ふか」は、パン酵母(イースト)を使用した、ふかふか食感。

「もち」は、高橋雅子さんが得意とする自家培養発酵種でもちもち食感。

「むぎゅ」は、ホシノ天然酵母でむぎゅっと詰まった食感を作りだす。

具材の組み合わせは、生地それぞれの食感や香りと相性がいいもの。

甘酒のような香りがある「むぎゅ」には、「黒豆きなこ」や「かぼちゃシナモンクリーム&大納言」など和のスイーツを。

NYベーグルをほうふつとさせる「ふか」には「キャラメルミルククリーム」などアメリカンな組み合わせが似合う。

「アンチョビオリーブ」のようなワインにも合うベーグルがあったり、ディップを組み合わせてカスタマイズすることも。

元パティシエだった小林千絵店長の引き出しからは次々と新作が登場、リピーターをも飽きさせない。

むぎゅ「黒糖栗あん&栗甘露煮」290円

もち「花椒塩チーズ」300円

東京・上北沢「ケポベーグルズ」

オーナーシェフ山内優希子さんは食感マニア。

言葉でいえば同じ「もちもち」であっても、製法や材料によって微妙にニュアンスを変え、さまざまなもちもちで魅了する。

数字が記されてかわいい「和ベーグル」。

生地に配合された酵母のパーセンテージを表す。

「4」は4%ともっとも少なくてぎゅっとした噛み応え、「10」は10%でふわふわ寄り、「6」は6%でもっちりの絶妙なニュアンスを楽しめる。

私が好きなのは「黒豆もち」。

もちもち生地の中に本当のもちが入って、2種類のもちもちの共存が不思議な楽しさ。

生地から香る甘酒のような香りと和の食材は抜群の相性だ。

「黒豆もち」291円

 

もうひとつのライン、「ニューヨークベーグル」。

山内さんは何度もニューヨークへ通い、カルチャーも食感も含めた本物のニューヨークを日本で再現しようとしている。

「エブリシング」や「ソルト」といったバリエーションはもとより、オーブンの中でベーグルとベーグルがくっついて、ちょっとへしゃげた形まで。

店にいくたび、山内さんのベーグル愛をじんじんと感じる。

※2018年春、近隣に移転予定

東京・南阿佐谷「SONKA」

バゲット生地しか焼かないパン職人がいる。

駅から少し離れた小さな店で、バゲットと黙々と向かい合っている。

ばりばりと砕け散る皮、ミルキーにとける中身。

バゲットから、村山大輔さんの情熱のほとばしりを感じることができる。

「フランスパン」250円

 

カフェ併設の店。

元ミュージシャンである村山さんセレクトの音楽を聴きながら、極上のバゲットサンドイッチを楽しみたい。

「バゲットショコラ」はバゲットに板チョコをはさんだだけの、どストレートなサンド。

カカオの苦みとバゲットの皮のナッツのような焦げ感が戯れあったかと思えば、チョコの甘さと麦の白い甘さがとろけあう。

「焼きそばフランス」はなんとバゲットに焼きそばをはさんでいる。

合わないと思われるかもしれない。

だまされたと思って食べてほしい。

そばのぷにゅぷにゅと皮のばりばりが呉越同舟、ソースのフルーティさもバゲットのよき同伴者となるのだ。

東京・丸の内「エシレ・メゾン デュ ブール」

ドアを開けるとバターの香りに出迎えられる。ダークブラウンまでしっかりと焼き上げた焼き菓子やヴィエノワズリーが放つ、キャラメル色に染まったバターの芳醇さ。

A.O.P. 認定フランス産発酵バター「エシレ」。この高級なバターだけを使用して作られるアイテムが並ぶ特別な店。フィナンシエ、マドレーヌ、バターケーキ「ガトー・エシレ ナチュール」…。

私のお目当ては、クロワッサンエシレ50%ブール(有塩と食塩不使用の二種)。エシレバターを生地に対し50%も練りこむ、恐るべき贅沢。ひやひやと冷たく舌を流れる液体はバターの岩清水。やがて中心部を噛む頃には、エシレの旨み甘みがじゅるじゅるとまるで大河の流れに。ダークブラウンの皮と合わさったとき、キャラメルのような幻想的な甘さが浮かび上がる。

「クロワッサンエシレ50%ブール」400円

フランス産を中心にした上質な素材と、クロワッサン生地とが出会って産み落とされる、パン・オ・ショコラ、パン・オ・レザン・エ・オ・ピスタシュも秀逸。

開店前から長蛇の列。でも、これを嫌っては、クロワッサンの快楽にありつくことはできない。

今後も、手を変え品を変え、ニッチな専門店は次々と登場するだろう。

たとえば、いま小さいけれど個性の光るドーナツショップが続々開店、第3次ドーナツブームを起こす勢いだ。

あるいは、バインミーサンド専門店、フルーツサンド専門店に行列ができているように、サンドイッチ専門店のタネも尽きることがない。

次は、どんなアイデアで私たちを楽しませてくれるのか、期待したい。

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)
ブレッドギーク(パンおたく)、パンライター。パンの研究所「パンラボ」主宰。パンを食べまくり、パンを書きまくる。主な著者に『パンラボ』(白夜書房)、『パンの雑誌』(ガイドワークス)など。
http://panlabo.jugem.jp/
twitter/@ikedahiloaki