焦がしハチミツとイタリアの魚醤で艶やかに輝く、八ヶ岳鹿の炭火焼き

主役を張る肉料理は、北杜市にある「明野ジビエ」の五味誠さんが仕留めた八ヶ岳鹿だ。五味さんは食への安全性のため銅弾のみを使用し、肉の臭みがでないようネックショットで鹿を仕留め、捕獲から2時間以内の鮮度を保つ処理を徹底し、うま味を引き出す熟成を施している。

この日は30〜40分ゆっくりと炭火焼きにした、八ヶ岳鹿の内腿肉が登場。肉の焼き色や焼き目を最高の状態に仕上げるため、また無駄なドリップが出ないよう、炭火で焼きながら、ディッシュウォーマーなどで肉を休ませ中心温度を低温に保つ丁寧な火入れが施されている。仕上げに行う味付けは、焦がしハチミツとイタリアの魚醤「コラトゥーラ・ディ・アリーチ」と赤ワインビネガーで作ったタレだ。

猟師、シェフというその道のプロ2人によって仕上げられた鹿肉のローストは、艶やかな輝きを放つ。ジビエとは思えぬほどしっとりとやわらかく、嫌な獣臭さは一切感じず、鹿肉のピュアな滋味だけを口に届けてくれる。「鹿肉は牛肉などに比べると脂身などが少なく淡白な味わいなので、味に奥行きを出すため」とシェフが話していたように、舌にほんのり残る魚醤の香ばしいうま味と焦がしハチミツのコクが、鹿肉の味に深みをもたらす。

この日の付け合わせは「53farm」のちぢみほうれん草のソテーと、菊芋のピュレ。どちらもシンプルに味付けは塩だけというのも、素材のことを考えてのことだろう。

デザートの「二色の苺 甘酒」は、シェフが山梨で偶然の出合いを果たし生まれた一品だ。笛吹市にある「石和いちご館青柳」の青柳仁さんが作る苺を使ったデザートを作りたいと、シェフの地元山梨の道の駅をたまたま訪ねたところ、味噌や発酵食品を製造する「五味醤油」の甘酒が目に付いた。それは「五味醤油」が地元の高校生と手を取り合い、富士山の水と富士吉田が誇る米「ミルキークイーン」でつくり上げた「レペゼンフジ」という甘酒だった。「これでジェラートを作ったら面白いだろう」と感じ、メニュー化した。発酵食品である甘酒に合わせ、苺を煮切ったみりんでマリネしている。赤い苺と白い苺の上には、チョコレート風味のクランブル、その上に甘酒ジェラートを重ね、スペインのシェリービネガーを煮詰めてバルサミコ酢のようにとろみをつけたソースをまわしかけ、苺のピュレで作ったチュイールをトッピングしている。甘酒の酒粕由来の味わいにみりんの和の甘さ、苺の甘酸っぱさが見事に調和。食後のドリンクもコーヒーや紅茶ではなく、塩山にある「つちころび」の鶴岡舞子さんが手がける8種類の野草を煮出した野草茶が振る舞われるのだから、シェフの山梨愛は深い。

コースを通じて、食材、そして生産者への限りないリスペクト、そして郷土愛が貫かれていた渡邉シェフの料理。季節に応じて、そして歳を重ねていくことでどのような料理が表現されるか今後も楽しみだ。

※価格は税・サービス料込。

撮影:佐藤潮
文:中森りほ、食べログマガジン編集部