独自の仕入れルートから入手する、最高の食材と技が織りなす料理とは?

てのしまでは、毎日の仕入れによってメニューの内容が変わるおまかせコースのみとなっている。独自のルートで手に入った旬のものを用い、林氏が考えて数種類の料理を提供している。今回は旬の魚介を使った2品と、オープン当初から人気だというにゅうめんの3品を紹介。

金目鯛 トマト酢ジュレ

金目鯛 トマト酢ジュレ

日本料理の定番であるお造りは、その時期にとれた旬の魚介でつくる刺し盛りが主流。醤油とわさび以外の味付けで魚介を食べてもらいたいと、考案して作った一品がこの料理だ。料理名を見ただけではまったく味の想像が付かないので、食べる前からワクワクする。

鮮度が良く、状態が最高の食材を仕入れることから料理は始まっている

金目鯛が持つ特有の甘味と旨味が丁寧に引き出され、ジュレのフルーティーとほんのりと感じる酸味が良い塩梅に調和されている。もちろん味の主軸となっている和の出汁感も健在だ。

 

マッキーさん

金目鯛のゆるい脂がトマト酢のジュレで引き締まり、魚と野菜の組み合わせによる料理が見事。

真魚鰹(まながつお)炭火焼きがら海老あん

真魚鰹(まながつお)炭火焼きがら海老あん

こちらも魚を使った料理だが、先ほどの金目鯛のものは違い、火を通し表面はパリッと中はふんわりとした食感に仕上げている。取材した日は初春だったので、脂がのった真魚鰹に芽キャベツが添えられていた。

旬の魚(主役)を考えて、どう調理するかを見極めている

真魚鰹の旬は夏が多いそうだが、脂がのっているものは冬〜春にとれる。この真魚鰹の濃厚で繊細な味に添えられているのは、フレンチのアメリケーヌソースのような海老あんだ。瀬戸内でとれたがら海老をベースに昆布や香味野菜、白味噌などを合わせて作られたソースは、濃厚な味を残しつつも、真魚鰹の主張を邪魔しないベストパートナーの存在のよう。

いりこ出汁にゅうめん

透き通った汁にレモンと三つ葉の色合いが美しい

料理の〆で出されることが多いにゅうめんは、いりこのみでとった透明度のある出汁が印象的。麺はやや太めで小麦の風味がしっかりと味わえるものをセレクトしており、小豆島の船波製麺所で作られたもの。これも店主の一目惚れで仕入れている。

上品な出汁のきいた汁とレモンのスッキリとした果汁感に、ツルッとしたコシのある麺の組み合わせ。食べすすめるほど、絶妙な計算で作られているのがわかる。常連の中にはこのにゅうめんのファンが多く、いなり寿司と組み合わせて食べる人も多いのだとか。

 

マッキーさん

いりこだしが素晴らしい。丸く優しく深い滋味が食事の終わりを豊かにしてくれます。

日本の食のルーツを大切にしていきたい

手島の歴史や土地のことなどを調べ自ら書籍を作り、発信する取り組みも行っている 写真:お店から

林氏が「てのしま」を出店した背景やコンセプトは幾つかあり、その一つが日本の食のルーツを大切にしていきたいという思いだ。食文化を知っている人はもちろん、知らない人も、機会に触れることによって造詣を深めてもらい、食の意味や意義を感じてもらえればという願いがあるのだという。また北から南まで、その土地に伝えられている郷土料理にも興味があるのだとか。

将来的には、過疎化が進む手島に、以前のように人が住み産業が栄えるような事業を展開していきたいと願っている。その最初のプロジェクトが「てのしま」であり、料理を通して人と人を繋ぎ、食の根源となる自然の恵み(地場でとれる自給自足の食材)を生かして島の再生を行っていく。島のプロジェクトを通じて持続可能な未来の食のあり方を模索したいという計画があるのだ。

日本の食文化や瀬戸内のこと、地方の料理のこと、気になる方は「てのしま」の料理や思いに触れてみてはいかがだろうか?

撮影:千葉英里

文:千葉英里、食べログマガジン編集部