旅と写真とゴハンと Vol. 2

旅した人/ミヤジシンゴさん 旅した場所/鹿児島県 枕崎市

国内外を旅する写真家たちが、旅先での“おいしい記憶”を、写真とともに振り返る新企画。第2回に登場するのは、葉山に住む写真家、ミヤジシンゴさん。鹿児島県 枕崎市で体験した、旅の思い出とおいしい記憶を楽しく語ってくれた。

険しく佇む開聞岳に惹かれて

ミヤジさんが枕崎市を訪れたのは、2011年。東日本大震災が起こってから約2週間後の3月末のことだ。
「枕崎市への出張は、東日本大震災が起こる以前に決まっていたんです。地震があったときは葉山にいて、家族を残したままどこか落ち着かない気持ちで訪れた土地です」

火山活動によって中がくり抜かれた土地であるカルスト地形。ぐるっと見渡すと切り立った山々に囲まれているのがわかる。

 

そんなミヤジさんを待ち受けていたのは、険しく勇ましい開聞岳の景色。火山活動によって中がくりぬかれ凹んだ土地である開聞岳は、彫刻刀で削ったような々しい山肌が特徴だ。


遠くから見るとなだらかな稜線を描く。その山容から薩摩富士とも呼ばれ親しまれている。

 

「どこまでも高い空、見渡す限り広がる青い海と、 堂々たる開聞岳とのコントラストが力強くて。自然の恐さと強さ、そしてどうしようもない美しさを感じました」

近くでみるとカルデラらしい、険しい岩が点在する。

 

海、山、自然を多く撮影してきたミヤジさん。自然が持つ、ときに相反する魅力を写真を通して伝えていきたいと、また、表現だけでなく記録する媒介としての写真の役割も思い出した旅路だったそう。

“アウェイ感”たっぷりの市場巡りが欠かせない

旅先に市場があれば、早起きして訪れるというミヤジさん。市場によって異なるセリの作法見るのが何よりも楽しみだとか。

 

「声をはりあげたり、黒い袋のなかに手を入れて交渉したり、セリにも市場によって個性があります。ここ、枕崎の市場では札を投げていましたね。使う言葉も専門的で独特で、自分は完全に右往左往。その心細いというか“アウェイ感”に旅情を感じてしまうんですね、なぜか(笑)

「セリ合っている人々は、交渉の正念場。空気はぴりぴりするし、見た目は厳つい感じがしますが、話しかけると意外にやさしかったりして。そんな、“ツンデレ感”も、旅先ならではの経験です」

 

ミヤジさんは、「知らない景色、もの・こと・人にあいにいくのが旅」だという。そして、その入り口が食だとか。

 

「食はその土地を知るための、そこに住まう人とつながるための入り口。旅先でよく褒められるんですよ。“おまえ、何でも食べるね”と。今まで、国内外含め、一瞬ためらうような食材、味付けとも対峙しましたが、断ることなく食べてきました。まぁ、顔をしかめることもいくつかありましたが、それも含めて交流なのだと思います」


枕崎の魚といえば、かつお、そしてめひかり(写真上)。

 

「市場の近くにはかつおぶしの処理場があったのですが、辺り一面にダシのいい香りが漂っていて、印象的でした」

 

この旅でミヤジさんが立ち寄った、忘れられない美食スポットを伺った。

武家屋敷で薩摩の郷土料理を

薩摩の小京都と呼ばれる知覧武家屋敷跡地に、昔ながらの趣きのまま佇む郷土料理店が「高城庵」。

「昼ごはんを食べに伺いました。遅い時間帯だったのが幸いしてか、縁側の庭が見渡せる席でゆったりと食事を楽しめました。薩摩の郷土料理を食べたくて、さつま豚骨定食を注文。豚骨(煮豚)が、九州らしい甘めの味付けでおいしかった。副菜の自家製さつま揚げ、煮しめなども、温もりある味わいでした。締めの焼き団子も絶品です」

 

獲れたてのかつおをアテに、焼酎のお湯割りデビュー

刺身が大好物だというミヤジさん。「とにかく刺身がおいしくて」滞在中に二度訪れたというのが、魚処「まんぼう」。

れたてのかつおは身が締まっていて、一口食べたら、うわーっとうなるおいしさで、心底感激しました。一人一皿で、かつおの刺身とタタキを頼んでもいいくらい。普段はビールと日本酒がマイ定番ですが、この日は焼酎を注文しました。そうそう、はじめて、焼酎のお湯割りをたしなんだのもいい思い出です」

 

「モモ焼」でガツン、「鶏皮ポン酢」でさっぱりの往復食べがくせになる鶏焼専門店

薩摩といえば地鶏も忘れてはならない。こちら「丸万」のメニューは、鶏皮ポン酢とモモ焼の二品のみ。

「モモ焼はまさに地鶏らしい噛み応えがあります。一方、鶏皮焼はポン酢と海苔でさっぱりした仕上がり。この二品、ビールを挟みながら、交互に食べるのが口福そのもの! 」

ミヤジさんが、次に食べたい、旅ゴハン

次に行きたいのは、京都の伊根。
春と夏に訪れたことはあるのですが、舟屋が軒を連ねる様は例えがたい郷愁を誘いすっかり虜に。今度は、冬に訪れて雪景色の伊根を見てみたいんですよね。といいつつ、冬のご馳走、丹後の鰤を食べるのが本当の目的かも知れません(笑)。

PROFILE


ミヤジシンゴ
写真家。東京都出身。1993年よりフリーフォトグラファーとして活動を始め、広告や出版の仕事のかたわら自分の作品を制作している。写真のテーマは「しあわせな瞬間」。数ある作品テーマの中で「犬と飼主」は2001年ドイツ・ベルリンでの展示を皮切りに各地で個展を多数開催した。98年、海をもっと近くに感じたくて葉山住民になる。食をテーマにした写真集も好評。葉山・一色海岸を10年間撮り続けた作品『葉山 一色の海』を用美社より出版、全国の白いご飯に合うおかずを取材した『しろめしのとも』を普遊舎より出版(ともに2015年)。写真の持つ記録する媒介としての役割として、2017年に、「葉山ビーサン写真館」をオープン。大切な記念日はもちろん、日常のふとしたときも、カジュアルに写真を撮れると地元に人を中心に話題。葉山を訪れた際にはぜひ立ち寄りたい。

http://www.s-miyaji.com/
https://coubic.com/hayama-shashinkan

 

 

写真:ミヤジシンゴ
取材・文:吉村セイラ