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“エレガント”な料理の数々
今回、創業時からの魚、肉料理と、新作の前菜1品をご紹介いただいた。前菜が手島シェフの作で、主菜は古賀シェフの作だ。さきほどの“融和”という言葉が表しているように、新しい血を注ぎこむのが、手島シェフに期待されていることなのだろう。シェ・イノという海の中で自由に泳ぎながらも、その枠からはずれることのない、エレガントな料理を生み出す。そんな盤石のシェ・イノはますます輝きを増すに違いない。
甲殻類のジュレ、足赤海老、キャビア、ブロッコリーとカリフラワーのムース(時価)
なめらかなブロッコリーとカリフラワーが鮮やかな層をなし、その上に贅沢に、生の足赤海老とキャビアがのり、甲殻類を煮詰めただしでとった煌めくジュレがかかった前菜。ぜひ、シャンパーニュと合わせたい一品。「主菜がクラシックなものが来るので、前菜は軽やかなものがいいと思い、選びました」と手島シェフ。
舌平目のブレゼ アルベールソース(6,930円)
「オープン当初からのメニューです」と古賀シェフ。舌平目2枚を裏表に合わせ、折り畳んでパネ(細かいパン粉をまぶすこと)し、揚げ焼きしたのち、アルベールソースをかけたもの。
このソースはパリの「マキシム」が発祥と言われ、本来は白ワインで作るものだったが、井上氏がベルモット酒に変換し、完成させた。魚のソースでは唯一フォンドヴォーを加える珍しいソースで、品のいい舌平目の繊細な味わいと芳醇なソースの組み合わせにうっとりする一皿だ。
仔羊のパイ包み焼きマリアカラス風(9,900円)
「今でも7~8割の方が召し上がる、うちの代表的なメニューです」と古賀シェフ。仔羊のロース肉でフォアグラを巻き、パイで包んで焼き上げ、ペリグーソースを添える。
それは、マデラ酒を使ったソースにトリュフを入れたもので、トリュフの名産地ペリゴールからその名がきている。「もともとはブフ・エリントンという牛肉で作る同様の料理を、井上が、当時まだあまり流通していなかった仔羊のおいしさを知ってほしいと、作り出したものなんです」とも。
火の入れ方とソースの進化は、前述の通りだが、さらにフォアグラは量を増やしており、パイは全くレシピを変えていないということだ。香ばしいパイにナイフを入れると、ロゼ色の仔羊の断面が姿を現し、口中で肉汁があふれる。偉大な名品は時を超えて受け継がれているのだ。
まさに「宝の山」。ワインラバーこそ行くべし
シェ・イノといえば、ワインが素晴らしいことでも知られるが、ワインリストを見せてもらうとまるで一冊の本のようだ。その名もLIVRE DES VINSつまりワインの本と名付けられている。掲載されているものだけで1,200~1,300種。フランスが7割で残り2割がアメリカ、1割が他国、とのことだ。
セラーを案内してもらうと、そこにはさらなる数のワインが出番を待って眠っている。もちろん、5大シャトー、DRCは言うに及ばず、各地の銘醸ワインが保管されている、まさに宝の山だ。ワイン好きなら、ぜひ、ボトルで頼んで、時間経過とともに変わりゆく香りや味わいを楽しんでみたい。もちろんグラスワインも用意はあるし、最近はペアリングを頼まれることも多いそうだ。
人生を豊かにしてくれる場所
内装についても簡単に触れておこう。エントランス側を見るサイドは、オペラ座の桟敷席を模したもの。逆に店内の奥は、白木の能舞台を意識して造られたのだという。それには井上氏の日仏融合という気持ちが込められているのだそうだ。
そんな非日常を味わえる空間で、フランス料理の美意識を閉じ込めた料理とワインに舌鼓を打ち、夢のような時間を過ごしてみるのも人生を豊かにしてくれるに違いない。