ある日のコースから5品をピックアップ

「うにのコンソメ」

夏らしく、コンソメジュレの上にうにを落としたアミューズだ。コンソメは海の幸と合わせて一体感を出すために、最後に昆布を加えて磯の風味をしのばせて調整するそう。うには、淡路の由良のものを使用している。東京ではあまり見ない関西のうにだが、大阪時代のなじみの魚屋さんに送ってもらっているのだとか。「北海道のもののような派手な甘さはないけれど、滋味深く、余韻が長く続くのが独特で気に入ってます」とシェフ。

 

小松さん

涼やかな一皿に、最初の一口でレストランに来たのだなという喜びに満たされ、ぐっと食欲がわいてきます。

「新玉ねぎのキッシュ、生ハム添え」

キッシュは大阪時代からの定番だが、キッシュの生地をできるだけ薄くし、中身は新玉ねぎとアパレイユ(卵液)だけに、と改良を加えている。その上に、ごく薄くスライスしたパルマ産の生ハムをふわりとかぶせて供する。とてもおいしい生ハムだが、イタリアの豚の輸入事情で、今後は入らなくなり、フランス・バイヨンヌ産などに切り替えるそう。

 

小松さん

パイ生地の香ばしいさくさく感とバターの香り、玉ねぎの甘みに、生ハムの塩気が相まって、口の中で一体となる感覚は、まさに至福です。

「まぐろの南仏風」

夏なので、スペイン産の本マグロを使用。赤身の部分の表面に塩少々をふって炭であぶって香ばしく仕上げている。「皿全体の構成は、南仏を意識して、サラダニソワーズを分解、再構築しました。いんげんやにんじん、玉ねぎとともに、ゆで卵はタルタルにして添えています」と、遊び心をのぞかせる。

 

小松さん

さっぱりとしながらも旨みの深いマグロと付け合わせがよく合って、とても楽しい一皿。ワインがどんどん進んでしまいます。

「鮎の塩焼き クレープ巻き」

鮎をなんとかフレンチで効果的に使いたいと思って、考え抜いたという新作。クレープの上に焼いた鮎を重ね、骨と内臓の入ったほろ苦さのあるマヨネーズをアクセントに、ディルとセルフィユをたっぷり添え、上には、トマト水をアガーで固めたシートをのせている。向こう側から手前にくるくると巻いて、手で持っていただく。

 

小松さん

塩焼きにまさる鮎はないと言うけれど、塩焼きのよさとフレンチの楽しさを併せ持った一皿に仕上がっていますね。鮎好きとしてはとてもうれしいプレゼンテーションです。

「クリのステーキ 赤ワインソース」

コースの中で、しっかりたっぷりステーキを食べてもらいたいというのが、肉焼き名人の前芝シェフの考え。肉は大阪で唯一のブランド黒毛和牛「なにわ黒牛」のクリという前足の付け根に近い部位を使用。脂身の少なさが特徴で柔らかく、旨みが大変濃いのが自慢だ。

肉の焼き方にはこだわりにこだわって、低温のオーブンでじっくり焼いたあと、網の上で休ませながら焼き、最後、焼き網の中に炭火を落として油少々をたらし、煙を上げて燻香をまとわせて仕上げる。ソースは赤ワインをベースにポルト酒やマデラ酒を加え、最後にトリュフの香りを利かせたもの。滋味に満ちた余韻がいつまでも続く。

 

小松さん

一見、すごいボリューム!と、驚きますが、食べ始めるとぺろっといけてしまいます。それは、なにわ黒牛のクリという部位の脂身の少なさと、旨みの強さからくるものであることはもちろん、肉にストレスをかけないよう低温でじっくり焼き上げるシェフの腕によるものであると感服します。

ワインに関しては、前芝氏自身が大のワイン好きで、試飲会などで自ら気に入ったワインをインポーターから仕入れるスタイルをとっている。一皿に1杯ずつのフルペアリングで11,000円。ハーフペアリングで5,500円。ストックのうち8割が自然派ワイン、2割がクラシック、どちらもフランス産がほとんどというラインアップの中からどんなワインが出てくるのか、ペアリングも楽しみだ。また、最近20時半頃から自家製ハムやカスレなどのつまみとワインを楽しめるワインバータイムが始まった。まずはこちらから、というのもいいだろう。

住宅街ならではの肩の凝らない空気と確かな腕。ぜひ、訪れてほしい一軒だ。

※価格は税込です。

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撮影:溝口智彦
文:小松宏子、食べログマガジン編集部