「叉焼包」(チャーシュー饅)180円 写真:お店から

中国の裏路地には、麺や肉まん、蒸し物類、揚げ物、ご飯物など、サッと食べられる料理を扱うお店・小吃(シャオチー)店がある。“ちょっとした食事”という意味の通り、近所の人々が気軽なランチを楽しみ、学校帰りの子供たちが羊串をおやつ代わりに買い、夜は蒸し物や冷菜をテイクアウトする人、ビールとご飯物で食事を済ませる人など、屋台とレストラン、ファストフード店の間をとったような飲食店として親しまれている。

中国の小吃店(イメージ) 写真:お店から

そんな小吃の店「好香味坊(ハオシャンアジボウ)」が2022年4月15日、コロナ禍で飲食店の出店が相次いでいる学芸大学にオープンした。手がけるのは中華料理の魅力を多彩に伝えてきた、人気飲食店グループの味坊集団だ。

地域の食を支える中国の小吃店を、日本向けにローカライズした「好香味坊」

味坊集団代表の梁宝璋(リョウホウショウ)さん 写真:お店から

味坊集団といえば、中国東北地方の郷土料理を提供する神田「味坊」をはじめ、湯島「味坊鉄鍋荘」、御徒町「羊香味坊」、老北京酒館の御徒町「老酒舗」、湖南料理を提供する三軒茶屋「香辣里(シャンラーリー)」、点心ほか広東料理を提供する代々木八幡​「宝味八萬」を展開し、中国各地の食文化を伝えてきた。

元々唐揚げ店だった店舗を居抜きした。メニューのパネル表示や、壁面などの内装は元画家である梁さんのアイディアによる 写真:お店から

そんな味坊集団が次なる一手として選んだのが、中国全土で親しまれている小吃だ。好香味坊では小吃を日本向けにローカライズし、新しい中華のスタイルとして提案する。

2021年7月にリニューアルしたばかりの高架下商業施設「学大市場」内に立地

テイクアウトもありつつ少し席もある、家庭の台所の延長線上で、中国の人々の食を支える小吃店。好香味坊があるのは、学芸大学駅の高架下に広がる「学大市場」の一角で、駅から家路に就く人々の往来が多い、まさに小吃店に相応しい立地だ。店頭のテイクアウト窓口に加え、10坪弱の店舗には“ちょっとした食事”も楽しめるテーブル席が13席あり、小粋な内装からはネオ大衆酒場のような雰囲気も感じられる。

自社農園で栽培した無農薬野菜を使い、料理はすべて工房で手作り

ファストフード的な側面もある「小吃店」だが、味坊集団で提供されるメニューは、埼玉県三郷市と茨城県つくばみらい市にある自社農園「味坊農園」で栽培した無農薬野菜を使用している。ネギ、ナス、フェンネルやパクチー、青唐辛子やインゲンなど、栽培する野菜の数は20種類以上。「みんなの飲食店」を目指すからこそ、安心できるものを提供したいという考え方が、このお店の柱となるコンセプトになっている。

点心師が手がける蒸したて点心が3個480円から!

写真奥が「春菊蒸し餃子」3個/550円、手前が「えび蒸し餃子」3個/550円(写真は試食用サイズ)

点心は足立区にある味坊の自社工房で手作りし、注文を受けてから店舗で蒸しあげている。今回点心の指揮をとっているのは、広州出身の点心師である唐礼明さん。この道36年のベテラン点心師で、大阪「陶陶居」(現在閉店)や東京武蔵小山の「井門」(現在閉店)、横浜中華街の「華正楼」、「浅草ビューホテル」などでも活躍した人物だ。

点心といえば姉妹店の宝味八萬でレパートリー豊富に提供されているが、好香味坊では一味違った点心が味わえる。その一つが「春菊蒸し餃子」だ。宝味八萬の「春菊蒸し餃子」は生地が真緑で、日本でよく知られている餃子の形をしていたが、好香味坊の「春菊蒸し餃子」は小籠包のように巾着形の包み方をしており、上部のみ鮮やかな黄緑に彩られている。また具材も前者では春菊とシイタケ、春雨を使っていたが、後者では春菊と干しエビを使い、春菊に魚介の旨味と香ばしさを加えた。自家栽培の無農薬春菊とあって、鮮烈な味わいと香りがキラリと光る。

「もち米と牛肉団子蒸し」500円(写真は試食用サイズ)

「もち米と牛肉団子蒸し」も同店オリジナル。肉質が丈夫で脂肪分が少なく、筋肉量やタンパク質含有量が高い牛モモ肉のひき肉を、もち米で包んで蒸しあげている。「牛モモ肉はヘルシーなだけでなく、食感が良い」というスタッフの言葉通り、ホロホロとほどけるような食感が印象的だ。そこから口に広がるもち米の甘みと牛モモ肉のやさしいうま味が、じんわりと時間をかけて余韻を残していく。

「海鮮シュウマイ」3個/480円(写真は試食用サイズ)

このほか「海鮮シュウマイ」や「えび蒸し餃子」など「宝味八萬」で人気の点心もラインアップしている。しかもちょっぴりお手頃価格だ。

「豚肉ともち米の竹筒蒸し」やスパイスたっぷりの「広州地方の牛もつ煮込み」など限定メニューのほか、味坊定番メニューも

「豚肉ともち米の竹筒蒸し」650円(写真は試食用サイズ)

「江米肉(豚肉ともち米の竹筒蒸し)」は、梁さんおすすめの一品だ。使用している豚肉は、栃木県産の二元豚。刻んだけんとんともち米に、海鮮醤、ねりごま、ピーナッツバター、柱候醤、塩を入れて、一つずつ竹筒で蒸しあげた料理で、噛むほどにうま味がしみ出てくる。食べ進めると、中に意外なものが隠れていることに気づく。フライドポテトだ。竹筒の底に、もち米がこびりつかないようにしているのか、味にアクセントを持たせるためなのかはわからないが意外にも合う。

「広州地方の牛もつ煮込み」500円(写真は試食用サイズ)

「広州地方の牛もつ煮込み」などからは、サクッとつまめる立ち飲み酒場のような趣を感じる。牛モツと大根を醤油ベースで煮込んでいるのだが、加えているのが八角、茴香、沙姜、白胡椒、砂仁、花椒、白芷、陳皮、草果、木香、肉豆蒄、丁香、肉桂など多彩なスパイスだ。

使用しているスパイスの数を見ると、相当エスニックな味わいを想像するだろうが、日本のモツ煮込みとそうかけ離れていない。醤油ベースの薬膳スープのような味わいに続き、あとからピリッと花椒の痺れや八角の香りなど、多種多様なスパイスの味わいが波打つ。食べ終わった後の残り香だけで、酒が進みそうな味付けが小憎い。

「ラムの串焼き」500円(写真は試食用サイズ)

このほか「ラムの串焼き」や「釜焼きチャーシュー」500円など、味坊定番のメニューも揃う。「皮蛋咸肉粥(ピータン入りお粥)」500円や「焼鴨飯(鴨の釜焼き丼)」900円などのご飯もの、「ワンタン麺」900円、「汁なし担々麺」800円などの麺ものもあるので、しっかり腹を満たすこともできる。

「焼鴨飯(鴨の釜焼き丼)」

ジャパニーズクラフトジン400円、自然派ワイングラス500円とお酒もお手頃価格!

ドリンクのレパートリーは小吃店のため、そう多くないが「サントリーパーフェクト生ビール」600円をはじめ、「角ハイボール」400円、5年ものの「甕紹興酒」700円のほか、「羊香味坊」の「羊香トマトハイ」や「ジャパニーズクラフトジン翠」400円と面白いラインアップとなっている。

そして味坊集団といえば、中華に自然派ワインを合わせた先駆者としても知られる。同店もこれまでのお店と同様、店内の冷蔵庫に自然派ワインをストック。今回小規模店舗のため、ボトルで注文できるワインの数は絞られているが、グラスであれば赤・白・ロゼそれぞれ1種類ずつ、1杯500円という安価で味わえるのがうれしい。

さらに今回、味坊集団として一つ新たな試みが始まった。テーブルなどに設置された二次元コードを読み込むことで、モバイルオーダーを可能としたのだ。これも本場中華の小吃店らしさを生んでいるように感じる。「なぜうちの近所にできなかったのか」と個人的に悔やまれるほど、何を食べてもおいしく、お手頃価格で、使い勝手も良い「好香味坊」。中国の人気小吃店のように、ぜひ多店舗展開してほしいものだ。

※価格はすべて税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

撮影・文:中森りほ