合計時間は、なんと7時間の食体験

美しい田舎町の草原の中に佇む「マンハッタンの農場レストラン」。ニューヨークからハドソンラインの電車に乗って約90分、Tarrytownという小さな駅からさらにタクシーで10分ほど山を登っていった先に「Blue Hill at Stone Barns」はあります。

 

フレッシュな旬の食材を使ったお料理を提供するファーム・トゥー・テーブル(農場直営型)のレストランであることから、「“農場から食卓まで”の縮図のようなお店」ともいわれています。

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ロックフェラー家の所有している約30万平方メートルをも超える広大な敷地には農場や牧場、ガーデン、売店、ベーカリー、カフェなどがあり、レストラン部分となっているのは1930年代ごろに乳製品の納屋だった、歴史的な建物。

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マンハッタンとは打って変わり、大自然ですっきりした空気に包まれ、既にアドベンチャーが始まっている予感。

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重厚感のある外観とは裏腹に、レストラン内は自然光がたっぷりと降り注いでおり、ダイニングの中心に置かれた巨大な木が上品でいて飾らないナチュラルな雰囲気を作り上げています。

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シェフのダン・バーバーは、美味しい料理を提供するだけでなく、食・農業に変革をもたらす活動家としても世界的に有名です。創業当時から彼が持つ、“農場から食卓まで”という理念、「いい味を求めるならいい食材と農業を求めるべき」という強い信念が揺るいだことは一度もありません。

 

シェフ自身が農場へ足繁く通い、地元の動物や野菜のブリーダー(育種家)とともにビジョンを共有しながら、持続可能な食のあり方と極上の味を追求し続けています。

 

さて、レストランのメニューはたったひとつ、$238のコースのみです。お料理は全部で30皿ほど。耳を疑う数字です。そしてなんと約4時間かけて頂くとのこと。

 

食べられない食材などについては事前に何でも相談することができますので、席に案内されてからはもうすべての身をレストランに委ねて、アドベンチャーを楽しむのみです。

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すべてのスタッフが終始、日本の高級旅館のようなサービス精神で接してくれることにも驚きます。席に着いて飲み物を選び終われば、早速、お料理の登場となるのですが、その提供の仕方がなんとも斬新なのです。

 

ひとつひとつのお料理を作ったシェフがそれぞれの手で運んできてくれて、その料理について食材の産地や生産者などプレゼンテーションを加えながら提供してくれる。

 

この丁寧な接客こそがこのレストランの醍醐味といっても過言ではありません。

 

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始めの半分は素手でお料理を食べるよう説明を受けます。テーブルには一切カトラリーがありません。

 

1品目

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剣山のようなものに刺さったひと口サイズの生野菜たち。見た目から、バーニャカウダのような無難なお料理だと思ったら大間違い。ひとつひとつのお野菜に素晴らしいあんばいで、オイルや塩の味付けが施されています。ほんの少しの調理が加えられた、指先ほどの大きさのお野菜から、凝縮された素材そのものの味を感じます。

 

この1品目を食べれば、これからどんな旅路が待っているのか、期待を膨らまさずにはいられません。

 

2品目

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2品目は“ミニコールラビ”。フムスとバルサミコのソースで。蒸されているのか、コールラビの主張しすぎない歯ごたえが滑らかなフムスとよく合います。

 

3品目

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3品目の“スクワッシュ”。

 

「このスクワッシュを生で食べてもらいたいと思って育てていたけれど、シェフが『これは生では美味しくないぞ。』と言ったんです。ただ、それでも生で食べてもらいたかったので、ひまわりの種を粉末にしたものをつけてシェフに出したところ『美味しい!』と言ってくれたので、今日はこういう形でお出ししました。

 

お皿にもうひとつのっているのは、ビールを作ろうとして失敗したときに大量に残ってしまったホップで香り付けした“蜂蜜”です。これもまたよく合うので、是非スクワッシュに付けながら食べてみてください。」

 

こんな風にひとりひとりの料理人がどこからともなく絶妙なタイミングで「Good evening ladies」と挨拶しながら、お料理について楽しそうに、かつくどくなくスマートに説明してくれます。

 

料理人によってはシンプルに料理名だけを言って、謎を残しながら去る人もいて、それはそれでまた楽しいのです。

 

4品目

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4品目のカブとイチゴとバジルペーストのお料理がテーブルにのせられると同時にパン!と音を立てながら細かい何かが雨のように降ってきました。よく見るとポピーシード(ケシの実)。どうやらケシを殻ごと綿棒で叩く粋な演出だったのでした。

 

5品目

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5品目は木の枝に刺さった薄いケールの板。やや固めのチップスのようなものですが、表面に甘く味付けされたビーポーレン(蜂蜜花粉)が付けてあり、お菓子のようにして食べられるもの。

 

どれもあまりに美味しいので味わいながらちびちび食べていると、テーブルがお皿だらけに!

 

6品目

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6品目はハラペーニョ好きだけれど辛さを好まないシェフが農家の方と共同開発した、辛くないハラペーニョ、その名も“ハラペーニェ”だそうです。「生で食べてください。」と言うので恐る恐る食べてみると、摩訶不思議。しっかりハラペーニョの味がするのに味蕾では全く辛くなく。しかし、その2秒後には、脳でしっかりと辛さを感じるのです。生まれて初めて、かつ、きっと一生忘れないであろう感覚でした。

 

7品目

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7品目は料理人がニヤッと笑いながら「Chicken feet」(鶏の足)とだけ言い残して去っていきました。見た目は鶏の足そのものなのに、食べるとザクザクしたコーン菓子のような味がしてなんとも美味しい。しかし、誰も本当に鶏の足なのかどうなのかを教えてはくれずニヤニヤとするばかり。

 

8品目

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8品目は切り株に刺さったブラッセルスプラウト(芽キャベツ)です。小さなのこぎりとともに提供され、「Please harvest by yourself」(ご自分で収穫ください)と言われます。

 

絶妙な加減で火通しされた芽キャベツを付けるディップは、ココアパウダーとカイエンペッパーが振り掛けられた自家製のマヨネーズ。もちろん相性は抜群。

 

9品目

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9品目は鳥の巣に見立てたわら。その中に細いグリッシーニが混じっているので間違えないように探して食べてくださいとのこと。あまりに細いので間違えてしまいそうです。

 

10品目

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10品目を持ってきた料理人は「今日キノコを探しに散歩に出たらきれいな落ち葉をたくさん拾ったんだ。その落ち葉を見てほしくてお皿にのせてみたよ。落ち葉の中にキノコ料理が隠されているから、僕が探したときのようにお料理を見つけてみて。」と可愛らしく話していきました。

 

落ち葉をめくっていくと、小さなキノコのタルトがひょっこりと現れ、食べてみるとサクサクのタルトとともに芳醇なキノコ、まるで“薫るチーズ”を食べているかのようなお料理でした。

 

11品目

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11品目。ファッロ粉で作ったパリパリの生地に色鮮やかなビーツを重ね合わせたピザ。ひとつひとつに感動し過ぎてしまうと瞬く間にテーブルはいっぱいになり、食べ終わっていないものまで間違って下げられてしまいそうになり危険。

 

12品目

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12品目。鴨レバーペーストのダークチョコレート挟み。固められたレバーを薄いチョコレートで挟んであり絶妙なマリアージュです。

 

13品目

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13品目。「Pick a popcorn!」(ポップコーンをひとつ選んでください!)と勢いよくボーイの人がミニチュアサイズのポップコーンカップのトレーを運んできてくれます。食べてみると口どけのよいトウモロコシのスナックでした。

 

 

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ここで突然支配人が席まで来て「Are you ready for an adventure?」(冒険の準備はできていますか?)といって、私に席を立ち、ついてくるように促します。既に冒険している気分だけどなあ、と思いつつもついていくと……。

 

なんと、裏のキッチンへと案内されました。

 

さきほどのビーツのピザを作っているところ。

 

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キッチンの中には私たちのためだけにテーブルがセッティングされ、キッチン全体を眺めながらお食事できるようになっています。

 

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広いキッチンとスタッフの若さに驚きます

 

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背後にはたくさんの本や瓶

 

14品目

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14品目に、ここ(キッチン)で最初に運ばれてきたのは緑色の透明なガスパチョ。ジンジャーが薫って、複雑なうま味の中でトマトを存分に味わえる、お茶を飲んでいるようで不思議な体感でした。

 

15品目

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15品目はトマトを3種類の方法で味わえるお料理。蒸し焼きした白身魚を凝縮されたトマト味のソースでいただきます。青トマトのピクルスの下には、マスタードの効いたトマトのチャツネが隠れていました。

 

個人的には、このお皿で食べた3種類のトマトの楽しみ方がすべてのお料理の中で一番印象に残っています。

 

16品目

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16品目は自家製のパンにガーリックをこすりつけながら食べるトマトのブルスケッタ。このパン、信じられないほどに皮の部分が香ばしく、かじる度に、ビターキャラメルを思わせる芳醇さで、最高に美味しかったです。

 

17品目

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17品目は2種類のカキの食べ方。シンプルに生がきをパプリカのソースとヨーグルトパウダーとでいただくものと、揚げたカキをアボカドのタルタルと桜エビとともにレタスで包んで頂くもの。

 

こちらでキッチンツアーはおしまい。

 

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笑顔で見送ってくれます

 

 

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再び席へ戻るとカトラリーセットが置いてあります。何の説明もありませんが、プロトコールにとらわれず自由にカトラリーを使って食べてください、ということなのだと感じ、これもまた斬新なプレゼンテーションだと感心してしまいます。

 

18品目

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18品目を食べる前に、テーブルにロメインレタスの一種がどーん! と置かれます。「今からこのレタスの茎の部分と葉の部分、両方を別々の調理の仕方で提供します。是非、味の違いを楽しんでください。」と言われ、葉部分は炒め、茎部分はチーズとともに泡状のソースにしたお料理が運ばれてきました。

 

19品目

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19品目。今度は、カボチャをテーブルにまたどーん! と置かれたかと思うと、程なくしてカボチャの揚げリングがハンガーの両端に掛けられ、テーブルに登場します。シナモンが香り、天ぷらより少ししっかりとした衣の食感が良く、これもまたちびちびと味わいながらいただきたい、見た目のポップさとは裏腹に滋味深いお味なのでした。

 

20品目

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20品目は自家製の全粒粉で作ったブリオッシュに岩塩ののったお料理。全粒粉とは思えない食感と喉越しに、こちらのベーカリーは本当に素晴らしいと確信すると同時に、ベーカリーの空いている時間に到着できなかったことを悔やんだ瞬間でした。

 

21品目

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そのブリオッシュとともに食べるのが21品目の自家製リコッタチーズ。漉(こ)していない状態のチーズをテーブルまで持ってきて目の前で仕上げる出来立てのリコッタチーズ。

 

22品目

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22品目はバターナッツスクワッシュを5通りの方法で味わうお料理。

 

ベーコンジャム、種のクミンロースト、玉ネギジャムなどと一緒に食べます。素材を見ながらいただくことで、素材を育てた方、料理した方へのありがたみをより現実的に感じます。

 

23品目

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23品目は自家製パンと2種類のバター。それぞれに「ジョン」、「メアリー」と名前が付いており、その名前の牛からとった牛乳で作ったバターだそうです。

 

「それぞれに異なる餌を与えているので、味の違いを楽しんでください。」といわれ丁寧に味わうと、本当にテクスチャーも香りもそれぞれに個性があり、面白いのです。

 

しかし、名前に想いを馳せながらいただいていると、やや生々しく感じられ、複雑な気持ちになりました。きっとこれもまた大事なエンターテインメイトの一部なのであろう、と実感させられるのでした。

 

24品目

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いよいよ24品目にして初めてお肉です。平らなスティックのようにして焼いたチキンと、面白い形をした紫イモのロースト。チキンよりも紫イモのムッチリとした食感が印象的でした。

 

25品目〜31品目

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25品目〜31品目はデザート。私の誕生日が近かったので、ささやかなケーキのサービスと、ホップの香るスープで食べるシナモンのアイスクリーム、カカオニブとメープルクリスプ、ダークチョコレートとチェリーのずっしりと濃厚なカンパーニュ風のブレッド、そしてホワイトチョコレートのムース。

 

最後に深煎りのコーヒー。

 

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こちらのレストランで過ごした4時間はアドベンチャー、そしてエンターテインメントそのものでした。何よりも美味しく、そして心から楽しかった。

 

今の時代、どこに行っても美味しいものを食べられ、よいサービスも受けることができます。そんな中、今回、心から感じた「自然との繋がり」、「食する楽しさ」から、再び原点に戻って食材に感謝する気持ちを覚えました。

 

また、シンプルな見た目からは想像もつかない、その手の込んだ調理法の数々、画期的で斬新なアイデアが絶妙に組み合わされて完成したお料理に、ただただ感心してしまいました。

 

食材本来の美味しさを引き出すお料理、そしてそのお料理のいただき方に対して、また違ったアプローチが見えてきました。

 

いい素材とは何か、その素材の美味しさを伝える手段は何なのか、「美味しい」とはどういうことなのか。そんな疑問を問いかけつつ、次のひと皿でその疑問をすべて吹き飛ばし、また次のお皿で疑問を問いかける……。

 

しかし、最後にはストレートな心粋を感じ、清々しさまで覚える「Blue Hill at Stone Barns」。

 

ニューヨークに行かれる際には是非立ち寄ってみてください。未体験の食に出合えるはずです。