〈福岡の麺料理〉

福岡の天神、博多駅界隈で、今最も長い行列を作り、つけ麺&G(がっつり)系シーンを引っ張っている店が「麺や兼虎(かねとら)」。「天神本店」「博多デイトス店」に続き、2021年10月29日には「福岡PARCO店」もオープン。さらに2022年早々、九州全域のローソンにて兼虎監修「肉そば」もリリースするなど、その勢いは増すばかり。開業当初から通うラーメンライター上村が、「麺や兼虎」の魅力を徹底レポートします。

九州一のラーメンライターがレポート

上村敏行
1976年鹿児島市生まれ。J.9代表取締役。2002年、福岡でライター業を開始。同年九州ウォーカーでの連載「バリうまっ!九州ラーメン最強列伝」を機にラーメンライターとして活躍。各媒体で数々のラーメンページを担当し、これまで1万杯以上完食。取材したラーメン店は3000軒を超える。ラーメン界の店主たちとも親交が深く、久留米とんこつラーメン発祥80周年祭、福岡ラーメンショー広報、ソフトバンクホークスラーメン祭はじめ食イベント監修、NEXCO西日本グルメコンテストなど審査員も務める。ラーメンライターとしての活躍はイギリス・ガーディアン紙、ドイツのテレビZDFでも紹介された。「九州の豚骨ラーメンこそ最強!」を掲げる「RAMEN WONK KYUSHU(ラーメンワンク九州)」主宰。

「麺や兼虎」の勢いは増すばかり

店主の益成兼太郎さん(右)と筆者(左)。ソフトバンクホークスのラーメンイベントなども通じて親交を深めてきた。昨秋オープンした「福岡PARCO店」も絶好調

皆さん啜ってますか? 2022年の「福岡の麺料理」連載は「麺や兼虎」からスタート。“豪快で荒々しく漢らしい一杯”をコンセプトに、パンチの利いた高濃度つけ麺が顔。天神・博多駅エリア随一の行列店(並ぶ客の多さは豚骨ラーメンは「博多一双」、つけ麺はやっぱり兼虎!)なので、知っている人も多いでしょう。“寅年は兼虎を押さえるべし”……まあ、こじつけみたいなものですが、益成店主の話を聞くと、人気店がさらなる高みへ! 飛躍の年になることをビシバシと予感させます。

福岡においての“つけ麺沿革”

「味玉濃厚つけ麺」1,100円と「肉そば」1,000円(左奥・福岡PARCO店では2月下旬までの限定販売)

同店は2013年に開業し、“福岡でつけ麺と言えば”で真っ先に名前が挙がる、確固たる地位を確立しました。まずは、福岡における【つけ麺年表】から。つけ麺が広く認知されるまでの沿革を記し、同店の魅力を深めていきます。

虎が鎮座する店内

●1980年「ふとっぱら」にラーソーメンが誕生(冷製つゆに冷たい麺)。
●2001年「博多一風堂 西通り店」2階にあった系列の「五行」でつけ麺発売(温つけ汁)。寿司割烹が出した「五味五感」のつけ麺も同年完成。「麺劇場 玄瑛」の前身「玄黄」で自家製麺の凛麺(冷つゆ&冷麺)を提供。
●2002年「秀ちゃんラーメン」で博多もりそばを発売。広島から「ばくだん屋」が福岡に進出(冷たい麺に辛い冷製つゆ)。
●2004年福岡市平尾に「中華そば まるげん」オープン。この頃からつけ麺の認知度が少しずつ増す。
●2008年「博多一幸舎」が手がけるつけ麺専門店「博多元助」がオープン。卓上IHでつけ汁を温めるスタイル。ラーメンスタジアムに「大勝軒」「六厘舎」が期間限定オープン。福岡市綱場町に関東風つけ麺「とまと家」がオープンしたのも同年。
●2009年「博多つけ麺 秀」で“つけチャンポン”を販売。「博多元助」のネクスト「博多元勲」デビュー。その後、「元蔵」「元桜」など続々と登場した同系列のつけ麺専門店が話題となる。
●2010年「博多新風」で「つけめんTETSU」「せたが屋」などを招いた福岡初のつけ麺イベントを開催。
●2011年「つけめん 咲きまさ」が福岡市渡辺通に開店(2014年に熊本市へ移転)。
●2013年「麺や兼虎」開業

2013年開業時は福岡市・赤坂の裏通りにあった

●2014年ソフトバンクホークス「カチドキレッドラーメン祭」で「麺や兼虎」の「辛辛魚&辛辛つけ麺」がブレイク。
●2018年「麺や兼虎」が福岡市赤坂より現在の天神本店へ移転。

2018年、現在のビックカメラ天神1号館近くに移転。天神エリア屈指の行列を作る店に

●2019年「古賀 一麺庵」開業。
●2020年福岡二日市のつけ麺専門店「がんつけ」が天神春吉店を開業。「麺や兼虎 博多デイトス店」開業。
●2021年「ひろき家 福岡店」開業。「フジヤマ55福岡天神店」開業。「麺や兼虎 福岡PARCO店」開業

「麺や兼虎」メニュー

福岡において、つけ麺に関する大きな動きは上記のような感じです。地元では、ふとっぱらのラーソーメンというソウルフードが根付いているだけに、温かいつけ汁に冷水で締めた麺という組み合わせは出始めの頃、正直違和感がありました。「麺や兼虎」がオープンした当時は、皆がようやくそれにも慣れ始め、つけ麺の魅力に気づき始めた頃。以降、同店をはじめ「とまと家」、現在は閉店していますが「博多元助」などの活躍で、つけ麺人気が一気に加速していった印象です。

店主・益成兼太郎という男

店主の益成さん

屈強で頑固な職人、店主・益成さんは1978年石川県金沢市出身。学生時代は野球に没頭し、東京の製薬会社へ就職。営業職で各地をまわる中で、幼少から大好きであったラーメンを食べ歩きました。そして、まさに人生を変える出会いとなったのが「麺処 井の庄」の一杯。

「それまで体験してきたあらゆるラーメン、つけ麺のすべてを超える強烈なインパクト。震えるほど旨かった」。益成さんが受けた衝撃、感動は初来店の「井の庄」を出たその足で履歴書を買い、すぐさま弟子入りを志願した。という驚きの行動に表れています。脱サラし「井の庄」へ入門。その後約4年にわたる修業の末、独立開業の地に選んだのが福岡。益成さんにとって福岡は馴染みのない場所でしたが、逆にそのことが出店の理由となったと言います。
「どうせなら未知の場所でやってみようと。加えて豚骨文化が根差し、本場のつけ麺をあまり体感したことのない九州の人たちに、かつて私も受けた感動を届けたかった」と益成さん。

屋号の「兼」は、益成さんの名前の一字からだが、「虎」は誰にも頼れない福岡で勝負する自身を鼓舞するため、強そうなイメージで付けたとのこと

2013年、福岡市赤坂に出店し間もなく頭角を現します。私の記憶では開業から1年ほど経つと大行列店になっていました。店が手狭となり、2018年に現在の天神本店の場所、ビックカメラ天神1号館そばへと移転。