定食王が今日も行く!

日本の水産業を救え!目黒「菜の花」のさんまの塩焼き

 

 

庶民から将軍までが虜になるその魅力、

「さんまは目黒にかぎる」のはなぜ!?

 

秋といえば、名前にもあるようにさんま(秋刀魚)の季節だ。さんまといえば目黒だ。と言っても、目黒でさんまが獲れるわけではない。江戸時代の落語「目黒のさんま」の噺に起因する。念のため簡単に紹介しておこう。

 

江戸時代にある将軍様が鷹狩りにでかけた時、途中で立ち寄った目黒の茶屋でさんまを初めて食べた話だ。塩焼きしたその素朴な味わいと脂のたっぷり乗った旬のさんまに、たちまち将軍は虜になった。普段食べたことのない美味しさに、屋敷に戻ったあともその味が忘れられなくなったのだ。しかし、屋敷では庶民の食する下魚とされていた魚が食事に出てくることはなく、残念に思っていた。ある日、親戚からのお呼ばれの会で、好みの料理を尋ねられた将軍は「さんまが食べたい!」と注文した。驚いた親戚は、日本橋の魚河岸から最上級のさんまを取り寄せ、脂抜き、骨抜きし、蒸したさんまを将軍に出した。その出し殻のような味に、「このさんま、いずれより取り寄せたのだ?」と尋ねる将軍。「日本橋魚河岸でござります」と答えた家臣に、「それはいかん。さんまは目黒にかぎる」と言ったそうだ。これが目黒がさんまの聖地になった所以だ。

 

目黒にはさんまで有名な店は何軒かあるが、駒八のさんまセンターと並び、私が毎年さんまを求めて訪れるのが「菜の花」だ。店前には「爺ヶ茶屋 殿にささげし さんまかな」という「目黒のさんま」を題材した俳句が掛けられている。

 

 

塩焼きで皮はパリパリ、脂はジュワ!

力仕事に欠かせないパワーフード

 

この時期、「菜の花」のランチタイムはさんまを求める近隣のサラリーマン&ウーマンでごった返す。自分調べでは9割以上のお客が「さんま定食」を注文しているように思える。落語にもあるように、さんまは塩焼きが素材の味を引き出してくれて一番うまい食べ方だと私も思う。

 

 

この味を表現するのに、多くの言葉は要らない。やや焦げてパリパリになった皮と、身から溢れ出すさんま独特の脂。塩分と脂が口の中で交わると、なんだかドンドンと力がみなぎってくる。江戸時代には搗き米職人ら力仕事をする男達に好まれ食された。

 

こんな細い体で庶民を力づけてきたさんま。その味もさることながら、長く愛され続けてきた理由は、その値段の手頃さだ。「菜の花」では3がつく日をさんまの日として、800円のさんま定食を750円で提供している。これは夜のメニューにも適応されるのもうれしい。

 

 

正直、ここ数年さんまは不漁に喘いでいる。2017年は過去最低を記録するかもしれない。庶民の味で安価だったさんまは、他の国でも食べられるようになったことで中国、台湾の漁獲が急増し海流も変化したことで、安定して高品質なさんまを手に入れるのが困難になってきている。素材の味が要となる塩焼きの場合、その日の仕入れによって味も異なるので、人気の初物だけではなく定期的にさんまを食して、今年の当たり! な一尾を見つけたい。

 

 

日本の漁業を変える!

三陸のフィッシャーマンクラブを支援

 

「菜の花」では毎週、三陸女川「フィッシャーマンズプロジェクト」の新鮮な魚介を取り寄せ、それによりメニューを変えているそうだ。「フィッシャーマンズプロジェクト」とは、世界三大漁場の三陸をフィールドに活躍する若きフィッシャーマンたちが立ち上げたプロジェクトだ。 三陸の海から水産業における新しい働き方、ビジネス“新3K”「新3K=カッコいい、稼げる、革新的」を実現するものだ。2024年までにこういった新「フィッシャーマン」を1,000人増やすことを目標としている。

 

日本の水産業は、後継者問題や海洋汚染問題、世界的な寿司ブームで他国の漁獲量が増え、まぐろ、さばやさんまなど、季節のうまい魚の安定共有が難しくなってきているのが現実だ。水産業の危機は定食文化の危機でもある。定食の定番でもある焼き魚や刺身は、現在多くの魚が同じような問題に直面している。小難しい話になってしまったが、秋に脂が乗って美味しいさんまを食べるということが難しくなってきているのは、本当に悲しい。さんまは安永年間、「安くて長きはさんまなり」と言われ、庶民の味方として魚屋で売られていた。これからもどうにか「安く」「永く」秋の美味しいさんまが食べられることを切に願うばかりだ。