ヤマトモさん絶賛! 季節を感じるこの5品

付き出し、八寸、椀物、お造り、揚げ物、蒸し物、肉や魚料理、土鍋ご飯など……。「おまかせコース」約11品の内容や構成は月替わり。今回は、ヤマトモさんが味わった10月のコースの一例から5品をピックアップして紹介する。

蓮根饅頭 春菊と菊の餡 鶏そぼろ射こみ

石川県の伝統工芸品・山中漆器の蓋付き椀で供された「蓮根饅頭」

佐賀・白石町の白石蓮根で作る饅頭は、ムチッとした弾力がありながらもホロリとほどける絶妙な食感。あえて粘りが出すぎないように仕立て、餡との調和や口どけの良さを計算している。中に仕込んだ鶏そぼろからは山椒の風味もふわり。春菊と菊が上品に香る滑らかな餡がすべてを包み込み、鼻腔に漂う余韻までも美しい。

 

口福ヤマトモさん

秋の季節感あふれる一品です。蓋を開けた瞬間、春菊と菊の香りに包まれる、まさに香りの芸術。出汁の風味もバランスが良く、満足感の高い一品です。

お造り3種盛り

「お造り」の一例。手前から時計回りに、赤貝、鰆、あん肝

「この価格のコースとしては信じられないほど、魚の質が良い。また、その旨みを引き出す独創的な工夫が光っています」。ヤマトモさんがそう絶賛したのは、3種類が盛られたお造り。「信頼のおける鮮魚店に無理を言って、コストをギリギリに抑えながらも、旬で質の良いものを厳選しています」と樋口さん。

低温調理を施した赤貝

約1週間寝かせ、皮目をサッと炙った鰆は、凝縮された旨みと脂の甘みがたまらない。赤貝は軽く低温調理し、ほの温かい状態で提供。低温調理することで特有のにおいを抑え、甘みを引き出す狙いだ。ヤマトモさんが「香り爆弾!」と称した通り、噛んだ瞬間に弾ける木の芽と磯の香りの調和が素晴らしい。

 

口福ヤマトモさん

さらに特筆すべきは、あん肝。酒などでマリネした後、ごま油でコンフィにしているそう。臭み皆無のまろやかなあん肝です。その発想力にも脱帽でした。

下処理にフレンチの技法を取り入れたあん肝

ヤマトモさんが唸ったあん肝は、フレンチの技法も取り入れた一品。フォアグラの下処理のようにまずは牛乳に漬け、酒などでマリネ、その後ごま油でコンフィにして臭みをとり、ねっとりと滑らかな口当たりに仕上げている。最近では、このあん肝コンフィを自家製のワカメのライスクラッカーにのせ、付き出しとして提供することもあるそう。

つぶ貝の茶碗蒸し カリフラワーのソース

蒸し物の一例として登場した「つぶ貝の茶碗蒸し」

オリーブオイル数滴と穂紫蘇を散らして供されたのは「つぶ貝の茶碗蒸し」。しかし、一般的な茶碗蒸しとはひと味もふた味も違う、センスが光る一品だ。

 

口福ヤマトモさん

これも驚愕メニューで、中に隠されているのは低温調理したつぶ貝。食感と香り、旨みが素晴らしく、生を超えています。内臓まで美味だったので秘密を伺うと、直前まで生かしているのだとか。カリフラワーソースもエスプーマで繊細に仕上げられていました。

程よい弾力を残すつぶ貝。エグみや苦味のない内臓まで美味

滑らかで風味の良い玉地(出汁と卵液を合わせて調味した蒸し物の地)の上にのせたつぶ貝は、客の入店時間を計算して火入れ。オリーブオイルとサラダ油を5対5の割合で調合し、その中で低温調理を施している。このひと手間で内臓のエグみが取れ、旨みがグッと引き出されるというわけだ。

カリフラワーのソースは、エスプーマを使って泡状に

仕上げに注いだカリフラワーのソースはエスプーマ仕立て。フワフワと軽く滑らかな口当たりとクリーミーな味わいが舌を包む。和と洋の技法を巧みに取り合わせた創意に唸る。

和のデザート

コースを締めくくるデザートは、和と洋の2種類を用意。どちらか1つを選ぶのではなく、2種類とも味わえるというから驚きだ。

煎茶と共に供される、自家製の練り切り

和のデザートには練り切りが登場。季節のモチーフや花を象った精巧な細工が美しい。写真は10月の一例で、金木犀をイメージした一品。和菓子店に注文しているのではなく、これもすべて自家製というから恐れ入る。

洋のデザート

ハンドドリップコーヒーと共に供される、洋のデザート

続いて登場した洋のデザートも、完成度が高い。ココナッツサブレのクランチにヨーグルトのアイスやシャインマスカットを重ね、その上にレモンソースのエスプーマをふわり。散らしたレモンバーベナのパウダーも実に爽やかだ。とりどりに広がる甘味、酸味、食感の変化が楽しい。
一緒に提供されるコーヒーは、その場で豆を挽き丁寧にハンドドリップ。コーヒー豆は糸島市の自家焙煎珈琲豆店「COFFEE UNIDOS」の豆を採用し、豆の種類も毎月変えるこだわりようだ。

 

口福ヤマトモさん

それぞれのクオリティが高く、煎茶やハンドドリップのコーヒーも一緒に出されるという素晴らしいサービス。日本料理店で、和洋デザートが2つも出てきて、それに合わせて飲み物も出るサービスなんて初めての経験でした。

日本料理の入口、そんな店でありたい

「これほど素材と趣向を凝らしたコースでありながら、なぜこんなにもリーズナブルなのか? 値上げしようとは考えないのか? 」。最後にこんな疑問をぶつけてみたところ……。

「日本料理の入門、入口……そんな店でありたいんです。若い人にも本格的な日本料理に親しんでほしいから金額は変えません。その分、足や手、頭を使って素材を選び、料理を作る、これに尽きます」。樋口さんはそう笑顔で応え、真摯な表情をのぞかせた。
「高級食材やネームバリューに囚われず、料理と会話して、店主の生き様や思いを探るのが楽しい」と話すヤマトモさんが、昨年で一番の出会いだったと選んだ「桜坂 拓」。年内の昼の予約はすでに埋まっているそうで、夜の予約が取れなくなる日もそう遠くはなさそうだ。

※価格はすべて税込

※本記事は取材日(2021年10月26日)時点の情報をもとに作成しています。
※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。
※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

文:森絵里花、食べログマガジン編集部 撮影:長﨑辰一