【肉、最前線!】
数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!
連載7回目に登場するのは、ソースへの思い入れが深い洋食店。懐かしさを感じる洋食メニューと、手間暇かけたシェフ渾身のソースが合わさったとき、一体どんな味わいが待ち受けているのかをご紹介!
vol.7 シンプルな素材にこそ手間暇を!肉とソース編
『上野洋食 遠山』
洋食ほどノスタルジーという言葉が似合う食べ物はない。子供の頃の記憶にある洋食は喜びの感情や幸せな情景とともにあり、それは大人になった今も変わらないという人も多いだろう。ハンバーグもオムライスもメンチカツもビーフシチューも海老フライも家庭で手軽に楽しめる時代だが、レストランの洋食に特別感があるのは、もともと“ハレの日の食べ物”というイメージがあることが大きい。
写真:上野洋食 遠山
日本の洋食文化を牽引してきた『精養軒』をはじめ、浅草や湯島など、界隈に多くの洋食レストランが見られる上野に、この9月、新たに『上野洋食 遠山』がオープン。料理長の遠山忠芳さんは、フレンチで長年、経験を積み、なかなか予約がとれない京都の人気洋食店『おがた』でシェフを務めた実力派。
写真:上野洋食 遠山
フレンチ出身とあって、遠山さんがとくに心を砕くのは、ソースだ。マデラ酒を使った甘口のマデラソースに白ワインで作るヴァン・ブラン・ソース、バターを焦がしたブールノワゼットや、にんにくが香るアイオリソースなど、フレンチに使われるソースには、数えきれないほどの種類があるが、素材同様、ソース使いはフレンチの料理人にとっての要。遠山さんのソースに対する思いにも並々ならぬものがある。
上野洋食遠山特選デミグラスハンバーグ1,800円
完成まで1週間以上かかるというデミグラスソースは、鶏ガラとスジをじっくり煮込んでフォンを取り、水分が完全に抜けて甘みが出るまで炒めたオニオンを合わせて赤ワインとシェリービネガーで香りづけをした濃厚な風味が持ち味。甘みを出すためにキャラメルを入れる店もあるというが、遠山さんは素材の味をしっかりと引き出し、自然な甘みを引き出すことに注力する。
卵とパン粉など、つなぎをごく少量しか使わないハンバーグはおもに熊本県産の天草ポークと国産牛のももとロースをブレンドしており、みっちりした肉感にあふれているが、この濃厚なデミグラスソースが驚くほどよく合う。
アンガス牛ロース レモンステーキ300g 4,000円
レモンステーキのソースは遠山さんの故郷・熊本のコクのある醤油を肉汁とともに煮詰めて濃度をつけ、そこに生姜と少々のレモンでアクセントを加えるが、これもどこか懐かしく飽きのこない味わいだ。洋食のなかでも固定ファンの多いカレーのソースは、欧風ベースのルゥに独自にスパイスをブレンドし、マイルドさのなかに上品な辛みを感じるバランスのよい味に仕上げている。通り一遍ではないソース使いに“ハレの日”の洋食が蘇る。ノスタルジーと新しさを体感しに、洋食の聖地へと足を運びたい。
写真:石渡 朋
取材・文:小寺慶子