【森脇慶子のココに注目 第35回】「ピーター・ルーガー・ステーキハウス 東京」

1887年、ニューヨークのブルックリンで創業した「ピーター・ルーガー・ステーキハウス」。アメリカで最も歴史のある伝説のステーキハウスであり、かの有名なレストランガイド「ザガット・サーベイ」では“ニューヨークNo.1ステーキハウス”の名をほしいままにしてきた名店が、ついに日本に上陸。この最後の黒船にしてステーキ界最大のカリスマが、10月14日、恵比寿にオープンした。ガーデンプレイスのすぐ向かい、一際目立つ赤煉瓦造りの外壁の建物がそれだ。

ブルックリン本店をイメージした外観に対し、店内は東京店独自のインテリアになっているそうで、1階はハンバーガーなどの軽い食事やカクテルを楽しめるバーと個室。そして、クラシックな木造りの階段を上がれば、6mもの吹き抜けの天井が印象的な劇場型ダイニングが現れる。中央奥にはブロイラーを設え、オープンキッチンスタイルにしたのも東京店ならではの趣向。客席から肉を焼き上げる様子を見られ、ライブ感もたっぷりだ。心地よいざわめきの中、席に着いた瞬間から気分を盛り上げてくれる。

さて、お目当てはもちろん“Tボーン・ステーキ”。ニューヨークストリップ(サーロイン)とフィレの両方を味わえる部位のこと。「ピーター・ルーガー」で扱う牛肉は、すべて米国農務省によって格付けされたアメリカンビーフの最高峰“プライムビーフ”を使用。だが、それだけではない。

「プライムビーフの中でも、ピーター・ルーガーが選任した目利きの職人が吟味。7つの選定の基準をクリアした選りすぐりの牛肉を買いつけています」と、ブルックリン本店で1カ月研修を積んだ高知尾文彦料理長。聞けば、市場に出回る前に先行して上質の肉を押さえているそうで、それも130年という歴史と名声のなせる業だろう。

「Steak for two (ステーキ 2人前)」時価

とはいえ、良い牛肉を仕入れただけでは、伝説の味は生まれない。門外不出のエイジングノウハウ、火入れ、そしてカッティングと様々な要素の積み重なりが、世界のステーキラバーから熱い支持を受ける所以だろう。東京店でも、高知尾料理長がそのメソッドを習得。本店と違わぬ味を実現すべく、日々探求している。

曰く「毎週、ニューヨークから2tの肉が、チルドの状態で空輸されてきます。これを東京店の熟成庫で、枝肉のまま向こうのノウハウ通りの温度、湿度で管理。最低でも28日以上熟成させています」。が、その熟成日数は、温度や湿度といったニューヨークと日本との環境の違いにより微妙に異なるそうで、現在は、それぞれの牛肉の状態を見つつ、最も良いタイミングを見計らっている最中とのこと。

ちなみに、写真のステーキは約1カ月熟成。なるほど、ということは、毎週2tずつ空輸されるとして、いったいどれくらいの肉が熟成庫に眠っていることになるのだろうか? その疑問に高知尾料理長が答えてくれた。「そうですね、ゆうに10tはあるでしょう。熟成庫も、約30坪。このお店のダイニングの半分程度の大きさがありますからね」

肉を焼き上げるブロイラーも、900℃まで上がるアメリカ製。両面を約5分ずつ焼き、一旦取り出し、300℃に熱した皿に盛り、“ビタミン”と呼ぶ牛脂と澄ましバターを合わせた特製ソースをかけて再度ブロイラーへ入れ約3分。ミディアムレアに焼き上げている。

熱々の皿ごとテーブルに運ばれてくるTボーン・ステーキは、こんがり焼き上げられた香りも芳ばしく、しっとりと潤いを帯びた真紅の断面は、躍動感に満ち満ちている。すかさず焼きたてに齧りつけば、フィレ肉のどこかシルキーさを感じさせるデリケートな舌触りに意表をつかれる。

一方、サーロインはややしっかりとした歯応えの中、微かな熟成香とともに野生味あふれる肉汁感が頼もしい。和牛とは、また異なる肉肉しさは、ワシワシといただけるおいしさだ。途中で、オリジナルのピータールーガーソースをかけて味変するのも一興。甘酸っぱく、どこかフルーティなソースは、ハンバーグなどにも合いそうだ。

「フレンチフライドポテト」1,400円

付け合わせには、フライドポテトを忘れずに。牛脂で揚げた特製で、揚げたての芳ばしさはひとしお。クリームドスピナッチも一緒に食べれば、ニューヨーク気分に浸れそうだ。

「クリームドスピナッチ」1,400円

客席は、2階のダイニングのほか、3階には落ち着いたバルコニー席もあり、ブロイラーを上から望む臨場感は格別。また、個室も6室用意されている。また、10月25日には、1階にブティックもオープン。ステーキ用の肉やピータールーガーソースなどを購入できる。

3階にある個室の一室

※価格はすべて税込、サービス料別

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※本記事は取材日(2021年10月7日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:森脇慶子

撮影:大谷次郎