〈サク呑み酒場〉

今夜どう? 軽〜く、一杯。もう一杯。

イマドキの酒場事情がオモシロイ。居酒屋を現代解釈したネオ居酒屋にはじまり、進化系カフェに日本酒バー。どこも気の利いたツマミに、こだわりのドリンクが揃うのが共通点だ。ふらっと寄れるアフター5のパラダイスを、食べログマガジン編集部が厳選してお届け!

うなぎの寝床のような店舗で、うなぎ串を売り物に!

「うなぎ」といえば年々価格も高騰し、うなぎ専門店で「う巻き」「骨せんべい」「うざく」「白焼き」といった肴で杯を傾け最後に「うな重」や「うな丼」で締める、そんな粋な呑み方に憧れていても、いざ行動に移すとなると少々ハードルが高いものがある。どうしたものかと思っていたら、何でも「うなぎ串」という料理があるらしい。何だ、その魅力的な料理は!

 

うなぎ串は、焼とりや焼とんのようにどこででも気軽に食べられる料理ではないが、ネットで検索すると老舗から新進気鋭の店まで、“うなぎ串専門店”がそこそこヒットする。また、一般的なうなぎ専門店でも程度の差はあれ、うなぎ串を置いている店は少なくない。これは興味津々だ。東京・武蔵小山の「うなぎ串 梅星」は、2019年11月オープンの新しいうなぎ串専門店。しかも立ち呑みスタイルというから、まさにサク呑みにぴったりの店である。

看板に書かれた「うなぎ串」「立呑み」の文字に惹かれ、足を止める人も多い。

店は間口が狭く縦長の、“うなぎの寝床”のような造り。同店を経営する佐藤喜与佳さんと黒田直人さんは、「うなぎの寝床のような店舗なので、うなぎ串でいこうとひらめいた!」と、嘘のような本当の話で同店をオープン。2人はすぐ近くで「もつ焼き 豚星」という繁盛店を手がけ、「梅星」の名前は「豚星」から1文字取ったもの。また、うなぎと梅干は食べ合わせが悪いと言われるが、あえてそれを店名に採用し、逆に親しみやすさを打ち出している。

写真左から、佐藤喜与佳さんと黒田直人さん。服飾の専門学校で出会い、その後、飲食の道へ。現在、2店舗を経営する。

串焼きと煮込みと3点盛りが鉄板の組み合わせ

さて、何を食べようか? うなぎ串は初体験だけにメニューを見ても、何が何だかよく分からない。よし、他の人が注文しているのを見て、それにならおう。一人客は、うなぎ串の「一通り」。一品料理の「鰻アラ煮込み豆腐」「3点もり」を注文し、ドリンクは「金魚」を頼む人が多いようだ。また、二人客は「一通り」「白焼き」などを注文している感じである。

写真左奥から時計まわりに、「鰻アラ煮込み豆腐」350円、「3点もり」400円、「金魚」400円、「一通り」1,200円。

「一通り」とはうなぎ串を5本盛り込んだ商品で、まずはこれを頼めば安心だ。内容はヒレ、エリ(首)、くりから(身の背側)、バラ(アバラのまわり)、短尺(身の腹側)で、バラと短尺が塩焼きで、他はタレ焼きである。牛肉にたとえるなら、くりからと短尺が“正肉”で、その他は“副産物”にあたる。つまり、うなぎ串は“正肉”も“副産物”も余すところなくメニューにすることで、お手頃価格での提供を可能にしているのである。

うなぎ串を5本盛り込んだ「一通り」。写真左から、ヒレ、エリ、くりから、バラ、短尺。

うなぎ串は炭火で7~8分かけて香ばしく焼き上げる。「ヒレ」はやわらかく、「エリ」「くりから」はコリコリ。「バラ」は肉々しく、「短尺」はほどよい食感が楽しめる。「蒲焼き」や「白焼き」のように蒸す工程がないため、身の部分の「くりから」「短尺」も実に歯応えがいい。「一通り」のうなぎ串は単品でも提供しており、他に単品は「肝」「カワ」「ヒレごぼう」「八幡」もそろえる。「肝」は1日2~3本限定なので、あったらラッキーな一品だ。

「蒲焼き」「白焼き」は蒸す工程が加わり、脂が抜けて身がやわらかくなる。一方、うなぎ串は焼くだけなので、食感の強さを楽しむことができる。

大阪の郷土料理に着想を得て、煮込みを完成

串焼きを堪能したら、次は煮込み。大阪ではうなぎの蒲焼きを作るときに切り落とした頭のことを“半助”と呼び、これで出汁を取りながら調味料も加え、豆腐、ネギ、ゴボウなどを煮込む料理がある。これが“半助豆腐”と呼ばれる、大阪の郷土料理だ。同店の「鰻アラ煮込み豆腐」はこれをヒントにし、立ち呑み酒場に欠かせない煮込みメニューにアレンジしたのである。

 

うなぎの頭は15分ほどかけてじっくり炭火焼きし、濃口醤油、ザラメ糖、味醂、酒、水とともに弱火で1時間半煮る。そこに木綿豆腐を入れ、30分ほど煮込んで完成する。具材は豆腐、うなぎの頭、彩りの万能ネギのみ。見事なまでに余計なものが入らないシンプルさゆえ、うなぎのうまみが染みた豆腐がこの上なく贅沢に感じられる一品だ。

「鰻アラ煮込み豆腐」は大阪の郷土料理“半助豆腐”をヒントに開発した。

魅力あるうなぎのつまみも各種そろえる

串焼き、煮込みといった、立ち呑み酒場らしいうなぎ料理もうれしいが、やはり「う巻き」「骨せんべい」「うざく」「白焼き」といった、うなぎ専門店ならではの気のきいた料理も味わいたい。そんな、客の要望にもしっかり応えられるのが同店の強みで、「3点もり」を頼めば、まず「う巻き」「骨せんべい」の欲求をクリアすることができる。同商品はうなぎ玉子、カルシウム、うなぎちくわの3点盛りメニュー。

 

カルシウムは「骨せんべい」のこと。うなぎ玉子は、うなぎを中に巻き込まずに上にのせた同店流の「う巻き」。うなぎちくわは、キュウリをちくわに詰めた「キュウリちくわ」をヒントに、中にうなぎを詰めた同店独自のつまみ。うなぎ玉子とうなぎちくわに用いるうなぎは、蒸さずにタレ焼きして食感を出しており、適度な歯応えが酒のつまみにぴったりだ。

うなぎ玉子、カルシウム、うなぎちくわの「3点もり」400円。「カルシウム」200円のみ単品もある。

また、「うざく」に該当するメニューが「鰻酢の物」だ。これはうなぎの身ではなく、串焼きの「エリ」に用いる首の部分を使用する。他にも、「うなぎタレの四川麻婆豆腐」「バラポン酢」など、同店ならではの工夫のあるつまみも楽しみたい。一緒に楽しむ酒はもちろん、チューハイに唐辛子と大葉を加えた「金魚」。見た目にも清涼感があり、ほどよい辛みがうなぎとよく合う。

最後は王道メニューで締める!

立ち呑み酒場ならではの工夫のあるうなぎメニューに触れたら、やはり王道の「蒲焼き」「白焼き」も体験したい。ともに、まず表裏返しながら7~8分焼いて、13~14分蒸す。そして「蒲焼き」はタレにつけ、「白焼き」はそのままで、仕上げに2~3分焼いて香ばしく完成させる。うなぎは基本的に国産のものを使用。うなぎの生産量全国トップ3の鹿児島、愛知、宮崎のうなぎを、その時々で使い分けている。

 

ここまできたら、やはり最後は「うな重」や「うな丼」で締めたい気分だが、残念ながら同店のメニューにはない。そんなときに重宝するのが、ごはんメニューの「タレTKG」。これはうなぎのタレをかけた卵かけごはんで、これに「蒲焼き」をのせれば立派な「うな丼」の完成だ。正確には“卵かけ”うな丼で、実に酒場らしい自由な発想の一品が楽しめる。

写真奥から「白焼き」「蒲焼き」の小、各1,200円。他に大1,500円もある。

うなぎ店の命ともいえるうなぎのタレは、濃口醤油、ザラメ糖、味醂、酒、焼いたうなぎの頭をじっくり煮つめて作ったもの。営業中に使用するベースのタレが4割方減ったら、そのつど新しいものを継ぎ足していく。オープン間もない同店のタレは、まだまだ“若い”タレだが、香ばしく焼き上げたうなぎを毎日漬け込むうちに、いつしかうなぎのうまみの染みた極上のタレが完成するのである。

日々、うなぎのうまみがタレに溶け込み、極上のタレへと育っていく。

“うなぎの寝床”のような店舗からひらめいて、「うなぎ串」を売り物に据えた同店。店内は8人も入ればいっぱいで、ぎゅうぎゅうに詰めても14人が精いっぱい。カウンターの天板も奥行きがわずか20cmしかなく、店内の奥に向かってのびるその姿は、まるでうなぎのよう。うなぎ専門店でゆっくり腰を落ち着けて食べるうなぎも捨てがたいが、隣の人と肩が触れ合うほどの近さで食べるうなぎも、また格別だ。何とも贅沢なサク呑み酒場である。

“うなぎの寝床”のような縦長の店舗。赤枠短冊のメニューが、またいい雰囲気を醸し出している。

 

【本日のお会計】
■食事
・一通り 1,200円
・鰻アラ煮込み豆腐 350円
・3点もり 400円
・蒲焼き 小 1,200円
・白焼き 小 1,200円

■ドリンク
・金魚 400円
合計 4,750円

※価格はすべて税抜

 

取材・文:印束義則(grooo)
撮影:松村宇洋