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【カレーおじさん \(^o^)/の今月のカレー】2020年1月を振り返る
2020年最初の今月のカレーは、新年早々にオープンした新店舗2つと、進化が止まらない間借りカレー、そして流行にとらわれないおいしさの名店の4つでした。それぞれで書いてはいるのですが、お店の数が増えてマニアが増えてくると新規開拓ばかりしてしまいがち。しかし本当に素晴らしいお店は通ってこそ真の素晴らしさを理解できると思うのです。
本連載をきっかけに気に入ったお店を見つけて、そこに通ってくれたらうれしいです。個人的にも通ってしかるべきお店ばかりをご紹介しておりますので。そんなわけで今年も新しいお店から隠れた名店まで、バランス良くご紹介していきたいと思っています。では1月のカレーをどうぞ!
【第1週のカレー】名店の遺伝子を受け継ぐ実力派シェフによる新店がグランドオープン!
新年一発目にご紹介するのは2020年1月に正式オープンした「マロロガ バワン」です。
日本のカレー業界において、名店出身シェフによるお店がまた名店となる事例は過去にも多数ありました。古くは麹町「アジャンタ」出身シェフのお店には今もカレー界を代表するような名店が多く、最近だと「エリックサウス」出身シェフのお店が人気と注目を集めています。
こちらマロロガ バワンの店主・磯邊さんは、アジャンタ出身の名店「アンジュナ」で基礎を学び、その後「エリックサウス」でも責任ある立場にいたお方。つまりはアジャンタとエリックサウスの遺伝子を両方とも受け継ぐ、血統書付きの名店が誕生したと言えるわけです。
明るくポップな店内は良い意味でインド料理店らしからぬ雰囲気。カウンター席とテーブル席、さらには軽く立ち飲みできるスペースもあって様々なニーズに対応可能なお店となっています。

「全部のせプレート」1,500円をいただきました。ランチタイムはサラダとアイスティー付きでご飯のおかわりもできます。この日のカレーはチキン、キーマ、サンバル(南インドの野菜カレー)、バターチキン、野菜カレー、豆カレーの6種。
それぞれのカレーにポップでわかりやすいエリックサウス的感覚と、リッチで高級感あるアジャンタ的感覚のどちらも感じられ、ここにしか無いマロロガ バワンらしさもしっかり感じるという素晴らしさ。エリックサウス好きにも、アジャンタ系好きにも、そしてどちらも知らないという方にも愛されること間違いなしの絶妙なバランスのおいしさです。
特に気に入ったのは、キーマカレーです。少しずつ混ぜながら食べるミールス(南インドの定食)スタイルのプレートのなかで、グレイビーほとんど無し、ほぼ挽肉というこのキーマはどのカレーと混ぜても相性が良く、そしてそのおいしさを高めてくれる万能選手です。

さらにディナーメニューから「ゴアソーセージのグリルピペラード添え」700円も特別に作っていただきました。ランチタイムでもディナーメニューは一部オーダー可能で、こちらのメニューは基本的にはオーダー不可なのですが、この時は開店と同時に入店し、他にお客さんがいない状態だったので「今ならだいたいできますよ」と柔軟に対応してくれました。そのようなフレキシブルなサービスもうれしいです。
ゴアソーセージとはインド南西部・ゴア地方の名物で、独特の塩気が強いソーセージのこと。これにピペラードというフレンチの野菜煮込みを合わせるというセンスはエリックサウス的で楽しいです。おつまみとしても最高であり、カレーに添えるおかずとしても機能する一品であり、食事の充実度と満足度を高めてくれる一品でした。
食べ終わる頃には地元のお客さんも続々と来店して大盛況。インド料理の素晴らしさを確かに感じさせてくれるカレーと、2020年注目のモダンインディアン的なフュージョン感覚も味わえるスパイスおつまみの数々。看板をよく見れば「indo&more」の文字があり、深く肯首しました。今年大注目のお店の開店です\(^o^)/
※価格はすべて税込
【第2週のカレー】昼は薬膳カレー、夜はスパイス料理も堪能できる。新年早々注目店がオープン!
2020年、年明けとともに続々と注目店がオープンしています。今回ご紹介する「サハスラーラ」は、東武鉄道伊勢崎線・東向島駅近くに1月3日に開店したばかり。できたてほやほやの新店です。
隣駅の曳舟で間借りカレーをしていた頃からマニアの間では話題となっていたお店。その後、スープカレーのお店の手伝いやイタリアンのお店での修業を経て遂に独立。独立資金はUber Eatsで稼いだという肉体派のシェフは元プロボクサーなんです。元プロ格闘家の営むカレーのお店って結構あって、おいしいお店が多いんですよ。かつての名店「大沢食堂」「スパイスドランカーやぶや」、さらに「犬拳堂」「Curry&Spice青い鳥」などなど、枚挙にいとまが無いほどに。
僕も格闘技を長年やっていたのでよくわかるのですが、格闘技には減量がつきもの。パワーを落とさず体重を落としていくためには食事にもかなり気をつかいます。それを突き詰めていくと料理に凝るようになるのは自然な流れとも言えるでしょう。
そんなこともあってか、こちらのカレーは健康的な薬膳カレーがメインとなっています。薬膳チキンカレーと限定カレーの2種類が基本ですが、トッピングにキーマやダル(豆カレー)もあるので、常に実質4種以上のカレーが用意されているというわけです。

この日の限定カレーは「サバのタマリンドカレー」800円。これに「キーマ」200円と「本日の薬膳総菜三種」200円をトッピングしました。惣菜は、大根と銀耳(シロキクラゲ)のアチャール、人参生姜紅花のラペ、アンチョビキャベツと金針菜のポリヤルの3つで、アチャールは「免疫力向上」、ラペは「冷え性対策」、ポリヤルは「心を落ち着かせる」と、それぞれ期待できる効能も書いてあり、薬膳感がしっかり出ていてわかりやすいです。
サバのタマリンドカレーは、タマリンドの酸味とサバの旨味が渾然一体となったカレー。一方キーマは、挽肉のジューシーな食感がじわじわきいてくるおいしさ。カレーにも副菜にも手抜きがなくて素晴らしいですね。

「薬膳チキンカレー」800円には「ダル」200円と「ソーキ」200円をトッピング。この日はありませんでしたが、沖縄の郷土料理である「ナカミ」のトッピングが用意されている日もあるようで、沖縄料理にも力を入れているのが個性的。
チキンカレーは鶏肉と玉葱とスパイスのバランスが絶妙。辛さは控えめで、多くの方にわかりやすいおいしさと言えるでしょう。ダルにはレンコンも入っていて、それが食感に変化を出しており、他にありそうでないスタイルとなっていました。ソーキも豚肉のおいしさを存分に味わえ、ソーキの煮汁がこのカレーに混ざることによっておいしさの相乗効果が生まれました。なんとも素晴らしい!
食後に「チャイ」200円をいただけば、何とシェフ自らエアブレンドしてくれるというサービス。南インドのシェフに負けない見事なエアブレンドで、食後に癒やしと安らぎをもたらしてくれました。
夜のメニューを見るとイタリアンとカレーの融合がなされているようなメニューだったり、沖縄料理のスパイス仕立てだったりと、気になるものだらけ。しかも総じてお得な価格設定。これはまた夜にも行かねばなりません。特にイタリアンとカレーの融合は昨年あたりから急激に盛り上がりつつあるジャンルなので要注目ですよ。
昼は薬膳カレー、夜はスパイス料理とカレー。昼と夜で違った楽しみ方ができるお店であり、ヘルシー志向の人にもピッタリなお店です。僕も昨年食べ過ぎてかなり太ってしまい、今年は健康的に体を絞りたいのでまたこちらにも行こうと思います。
東向島というと東京の西側の方にはなかなか縁のない場所かもしれませんが、隣駅の曳舟にも、そのまた隣駅の押上にもカレーの名店は存在します。これを機にはしごカレーも良いですね。と、こういう考え方でいるから太ってしまうのですが(^^;)
※価格はすべて税込
【第3週のカレー】リピートしないともったいない! 26歳の若きマスターが腕を振るう間借りカレー店
本連載でも新年早々2週連続でオープンしたばかりのお店をご紹介しているように、カレーのお店は物凄い勢いで増えてきています。体感的には10年前と比べると10倍くらい、増えたのではないかと思えるくらいに各地に様々なカレーのお店が続々とオープンしているのですが、それは需要があるからこそであり、カレーに対する世間の需要がどんどん高まっている証拠と言えるでしょう。
そうなってくるとマニアの数も増えてくるのは自然のこと。マニアは主にコレクターとリピーターの2種類に分かれるといわれています。とにかく沢山のお店をコレクションするように行くタイプがコレクター。新規開拓はほとんどせず、気に入ったお店に通いまくるタイプがリピーターと呼ばれるわけですが、どちらが良い悪いということではなく、単純においしいと思ったお店はリピートして通わないともったいないと思うのです。
かく言う僕は世界各地約5,000軒でカレーを食べてきているので完全にコレクターと思われがちですし、事実コレクター気質はあるのですが、気に入ったお店には毎週通うリピーターでもあります。何故このような話から始まったのかというと、今週久しぶりに再訪した恵比寿にある間借りカレー店「カレーカフェ 風」がとてつもなくレベルアップしていたことに気づいたからです。
初めて行ったのはお店がオープンして間もない頃。そのとき既においしかったのですが、これはきっともっとおいしくなるなと感じ、しばらくしてからまた行こうと決めていたお店に約1年ぶりの再訪となりました。そしてその予想を上回るクオリティになっていました。これはリピートしていないと味わえなかったうれしさですよ。

今回食べたのは「四川風麻婆カレーセット」950円。山椒や八角、酸辣醤で麻婆感を出し、そのほかのスパイスに中国黒酢を合わせて使うことによって逆にカレー感を引き立たせているという、数ある麻婆カレーの中でも個性が際立つカレーです。
麻婆豆腐でありながら同時にカレーでもあるそのバランス感が絶妙で、これに副菜3種とスープも付くセットが950円というのは破格。スープはローズマリーを使った爽やかなもので、副菜もそれぞれに味や食感のベクトルが違っていて飽きずに食べることができ、おつまみとしてもいけそうですしカレーに合わせても相性抜群でした。
「具沢山グリーンカレー」750円も味見させてもらいました。こちらはタイのグリーンカレーをベースにブロッコリーやオクラなど、あまりタイのカレーには入らない野菜もたっぷりと入った海老のカレー。タイカレー的でありながらタイカレーではないオリジナルのおいしさなのですが、こちらのマスターは元々タイ料理をメインとしたエスニック居酒屋で修業された方なので、この手のカレーがお得意なのは納得です。
ちなみにそのマスター、なんと26歳という若さ! エスニック居酒屋時代に先輩から「独立するなら若いうちが良い」とアドバイスを受けていたことから早い段階で独立。とはいえ、資金面などの問題からまずは間借りというスタイルで2018年12月から始めたのがこちらのお店とのこと。
カレー自体は独学で、居酒屋時代からまかないで作っていたので何とかできるかなと思って始めたところ、ほかのカレーの名店と比べてレベルの差に心が折れそうになりながらも、少しずつ増えてきた常連さんの励ましによって今まで頑張ってきたそうです。
僕は2回しか行ってませんから常連というわけではありませんが、久しぶりに行ったからこそレベルの上がりぶりに驚くことができたのかもしれません。そしてまた今度行ったときにはもっとおいしくなりそうだなというさらなるポテンシャルを感じました。
間借りから独立店舗という流れは昨今のカレー業界の必勝パターンですが、まだオープンして1年少しであることと、知名度もそこまでではないということからすぐに自分のお店をという考えはないそうです。ただ、いずれはエスニック居酒屋の経験も活かし、カレーだけではなくエスニック料理もおつまみに飲めるようなお店を開けたらなと夢を語ってくれました。
この調子でレベルアップしていけば人気店の仲間入りを果たすのも時間の問題だと思います。何しろ今の時点で既に、恵比寿界隈の他の人気店にも負けないレベルのおいしさなのですから。つまり現時点では、隠れた名店であり、穴場だと言えるお店です。
気になった方は是非行ってみてください。そして気に入ったらまたお店に行き、その成長を見守ってください。それも飲食店に通う楽しさのひとつですから。そしてこちらのお店に限らず、一度行っただけでこうと決めることなく、気に入ったお店や気になったお店には2度3度と通っていきたいですね。自戒の念も込めつつ。
※価格はすべて税込
【第4週のカレー】安定感のあるカレーが恋しくなったら、行きたいのはこんな店
スパイスカレーの大流行により、見た目が華やかなカレーが全国的にどんどん増えています。色とりどりの副菜、カレーの色味のコントラスト、SNS映えを狙った立体的な盛り付け……確かにそのようなカレーは見て楽しいですしおいしそうにも思えるでしょう。しかし、最近は見た目だけで味がともなっていないカレーが増えてきてしまっているように感じますし、ある人気店のカレーに似ていると思えるカレーも増えています。
そもそもスパイスカレーとは既存のカレーに対するカウンターカルチャー的存在であり、元々はメジャーに対するオルタネイティブな存在だったわけです。しかしオルタネイティブの流行によってむしろオルタネイティブがメジャーになってしまったのは音楽業界の歴史を見ても繰り返し起こっていること。ちょうど昨今のカレー業界においても共通して言えると思います。そんな今だからこそ、メジャーでもなければオルタネイティブでもないカレーが重要なのではないかと思うのです。
もう少し音楽の話をしましょうか。例えば、大ヒットを飛ばして国民的スターになったわけではなくとも、固定客をしっかりと掴んで一定の人気を長年保ち続け、評価され続けているアーティストがいます。オリコンチャートの上位には出てこないものの、定期的に中規模の会場のコンサートが満員となり、グッズもしっかり売れるような。
そしてカレーにおいてもそのようなお店があるのです。TVに出ることや行列ができることは少ないかもしれませんが、お店に行ってみればいつも盛況で、そのお客さんのかなりの割合が常連さんというような。今回ご紹介する仲御徒町の「ラッフルズカリー」は、まさにそのような、メジャーでもオルタネイティブでもないお店です。
店内はカウンターのみ。いつ行っても程良くお客さんが入っています。その客層がまた幅広いのがこのお店の特徴と言えるでしょう。昔ながらのカレーライスが好きそうなサラリーマンから、今どきのカレーが好きそうな若い女性まで、真逆と思えるどちらの層にも確固たるファンを掴んでいるのです。

この日は「2種盛りカリー」1,150円をいただきました。カレーはマトンカリーとクリーム野菜チキンカリーをセレクト。ご飯は通常がかなり多めなので少な目でオーダー。ご飯少な目にすると50円引きとなるのもうれしいサービスです。
マトンはしっかりとスパイスの利いたパンチのあるカレー。スッキリとした辛さと香りでマトンの旨味が引き立ち、ご飯との相性が抜群です。また、卓上に高菜があるのですが、このマトンと高菜の相性が非常に良いので合わせて食べるのがおすすめです。
クリーム野菜チキンはクリーミーでありながらもしつこくないサラっとしたカレー。大きくカットされたチキンと様々な野菜がまろやかなクリームに包まれつつも、程良いスパイスの刺激でしっかりと輪郭のあるおいしさに仕上がっています。両者は真逆とも思える魅力。カレーの振り幅が広いからこそ、様々な層に人気があるのでしょう。
基本は玉葱、生姜、ニンニクをベースに10種類に満たない厳選されたスパイスを使用したカレーです。よくTVなどで「何十種類のスパイスを使用した〜」という惹句を見かけますが、基本的にスパイスは種類が多くなるほど味がぼやけてくるもの。インドカレーも多くは10種類以内のスパイスでできあがっているものばかりで、こちらも同様にシンプルだからこそ味が立っているのです。
マスターから、こちらのカレーはバングラデシュ人のシェフに作り方を教わったカレーがベースになっていると聞いて納得しました。バングラデシュカレーは南インドカレーやスリランカカレーと比べると見た目は地味なのですが、毎日食べても飽きない素朴なおいしさと滋味に溢れています。
こちらのカレーもスパイスカレーと比べたら見た目はいささか地味かもしれません。しかし、スパイスカレーに負けない滋味溢れたおいしさを持つ、質実剛健なカレーライスなのです。そしてさらに、ここにしかないオリジナルのおいしさだというのが素晴らしいじゃないですか。カレーにはサラダと紅茶もついてくるのがうれしいところ。食事のバランスもしっかりと考えられています。

食後の紅茶と合わせて、デザートに「チャイのムース」280円もいただきました。ほのかに甘い紅茶に、シナモンが香るフワっとしたくちどけのミルキーなムース。チャイも紅茶ですから相性が悪いわけはありません。おいしいカレーの後のおいしいスイーツほど幸せを感じるものはありませんね。
スパイスカレーが流行するより前の2006年から続いているお店。流行にとらわれない安定感あるおいしさですから、特別な日に行くお店というよりは、普段使いをしてこそ真の魅力が伝わるお店と言えるかもしれません。
この先10年も20年も、行く度に「あぁ、やっぱりおいしいなぁ……」としみじみと感じさせてくれることでしょう。流行を追いかけて見た目の上っ面をなぞるようなカレーではなく、一番重要な部分である魂を持ったカレーですから。
※価格はすべて税込
文・写真:カレーおじさん\(^o^)/