【噂の新店】「無室」

練り上げられた総合芸術を味わうかのごとき料理店。銀座に新しく誕生した「無室」を一言で表すならば、これほどぴったりくる言葉はないだろう。目も舌も肥えた大人の心を満たす唯一無二の美食空間を訪れれば、不易流行の心とともに新時代の日本料理に挑む職人の覚悟と心意気がひしひしと伝わるが、そこに堅苦しい雰囲気は一切ない。

銀座みゆき通り沿いの真新しいビルをエレベーターで上階へ。その扉が開いたときからまるで別世界に足を踏み入れたかのような荘厳さに圧倒される。存在感のある花崗岩に目を奪われながら奥へ進むと、そこには東京の日本料理店ではほとんど目にすることのない、い草が張られたカウンターが。千住博氏の代表作「ウォーターフォール」が静謐な空間に躍動感を与えており、席に着く前から気分が高揚する。なげいれを手掛ける人気の花人・横川志歩さんのモダンな生け花は“自由”と“個性”を象徴するものであり、伝統を受け継ぎながら日本料理の発展を目指す心が見て取れる。空間には店の美学と哲学が宿るものだが、序盤からその精神に触れることで、これから始まる食宴への期待もおのずと高まる。

朗らかな笑顔でゲストを迎える室井大輔さんは「神楽坂 石かわ」や「紀茂登」で日本料理の心技を磨いた次世代の担い手。酒屋と青果店を営む家に生まれ、子どもの頃から外食の機会が多かったこともあり、自然と料理の道へ進むことを決めたという。

自身の店につけた屋号には「余計なものをすべてそぎ落とし、本質と向き合う」という思いが込められており、先付けに始まり、8〜9品が登場するコースにもつねに料理の本質を模索する心が詰まっている。日本料理を本気で突きつめようとすればその根底には花があり、茶があり、書がある。それゆえに食べ手の経験値も試されるが「一番大切なのはお店で過ごす時間をいかに楽しんでいただくかだと思っています」と室井さん。

コースには通り一遍ではない工夫が散りばめられており、先付けのあとには冷えたシャンパーニュやビールにも合う揚げ物が。後半になるにつれ、油ものは重たく感じる人も少なくないため前半で提供するのも食べ手の目線に立った心配り。形にとらわれず自分の視座を持つことへの強い気持ちが感じられる。

季節を意識した器使いも見どころで、シャキシャキと瑞々しいずいき(里芋の茎)と濃厚な由良の赤雲丹を組み合わせた一品には藤田喬平氏によるガラスの器を、9年寝かせた利尻昆布から取った出汁と炭焼きにした鰻の香ばしさを楽しませるお椀には、撫子の花が描かれた輪島塗の平椀を使うなど、実に粋。

現在は都内のホテルなどで経験を積んだ宮澤晃希さんを料理長に迎えており「僕たちが大切にする“つくりたての料理”をどのように楽しんでいただくかを2人で相談しながらコースを組み立てています」と話す。

コースの大団円を飾るのは、炭火でじっくりと肉汁を内包しながら焼き上げる黒毛和牛のシャトーブリアンとご飯。つややかな白米とともに味わえば、たちまち口福の頂へ。“総合芸術”を堪能したあとの余韻は想像以上に深く、長い。ともにその価値を共有し、楽しむことができる大人同士で訪れれば、さらに五感が満たされる時間を過ごせるはずだ。




