〈食べログ3.5以下のうまい店〉

おいしいもの好きのあの人に「食べログ3.5以下のうまい店」を教えてもらう本企画。今回は食べログ グルメ著名人であり、食の世界に精通する本田直之さんが薦める、福岡で注目のビリヤニ専門店を紹介します。

福岡「クボカリー薬院店 ビリヤニ堂」

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

今回紹介するお店は2026年10月現在で点数3.21。その知られざる実力とは?

薬院の路地裏に佇む。小料理店を思わせる白い暖簾が目印

2026年の食トレンドにも挙げられ、全国的に人気が高まっているグルメといえばビリヤニ。福岡も例外ではなく、個性的なビリヤニを提供するお店が登場しています。なかでも話題なのが、2026年4月にオープンした「クボカリー薬院店 ビリヤニ堂」です。

芳しい香りに満ちた店内
入店したら、まずは食券を購入

店内には6席のカウンター席と4名がけのテーブル席を配し、週末は行列ができるほどの人気ぶり。ビリヤニメニューは定番の3種類に季節限定を加えた計4種類あり、食券制となっているので注文はスムーズです。

オーナーの久保さん(左)と、店長の新里さん(右)

オーナーの久保正三さんと、店長の新里廳仁樹(かつき)さんが笑顔で迎えてくれました。

「クボカリー」といえば、2015年に大楠店、2018年に大名店をオープンして以来、福岡で絶大な支持を集めてきたスパイスカレーの名店。昨年、大楠店が店舗の老朽化により閉店したことを機に、新たな挑戦として「クボカリー薬院店 ビリヤニ堂」を開業しました。

本格的なビリヤニに日本の食文化を融合したオリジナルスタイル

大名店では数年前からビリヤニを提供していますが、料理の特性やオペレーションの問題により、数量限定でしか用意できないのが悩みだったそう。ビリヤニがブームになる数年前から「何か良い方法はないか」と研究を続けていたなか、和の趣を感じるこの物件に出合い、“1人用の土鍋”で提供することを閃いたと言います。

 

本田さん

ビリヤニは炊きたてが一番おいしい料理ですが、常に炊きたてを提供するのは難しい。ここでは最後の仕上げに1人分ずつ土鍋へ移し、出汁を加えてもう一度火にかけるんです。

そう本田さんが教えてくれた噂のビリヤニ。早速おいしさの秘密を紐解いていきましょう。

決め手は「和出汁」と「土鍋」

スパイスやハーブの香りを邪魔することなく、素材のうまみをブーストしてくれる和出汁

マリネした生肉と生米を重ね、密封して蒸し上げるインド・ハイデラバード地方の「カッチ式」や、加熱した肉と下茹でした米を重ねて炊き上げる「パッキ式」など。ビリヤニの調理法は、国や地方によってさまざまあります。

同店のビリヤニは、これらを組み合わせたオリジナルスタイル。「初めての方も食べやすく、日本でも親しまれるビリヤニを」と考え、久保さんが辿り着いたのは、なんと和出汁です。「マトン」と「チキン」の注文が入ると、まずは土鍋の底にカツオや昆布などでとった出汁を注ぎます。

最後に土鍋で蒸してちょうどよく仕上がるよう、バスマティライスは硬めに炊き上げている

続いて、和出汁の上に重ねるのが、毎朝寸胴で炊き上げているビリヤニです。「チキン」と「海鮮」のビリヤニは、和出汁で炊き上げたバスマティライスがベース。「マトン」のビリヤニは、圧力釜でマトンを煮込むときに出る“マトンスープ”で炊いたバスマティライスがベースとなっています。

それぞれ重ねるグレイビー(カレー状のソース)やスパイス、ハーブの種類も異なり、香りと味わいへのこだわりはひとしお。スパイスカレーに比べて辛さや油分が控えめなので、軽やかで食べやすいのもポイントです。

1鍋ずつコンロにかけて、中火で一気に蒸し上げ

和出汁とビリヤニを重ねたら蓋をして、あとは3〜5分ほど蒸し上げて完成。和出汁のおかげで米がパサつくことなく、まるで炊きたてのような熱々の状態でビリヤニを提供できるというわけです。

土鍋から吹き出す蒸気に期待が高まる
 

本田さん

この“蒸し上げ”によって、熱々で、米の一粒一粒がスパイスと出汁の香りをしっかりまとった、炊きたてに近い状態で出てきます。ビリヤニは味だけでなく、香りを食べる料理でもあります。その一番難しい部分を、土鍋という日本的な方法で解決したところが、この店の革新的なところ。カウンター越しに土鍋を仕上げる様子が見え、料理を待つ時間や蓋を開ける瞬間まで含めて、ちょっとしたライブ感も魅力です。

マトンビリヤニ

軟らかくしっとりとしたマトンがゴロゴロと出てくる

本田さんのイチオシは「マトンビリヤニ」1,600円。蓋を開けた瞬間に勢いよく立ち上る湯気と香り、熱々のバスマティライスのホワホワとした食感がたまりません。

マトンは食べやすさを考慮し、オープン時の骨付きから“骨なし”にモデルチェンジ。「マトンのうまみや素材感をしっかりと感じてもらえるように」と、スパイスはあえて控えめに。代わりにカレーリーフをはじめとしたハーブをふんだんに重ね、香り豊かに仕上げています。

付け合わせ、トッピングで味変も楽しい!

甘い香りとトマトのうまみ、スパイス感がクセになる付け合わせの「ココナッツカレー」

ビリヤニにはすべて、レモングラスやバイマックルーなどのハーブが香る「ココナッツカレー」とレッドキャベツのコールスローサラダ、レモンが付いています。途中でかけながら味わえば、まろやかなコクやスパイス感、爽やかな酸味が加わってヤミツキに。

キュウリの清涼感が広がる「ライタ」と「パクチー」をトッピング

お好みで「ライタ(ビリヤニ用ヨーグルトソース)」「パクチー」「温泉卵」各100円や、「とろけるチーズ」200円などのトッピングを楽しむのもおすすめです。

瓶入りがうれしい「コカ・コーラ」1本300円

コカ・コーラをお供に、ライタ、追いパクチーで味変しながら楽しむのが、本田さんのこだわりの食べ方。土鍋の底には、バスマティライスが硬くならない程度にほんのりとお焦げができていて、この香ばしさがまた食欲をそそります。

海鮮ビリヤニ

米が見えないほどに、魚介たっぷり!

また、マトンが苦手な方は「チキンビリヤニ」1,200円や「海鮮ビリヤニ」1,800円をぜひ。「海鮮ビリヤニ」は、注文を受けるとまずココナッツグレイビーのなかでエビ、イカ、アサリを煮込みます。続いて、魚介のうまみが溶け出したこのグレイビーを土鍋の底に注ぎ、寸胴で炊き上げたビリヤニ、魚介の順に重ねて蒸し上げ、でき上がりです。

エビはソフトシェルを使用。頭や殻ごとおいしさを味わえる

使用しているスパイスやハーブは「マトンビリヤニ」と異なり、「海鮮ビリヤニ」の方がスパイス感強めの仕上がり。ココナッツの香りや魚介のうまみ、プリプリの食感も相まって、こちらも格別のおいしさです。

土鍋から広がるビリヤニの世界

季節ごとの楽しみがあるのも魅力

「“初めての方もできる限り食べやすく”をモットーにしています。ビリヤニを好きになる入口になれたら」と話す、オーナーの久保さん。ビリヤニを炊き上げる際に加えるホールスパイスは提供前にすべて取り除くなど、随所に配慮や工夫が行き届いていました。現在は、10〜11月の「限定ビリヤニ」として「秋の鮭とキノコのビリヤニ」1,600円も登場しているので、ぜひ訪れてみてください。

教えてくれた人

本田 直之
ハワイ、東京に拠点を構え、日米のベンチャー企業への投資育成事業を行いながら、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。これまで訪れた国は66カ国、255都市以上。屋台・B級から三つ星レストランまでの食を究め、著名シェフのコラボディナーなどのプロデュースも手がける。著書にレバレッジシリーズをはじめ「トップシェフが内緒で通う店150」「なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか」「オリジナリティ 全員に好かれることを目指す時代は終わった」他多数。

※価格は税込。

文・森絵里花 写真・上原秀樹