【噂の新店】酒亭湯澤

焼鳥好きが毎月1日の予約日に死にもの狂いで電話をかけ続けるほどの名店「酒亭田中」。その田中兄弟の薫陶を受けた湯澤圭介さんが独立開業した「酒亭湯澤」が、早くも2カ月先まで満席状態!

焼鳥の名店の系譜を継ぐ新店が誕生!

すでに予約は2カ月待ち!

馬喰横山駅から徒歩1分。鐘ケ淵「酒亭田中」から独立した湯澤圭介さんの店がオープンしました。師と同様、“焼鳥”ではなく“酒亭”としたのは、季節を感じられることが少ない焼鳥を、旬の食材で彩る和食を供することで四季を感じてもらいたいという気持ちから。開店直後からすでに焼鳥好きたちを虜にしている「酒亭湯澤」を訪れました。

店主の湯澤圭介さん

店主の湯澤さんは調理師専門学校に通いながらホテルの和食部門で8年間基礎をしっかりと身につけ、独立して焼鳥店を出すという夢に向かい都内の焼鳥店数店で6年ほど修業した後、念願だった「酒亭田中(旧「鳥田中」)」に入店しました。焼鳥+和食の店を目指していた湯澤さんにとって「鳥田中」はまさに理想の店でしたが、スタッフは募集しないとのことで諦めたそう。ところが「酒亭田中」へのリニューアルを機に募集があり即応募。湯澤さんの熱意が伝わり、採用となったのです。

「師からもてなしの精神も学びました」

和食は兄の惣一郎氏に、焼きものは弟の栄司氏に師事し、腕を磨いた湯澤さん。1年半後に独立、開業しました。「何でも丁寧に優しく教えていただきました。今回も大切なタレのレシピや仕入れ先を快く繋いでいただき感謝しかありません」と話します。

L字形カウンターに10席

提供するのは「お吸い物」「揚げ物」「焼鳥5本」「自家製豆腐」「野菜焼き」「一品料理」「お造り」「レバーパテ」「お口直し」「つくね」という流れのおまかせコース(6,600円)のみですが、アラカルトで〆ごはんや串が追加できます。それではある日のおまかせコースから抜粋してご紹介しましょう。

8年間の和食経験を活かした一品料理で季節感を表現

「お吸いもの」

はじめに供されるのが「お吸いもの」。この日は鱈の白子とすり身の蒸しものを椀種に、鶏白湯と白味噌を合わせて吸い地にしていました。白味噌を鶏白湯がキリッと引き締めた、ありそうでなかった味わい。焼鳥+和食という湯澤さんの意図を表現した最初の一皿にふさわしい料理です。

「揚げ物」

続いては揚げ物です。衣に葛粉を使っているのでねっとりした海老芋の食感を損なわず、揚げ色も美しいキツネ色。サックリと軽い仕上がりの「桜海老とみつばのかき揚げ」です。

「お造り」

「やま幸」の鮪は宮城県塩釜の赤身と中トロ。赤身とは思えぬトゥルッとした舌触りに、程よく脂ののった中トロ、鮪好きにはたまりません。「お造り」は焼き物や一品料理の後に供されます。このタイミングも食べ疲れしないようにという湯澤さんの配慮によるもの。

赤身で手巻き!

さらに「どちらか好きな方を1つ、手巻き寿司にしてください」と、酢飯と海苔を用意してくれます。こんな粋な計らいに誰もが笑顔になります。

パンはほんのり温かい

“レバーが苦手でも食べられる!”を目指し、レバーを赤ワインで煮てハチミツと生クリームとバターで味付けした「レバーパテ」。イチジクとクルミの入ったパンと甘みのあるレバーパテの組み合わせに舌が魅了されます。

焼鳥は鶏料理の一つとして捉える

紀州備長炭を使用

焼鳥は「お吸い物」「揚げ物」の後に供されます。使う鶏は師と同じ「熊野地鶏」と「京赤地どり」の2種。肉質がやわらかくコクがあり、地鶏特有のクセが少なく食べ疲れしないものを選び、遠火でじっくり焼きます。

焼き方は師のキリッとした職人技が手本

皮目はパリッと、身質はしっとり仕上げるのが湯澤さんの流儀。「料理人としては和食から始まったので焼鳥も串焼きではなく鶏料理と考えています。だから大きさも形も串打ちも焼き色も美しさを追求しています」と話します。

「ねぎま」

焼いている時から美しいと感じた「ねぎま」は熱々で供されます。ハフハフしながら頬張ると「皮、ついてましたか?」と錯覚するほど一体感があります。「皮目だけ2〜3日脱水しています」という皮は鳥皮煎餅のごとくサックサク。身は地鶏とは信じがたいほどしっとりとやわらかく脂ものっています。1本目にこれを出されたら期待は高まるばかり。

「レバー」

艶やかな照りが美しい「京赤地どり」のレバーは栄司氏から分けてもらったタレをつけて、串の周りだけレアになるよう焼き上げます。とろけるような食感と香りの余韻が印象的な一串。

「手羽」

手羽先と手羽元は骨を抜いて串打ちします。表面の脂がピチピチと弾けて、見るからにおいしそう! 食すると手羽とは思えないほどのやわらかさと手羽らしい脂ののりが共存し、噛むほどにうまみが広がります。湯澤さんの焼きの技術、圧巻です。

「つくね」

軟骨入りの「つくね」はふわふわの中からコリコリが現れ、口中が賑やかで楽しい! 栄司氏から受け継いだ甘辛のタレは熱狂的なファンが多く、売り切れてしまうこともしばしば。それにしても湯澤さんの焼鳥は本当に美しい!

〆ごはんは追加で! 鐘ケ淵の味を完全再現!

「鶏そば 白湯」(880円)

コースで十分お腹が膨れますが、やはり〆ごはんは食べたくなります。今は「鶏そば 白湯」「鶏そば 醤油」「親子丼」の3種を用意しています。どれも絶品なのを知っているが故、ほとんどの人が3種すべてオーダーするそう。

京都から取り寄せる麺

「熊野地鶏」と「京赤地どり」のガラで作る白湯スープに細麺、トッピングにはやわらかくプルルンとした食感の「京赤地どのチャーシュー」、シャキシャキの玉ネギと青ネギ、トロトロの半熟味玉と、「酒亭田中」から受け継いだレシピを完全再現。どんなにお腹がいっぱいでもスープ一滴まで残さず食べてしまう“罪深き一品”です。

「親子丼」(880円)

こちらも「鶏そば」同様「酒亭田中」レシピの「親子丼」は全卵に卵黄をもう一つ加え、TKGに匹敵する濃厚な味が特徴です。鶏肉は炭火のいい香りを纏いプリッとした食感。これは絶対王者の味です。

「酒亭田中」の惣一郎氏から開店祝いに贈られた作品

「やるべきことはすべてやった、これでダメなら諦めがつく」と独立に踏み切ったそう。焼鳥の難しさは味見ができないこと。塩や火入れの加減は仕込みの時や焼いている時に鶏の状態を見極める、いわば料理人のセンス。「鶏の状態も毎日違いますし、お客様がお酒を召し上がっているかでも変わります。すべては“感覚”なのでゴールはなく日々精進するだけ」という話を聞くと、なぜこれほど深い満足感があるのかが納得できます。名店の味と技術と心を受け継いだ「酒亭湯澤」が名店と呼ばれる日は間違いなくすぐそこに!

※価格はすべて税込

文:高橋綾子
写真:松園多聞

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