フランス料理の魅力
ラーメン、カレーなどカジュアルなジャンルが中心だった「食べログ 百名店」。今年になってイタリアン、フレンチ、日本料理といった高価格帯のジャンルも加わりますます充実してきた。
2021年3月に初めて発表された「食べログ フレンチ 百名店」は、なかなか行けない名店揃いだが、フレンチ好きなら誰もが一度は訪れたいと願うはず! 細やかなおもてなしと美しい料理で、特別感を演出してくれるのがフランス料理の魅力ともいえるだろう。今年の百名店の注目店と、これからのレストランの可能性を『東京最高のレストラン』編集長の大木淳夫さんに教えてもらった。
教えてくれる人
大木淳夫
「東京最高のレストラン」編集長
1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本「東京最高のレストラン」編集長を2001年の創刊より20年に渡り務めている。その他の編集作品に「堀江貴文 VS.外食の革命的経営者」(堀江貴文)、「新時代の江戸前鮨がわかる本」(早川光)、「にっぽん氷の図鑑」(原田泉)、「東京とんかつ会議」(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、「一食入魂」(小山薫堂)、「いまどき真っ当な料理店」(田中康夫)など。
好きなジャンルは鮨とフレンチ。現在は、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。
特別感を味わえる華やかな空間
フランス料理こそが、日本のレストラン文化を守っているのではないか? 2021年に選出された店名を眺めながらつくづく思う。極めて真っ当な100店だ。どの店を思い返しても、オーナー含め、スタッフが誇りを持って働いている姿が目に浮かぶ。
例えば高い点数を誇る「カンテサンス」。過日訪れた際には、何よりも着飾ったゲストたちのうれしそうな笑顔が印象的だった。
このカンテサンスをはじめ、上位には堂々たるグランメゾン(いわゆる格式の高い高級レストラン)が並ぶ。そう、寿司を筆頭に数多の高級店が残念ながら平準化していく中、フランス料理は“ハレの場”としての地位を保っている。なにより、調理に気の遠くなるような過程と高い技術を必要とされる料理、徹底的に機微と知識が求められるサービスの質の高さから来る誇りが、レストランという空間に“結界”を張り、非日常の場を演出し続けているからであろう。
カウンターとナチュラルワインが全盛の世にあって、ゲストにもある種の緊張感が求められるレストランが高い評価を得ているのは、人々がまだまだ華やかな特別感を求めている証拠だと感じている。
名店の存在感と個性
個別にみると、何より老舗の活躍ぶりはうれしい限りだ。特に「コート ドール」「北島亭」「ル・マンジュ・トゥー」「ラ・ブランシュ」「ル・ブルギニオン」は、私が編集している「東京最高のレストラン」で、20年前(2001年)の創刊時にもベストテンにランキングしている。 “10年持てば奇跡”といわれる業界にあって、これほど長きに渡って客の心を惹きつけていることに、心から敬意を表したい。
いずれも強烈な個性を持った生き字引のようなシェフが、心血を注いで一皿一皿を作り上げている料理店だ。しかも、何ヶ月も先まで予約が取れないわけではない。東京の誇りともいうべきこれらの名店に必ず一度は訪れてみて欲しい。きっと一度では終わらないけれど。
また、世界的に料理人の社会貢献が注目される中、「カンテサンス」岸田周三シェフ、「シンシア」石井真介シェフをはじめ、フレンチの料理人が環境問題などに対し、数多く声をあげていることにも、フランス料理業界の意識の高さがうかがえる。
おいしさはいうまでもないが、今後はレストランがどのように考え、行動しているのかも、店選びの際の大きな基準になるであろう。
レストランにある無限の可能性
一方で、フレンチは自由な個性の塊でもある。“朝ディナー”が話題の「sio」、骨太なジビエ料理とセンスあふれる内装を融合させた「ラチュレ」、クラシックなワインと料理の良さを再認識させてくれた「au deco」、ノンアルペアリングに新しい境地を開いた「アルゴリズム」などは、レストランには無限の可能性がまだまだあるんだとワクワクさせてくれた。
フレンチ受難の時代ともいわれているが、この価格帯で舌も心も満足させてくれるなんて、とんでもなく凄いことだ。ぜひとも味わってみていただきたい。