ファッション誌『mina』や『SPRiNG』などで活躍するモデルでありながら、豪快な飲み方がなんとも男らしい! お酒好きを公言するモデル・村田倫子が、気になる飲み屋をパトロールする連載。「同世代の人にもっと外食、外飲みを楽しんで欲しい!」と願いを込めてお送りする連載19回目は、東京・恵比寿の「小泉料理店」をパトロールします。

呑み屋パトロール vol.19「お手軽フレンチコースとワインにメロメロの巻」

JR恵比寿駅から少し歩いた通りの一角に、以前から気になるお店があった。お洒落な外観、ガラス窓の外から覗くだけで伝わってくる感じの良さそうな店内の雰囲気。なんだかお客さんたちも洒落ている……。通りすがるたびに気になっていた一軒に、今夜ついに足を踏み入れる。

「小泉料理店」。和風な名前だが、ここでは創作フレンチが気軽に楽しめる。私にとっては少しハードルが高く感じるフレンチも、3,800円〜5,000円の各種おまかせアテコースから6,000円のフルコースまで、カジュアルにコースを選択できる。初訪問の本日は、3,800円のアテコースをチョイス。足りなかったら、アラカルトの追加オーダーしよう。

 

一杯目に「何かおすすめのワインを……」とオーダーすると、ずらりとテーブルに並んだワイン。初めて目にするラベルばかりだ。

「うちでは、農薬を極力使用せずつくられた自然のワインを取り寄せています」と、店主の小泉さん。「ナチュラルに」というお店のコンセプトどおり、ほっと落ち着く店内の空間。私も肩の力を抜いて「小泉料理店」のおもてなしに身を委ねる。

 

私はワインの銘柄やら年代やら、ちっとも詳しくないので、選ぶときはお店の推しメンの中から直感で選ぶことにしている。良いお店には、その料理の味を一層引き立たせるお酒が常備されているものだ。お店ごとにワインの新たな発見があるのも楽しみのひとつ。(深く酔いしれた翌朝には、銘柄を忘れがちなので写真を撮るのもお約束)

1杯目と2杯目は、ラベルで一目惚れしたオーストリア産の白「Pittnauer Pitt Nat Blanc(ピットナウアー ピット・ナット ブラン)」と、オレンジワインという物珍しさに惹かれたフランス産の「Les Sabots d’Hélène Anticonstitutionnellement(レ・サボ・デレーヌ アンチコンスティトゥショネルマン)」を。

ワインとともに運ばれてきたのは、「フランス産のそら豆」。私が知っている市販のそら豆よりふた回りは小ぶりな身。しかも、皮ごと食べられるらしい。口に頬張った瞬間のフレッシュな弾力、絶妙な塩気。そら豆と枝豆のいいとこどりをしたような逸材ではないか! これは、どこで買えるのか……我が家の冷蔵庫に常にストックしておきたい。

卓上を彩るオードブルの盛り合わせ。奥から時計回りに「水茄子と特製の塩辛」「ケールのおひたし」「トリレバーの赤ワイン煮込みとバルサミコで炊いたごぼう」「焼きなすと山葵のソースが添えられた炙り魚のカルパッチョ」「さくらえびとダイコン」「キャベツ、ショウガ、クミンのピクルス」「無花果のブリアサバラン添え」……と洒落たラインアップがぐるり。

料理に使用される食材は、青山で開催されるファーマーズマーケットから仕入れており、生産者の食材への思いが軸となっている。そのため、お店にも毎日何が届くかは分からない。その日仕入れた顔ぶれをみて、その子たちをドレスアップするライブ感溢れる料理。来るたびに出会いがあるのは嬉しい。

スパイスをアクセントにしたり、ダイコンにフランボワーズの香りをまとわせたり……普段とは違うあの子の一面にドキドキが止まらない。野菜の甘味、お肉の旨味、果物の色気……、ちょっと苦手だった食材のクセも今夜は愛おしく思える。フレンチ、和食、中華と多種の調理経験を持つ小泉さんならではの技だ。

素材と感性と技量の調和が心地よくて、おいしくて、前菜から目尻は下がりっぱなし。なんだか生き生きしている……と感じたのは、ここに秘密があったのね。

オードブルの盛り合わせのプレートにひとつ空いていた余白。少し間をおいて、ほかほかな人気者がやってきた。小泉料理店の看板娘、「鴨ハツのシュウマイ」。出来立てほやほや、この子が一番艶やかなときに、するっと口に滑り込ませる。

すぐさまハツの旨味がドドドッと押し寄せて、口内は幸せの嵐……。舌先に残った余韻を反芻しながら、愛しのシュウマイを名残惜しむ。(10個は余裕でいけるな、これ)

さて、いよいよ残すところはメインディッシュ。深い青に浮かぶ綺麗な赤身の「エゾシカ」のグリル。

荒々しいほど肉厚な身。しなやかで、甘くて、強い。どこかフェミニンな要素を兼ね揃えた中性的な旨味は、私の胃袋をぎゅっと掴みすっかりメロメロ。

食べるのがもったいなくて、グレイビーソース、粗塩、フレッシュニラのソースを交互にディップしながら、メインディッシュに合わせたフランス産赤ワイン「Vini Viti Vinci Bourgogne Coulanges La Vineuse(ヴィニ・ヴィティ・ヴィンチ ブルゴーニュ クランジュ・ラ・ヴィヌーズ)」で、ゆったりとハーモニーを楽しむ。

メインのお肉も旬や仕入れによって、顔ぶれが変わるそう。ラム、豚、鴨、そしてロバなど……。訪れるたびに、前菜からメインまで初めまして。次は、どんな出会いがあるだろう……と、すでに再訪に思いを馳せてしまう。

店が、料理が、人が、健やかに呼吸をしていて心地よい。見つけてしまったなぁ、恵比寿の憩いの場。

 

 

文:村田倫子